【マネジメント】インテルで学んだグローバルリーダーシップ論 第4回:これからのリーダーに一番必要な、振り返り力

今注目を集めている、マネジメントコーチ(経営者コーチ)。 グローバル企業のインテル在社(21年)中は、オペレーション部門全般(管理/経理/予算)から、技術標準・新規事業開発など幅広く15以上の職務を歴任され、現在は複数の企業やエグゼクティブのマネジメントコーチとして活動される板越正彦さんによる連載です。

本記事は新しい働き方ぜんぶがわかるメディア「ビジネスノマドジャーナル」さんの提供で配信しています。

これからのリーダーに一番必要な、振り返り力

これからのリーダーに一番必要な、振り返り力

前回、インテルでも上級エグゼクティブにはコーチがつくことについて触れました。インテルでは、より上のポジションにつく前に、徹底的に「振り返り力」を鍛えられ、リーダーとしてふさわしくない行動を修正されます。今回は、その理由と効果についてお話しします。

グローバル企業における、成果主義の勝者にありがちなもの

グローバル企業では、成果を出さない人はもちろん退職させられますし、昇格による給料や権限も非常に差が出ます。プレーヤーとして 優秀な人ほど勝利への執着心や負けず嫌いの努力で、スピード昇進していくため、成果を出していく人たちの基本となるコミュニケーション能力や事務処理・分析能力は異様に高いです。しかし、それゆえに自分のやり方に対する自信とプライドが高くなりすぎて、自分の悪い行動を素直に認めて修正することが難しくなります。

成功した人は、自分の強みを過大評価する一方で、弱みを過小評価し、得意分野の領域でのみ他人と比較して、相手の方が劣っていると思い込みます。例えば自分の思う通りに部下が動かなかったり、見当違いの意見を言われたりすると、「違う。違う」、「なんでわからないんだ?」、「前に言っただろ」と、イライラして納得できないのです。

他人の評価を受けいれる力。振り返り力とは

しかし、プレーヤーとして成果を出してきた人が、さらに次のステージ、つまり「次のリーダーを育てる」などの段階にレベルアップするためには、それまでとは異なる行動が必要になります。自分が頑張るということに加えて、知らず知らずに行っている「リーダーとしてふさわしくない行動」に気づかなければなりません。

米国では、ガバナンスの観点から、違う意見に耳をかたむけ、否定されたからといって激怒して批判をしないスキルを身に着けないとCEOなどのポジションになるのが難しくなっています。そこで取締役会などが、候補者にエグゼクティブコーチをつけて、リーダーらしくない振る舞いや、行動を直させるんですね。人の言うことを聞かなかったり、破壊的なコメントをするなどのクセを直さないと、社員が現場の課題を意図的に隠してしまうこともあるからです。

リーダーは、他人から見えている自分の姿にも、多少なりとも正しい部分があると感じることが必要です。そうして、部下や周りの評価を受けいれ、素早く行動修正できれば、大きな間違いをする(地雷を踏む)リスクが減り、組織のモチベーションも上がります。傾聴や感謝で、まず信頼関係を築き、あの人を応援したいと思ってもらわないと、リーダーがいくらビジョンを語っても動かないのです。

部下・周りから評価されるということ

インテルでも取り入れている360度評価、上司や部下・同僚や一緒に仕事をした経験のある他部署の人などの複数の評価者による評価方法です。この360度評価を部下からもらうと、その内容に、最初は愕然とします。「おれは、こんなに気をつかっているのに」、「何回も説明しているのになんでわからないんだ」と。

こうした機会に初めて気づくのですが、リーダー本人の行動とまわりが認識しているギャップは非常に大きいことが多い。このギャップを正確に、中立的な目でみることが必要になります。いわば、フィギュアスケートで自分では3回転回っているつもりでも、画像でみせてあげると実は2回転であったことがわかるように、中立かつ客観的にギャップを認識しなくてはいけません。

組織では上に行けば行くほど周囲から良い情報ばかり入るようになり、周囲も真実を伝えにくくなります。周囲がイエスマンばかりになると組織としては危険です。だからこそ批判的な意見を伝えてくれる人、否定的な情報も大切にすべきなのです。

ある本部長は、ワン・オン・ワンという1対1のミーティングで、いつも自分が話す時間が9割だったのを、周りの声を実際に聞くまで気づいていませんでした。それから「常に60%の時間は相手のいうことを聞く」や、「怒っているときには話さない。」などを約束すると宣言して、そういう行動をみつけたら注意してほしいと部長会議で伝えました。また、自分では怒っていない、語気が荒い程度のつもりでも、周囲としては彼が怒っているように感じていることもあります。

「頷いてるけどわかってない」状態。立場が違うと思いが違う。

また、リーダーになると、「どうも言っていることが伝わらないなあ。みんな頷いているんだけど」と感じる機会も増えます。それは、立場がちがうということを理解できていないからです。

「ビジョンが浸透しない」、「現場から能動的に意見がでてこない」などの不満を抱えているリーダーの話をよく聞きます。しかし、どこまで理解できているのか確かめながら話さないと伝わりません。「これは、あなたにとってどういう意味なの。どうすればあなたは貢献できると思う?」など、誤解しようのないレベルまで掘り下げて、向こうの意見や感じたことを確認してみないと、100万回伝えてもうまく伝わりません。

特に、リーダーが信頼されていない場合には、このように伝えたいメッセージを相手の理解できる言葉にする必要が有ります。なぜ、このような理解力のギャップがうまれるかというと、情報量と思いが立場によって異なるからです。リーダーは全体をみており、部下が持っていない情報も持っていますが、部下は、共有されていない情報があり、自分の立場しか見ていません。このギャップは想像以上に大きいのです。リーダー自身から心を開いて部下に歩み寄っていかないと、部下も心を開きません。

リーダー失格の烙印。失敗は成功のあと、万能感が出てきたときに起きる

私も、20年あまりのインテル人生の中で、2度ほどリーダー失格と評価されたことがあります。一度目は、米国勤務から帰国し、インテルの部署で実績を積み上げ肩書をもらえて頭でっかちになっていた時です。チームが仲良く仕事をできるようなケアを一切せず、成果主義だけに走った私は、優秀な社員をやめさせてしまい、チームを壊してしまいました。 失敗は昇進や成功のあと、傲慢さや自分の万能感が出てきたときに起きるのですが、その時は気づきませんでした。 「なりたくてなる天狗はいない」といいますが、その通りですね。

当時の私はというと、状況を打開するために、部下たちに積極的に声をかけるようになりました。チームの輪を第一に、無理強いはしないようにしていったことが実を結び、その後はなんとか信頼度が上がっていきました。そうして1度目の失敗を乗り越えていきました。

しかし、また10年後に、昇進や社長賞などをもらって天狗になると、2度目の同じ失敗が待ちかまえていました。インテルの部下からの360度評価は、80点以上が合格となります。私はシニアリーダーとなったある年の360度評価で、インテル10万人の社員の中のシニアリーダー約3千人の中で、最低の5%にはいるほどの低いスコアになりました。このレベルの得点はリーダー失格の烙印に近く、即退職勧告でも不思議ではありません。
いったい何が問題なのか、本を読んだりセミナーに出たりと、色々試みましたが、効果はいまひとつでした。自分ではこんなに気を使って、BBQパーティや部内表彰、ビジョンの説明などをやっているのに、部下からは「サポートされていない」、「ビジョンが明確ではない」、「キャリア支援されていない」という評価でした。非常にショックで、夜眠れないほど腹がたちましたが、良い解決策が見つかりませんでした。

そうして悩んでいると、そのときの上司が、「俺もそうだったんだよ。簡単にはいかないけど、じっくり2年ぐらいかけるつもりで直していけばいいよ。」と、言ってくれました。この言葉に助けられました。落ち着いて、自分で直せるものならば直してみようと考えました。その時に、前回のエグゼクティブの思い出から、コーチングを受けてみようと考えたのですが、むしろ自分がコーチになった方が早いと思いコーチングの資格を取ることにしました。これがターニングポイントでした。

成功体験からの驕りに要注意。振り返りにより気づいたこと

360度評価の低い結果を受けて、部下のタイプ別に指導の仕方を変え、マイクロマネジメントをやめるようにしました。実は、私もそれまではかなり細かいマイクロマネジメントをしていました。

また秘書の人にも相談してみました。「ビジョンも話してるんだけどなあ」、「バーベキューとか、歓迎会もしてるんだけどなあ」、私がブツブツ言っていると、「月に1回、月次報告会をして、会社や部の状況をちゃんと話しましょう。」「部員の誕生会を毎月しましょう。」など、具体的なアイデアが出てきました。そしてそれを少しずつ続けていくと、部下の評価も、チームの雰囲気も良くなってきました。自分で考えていても、見えていない部分があるのです。

その結果、部下からの多面評価は徐々に改善されて、1年でスコアは約100%アップしました。100点満点で40点が80点になった感じです。自己分析すると 自分自身が過去のスパルタ上司から受けた経験と、これまでの成功体験による驕りがあったのですね。自分がそれまで評価していなかった人にも我慢強く、よいところを見付けてタイプ別に対処するようにしました。

最終的には「こんなに笑う人だったんですね」と言われるようにもなりましたし、部門を異動する際に大変感謝されるまでになりました。

容易ではないプレーヤーからマネジメントへのステップ

今回は筆者のインテルでの経験を基に、それまで成果主義で評価を受けてきたプレーヤーからマネジメント、組織のリーダーへと自己変革していった経緯についてお話ししました。当然ですが、プレーヤーからマネジメントには大きなギャップがあり、プレーヤーとして成功した人がマネジメントとしてそのまま成功するとはいえず、むしろその成功体験が足かせとなる場合があります。

プレーヤーとして成果を上げてきたからこそ、自身の成功体験をもとに、自分のやり方を押し付け、マイクロマネジメントに陥りがちです。しかしそれでは本当の組織マネジメントはできません、形ばかりの組織ができたとしても、いつかは壁に突き当たります。

他人の評価を受け入れ、自分には見えていない点を認識し、立場の違いを考慮したコミュニケーションをとる、これらは言われると簡単にみえることに思えます。しかし、実際にこれらを実践できているリーダーは多くはありません。

インテルでは、上司や評価システムで、それらに気付き、修正する機会が与えられています。しかし、ベンチャー企業のマネジメント層やたたき上げの経営者には、これらのリーダーとして育成される機会が与えられていません、失敗してから学んでいくしかありません、悪くするとそのまま組織崩壊や事業の停滞へとつながります。だからこそ、リーダー育成の機会やコーチングが重要になってくるのです。


次回は、振り返りとコーチングによって気づき、変わっていった具体例とそのステップをもう少し詳しく話したいと思います。
(次回へ続く。本連載は週1回の更新を予定しています。)

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