【マネジメント】「インテルで学んだグローバルリーダーシップ論」 第7回:ベンチャーでのコーチングが効果的な理由

これまでインテルでの経験と、大企業でのリーダーのコーチングの具体例についてお話ししました。今回からは、ベンチャーでのコーチングの事例についてご紹介します。ベンチャー向けのコーチングで、いつも感じるのは、ベンチャー創業期の人材は、問題意識・質問のレベルが非常に高く、経営陣には、同世代で最高の人材が集まっていることです。 一方で、ベンチャーでは組織の拡張に応じて入ってくる人材とのスキルやメンタリティのギャップが生まれやすいとも言えます。さらに、成長期のベンチャーでは、商品開発や技術力のみが注力されて、組織力、社内のインフラ作りが後回しになりがちです。リーダーが、こういった違和感に素早く気づいて、意図をもって対話法で質問しながら、言語化してギャップを埋めていかないと、画一的なやり方では対応できないのです。

本記事は新しい働き方ぜんぶがわかるメディア「ビジネスノマドジャーナル」さんの提供で配信しています。

ベンチャー創業期の質の高い人材、チーム拡大に伴って訪れる危機

起業してベンチャーで働いている人たちは、すでにリスクをとって起業して、ビジネスモデルとキャッシュポイントを考えて行動する強い意志と行動力を持ち合わせています。

これまで多くのベンチャー経営層をみてきて、彼らの特徴として、同世代の就活している若者と比べ、以下の5点について卓越している傾向にあります。

1.行動力・実行力がある
2.目標の高さ、到達するべき点を高く設定している
3.意志の強さ。ゆるぎない信念をもっている
4.考え方の柔軟さ。(いい意味で)普通ではない考え方ができる
5.モチベーションの高さとそれを維持し続けている

経営陣と同様に、チームにも地頭のよさと事業への執着心の強い人ばかりが集まればよいのですが、組織の拡張に応じて、どうしても(経営陣と比較すると)普通の人やスローな人が混じってしまいます。

すると、創業期の経営陣からすると、自分と比べてスピードが遅く、アウトプットが不十分と感じることがあります。ベンチャーの拡大期には、そのプレッシャーを受けてやめてしまう人や、つぶれる人が出て、結果として組織がなりたたなくなるケースが多くあります。

インフラ作りがあとまわしになると、成長期のボトルネックに

特に、成長期のベンチャーでは、商品開発や技術力のみが注力されて、組織力、社内のインフラ作りが後回しになりがちです。

インフラ作りがあとまわしになると、今度は成長期のボトルネックになり、組織構造の歪み、社員同士の好き嫌い、情報共有の不足、信頼関係などが、商品開発のスピードに影響してくるのです。こういったところに、第三者であるコーチが入ることに意味があります。コーチが、社員の不満・希望などを吸い上げ、共感しながらCEOに課題をまとめて、対策を立てていくことができるのです。

組織フェーズの変化に伴い、変化するコミュニケーションの頻度と内容

組織フェーズ(小さい集団から大きく・複雑になる場合)の段階において、必要なコミュニケーション頻度と内容は変化していきます。これは組織内のチームメンバーの成熟度と、役割の権限移譲の進捗度に応じて変わっていくからです。

また、会社のビジネスモデル(先端的な製品開発なのか、PDCAを早く回すことが大事な人材紹介ビジネスやWEB受託なのか)によっても、人材に要求される質が違ってきます。

いずれにせよ、チーム内での問題共有、タイプ別への相手の気の使い方、新人の育成の仕組み、リーダーの意思決定迅速化・自信増強などへの必要性を認識し、仕組みで解決することにより、営業成績とチームワークがあがっていくことは確実です。

また、スタッフのタイプ別に、指示や励ましのコミュニケーションのスタイルを変えたり、モチベーションをあげる評価の仕組みをつくることで、組織の一体感をあげていくことが可能です。例えば、インターンや新人などの人材育成では、個人のタイプ、習熟度に応じて、誤解しようのない作業タスクのレベルまで落として、リーダーの側から確認して、自信をつけさせることが重要です。

そうでないと、「退職率が減らない」、「リーダーがメンバーに気を遣いすぎてスピードが落ちる」、「リーダーが自分の悪い行動(怒る、人の言うことを聞かないなど)を変革せず、また戻ってしまう」といったよくない状況に陥ります。

私も、コーチングの際に一番気を付けているのは、できないことよりも、各自のできる強みにフォーカスして自信をつけさせることです。チーム力を上げるには、メンバーを家族と思えるほど相手に関心を持ってもらうことが、遠回りのようで近道です。

リーダーが気付くべき組織の違和感

組織の仕組み・人材育成・自発的現場力などの課題を、もう少し具体的に見ると、社内での対場の違いからくる危機感のギャップや、情報量の格差、ワクワクするビジョンの言語化・伝え方、中途半端な権限移譲などがあります。リーダーが、こういった違和感に素早く気づいて、個別に各自の強み・弱みをに沿って、意図をもって対話法で質問しながら、言語化してギャップを埋めていかないと、画一的なやり方では対応できません。

解決方法の一つとして、例えば会社と個人の行動について、Keep(強み)、Improve(改善する)、Wish(ワクワクするビジョン)をポストイットで各自貼ってもらって、それにほかのメンバーがコメントしていくといったことも効果的です。Aさんが気づいていない彼の(彼女の)良い部分などを、みんなで再確認するのです。頭で考えることが明文化されてはっきりして、会社として足りないこと、手をつけていないことが話し合えます。

問題が複雑に、変化が速く、競争が激しくなればなるほど、仕事へのコミットメントと同時に、個人の価値観が仕事のそれと合致していることも求められるからです。

重傷になる前にケアする

このように悪い情報や問題の兆しを、リーダーと早期に共有することで、大きな問題になる前に対処することができます。怪我のうちに応急処置をして、悩みを聞き、すぐに部下にヒーリングや面談などで対処することで、退職や休職などの「重傷」になるのを防げます。
経営層や社員にコーチングしてから約1年で、問題を発見して素早くケアするようにしてから、離職率がゼロになったケースもあります。
創業期のベンチャーは、仕事が雑多で、非常にみんなが忙しくて、人間関係やコミュニケーションなどの小さな問題の芽を見逃しがちです。そういった時に第三者であるコーチが、客観的な視点を与えて、早期に対処することで、防ぐことができるのです。

理系で「オタク」の時代が来たからこそ、アナログのコミュニケーションが重要に

30年前に、私が卒業したこところの就活では、体育会系のリーダーや主務が、元気があって、気配りができ、地頭がつよい学生としてもとめられていました。就職先としてのその頃の1番人気は、東京海上火災や、住友銀行、マスコミなどでした。営業などで、お客に好かれる気配り力、人間力が評価されていたからです。

一方で、最近の若いベンチャーの経営層をみていると、理系でオタクで、空気を読まずに、真理を追究するハッカータイプが増えているような気がします。デジタルとクラウドの進化により、対面でお客に気に入れられるよりも、データを分析することで、微妙なすりあわせや嗜好のアルゴリズムを、公式化できるスキルが、評価されるようになっています。

デジタル機器を使いこなすのが当たり前のこの世代は、アナログなやりとりを苦手としがちで、彼らがチームでのリーダーになった際に、チャレンジとなっているのがコミュニケーションです。

立場がちがうと思いが違う。リーダーと部下のギャップ

「どうも言っていることが伝わらないんだよね。なんか、皆フンフンといっているんだけど。」と不満を話すベンチャーのCEOがいました。

なぜ伝わらないか?それは、立場がちがうからです。リーダーのビジョンが浸透しない、現場から能動的に意見がでてこないなどの不満を抱えているリーダーの話は非常に多いです。伝えるために、わかりやすい話で、何回も話すといったやり方はよく本にでていますが、どこまで理解できているのか一つ一つ確かめながら話さないと伝わらないのです。

「これは、あなたにとってどういう意味なの。どうすればあなたが貢献できると思う?」など、誤解しようのないレベルまで掘り下げて話してみないと、100万回、「顧客が大事」とつたえてもつたわらないでしょう。特に、リーダーが信頼されていない場合には。

リーダーは全体をみています。部下は、共有されていない情報があり、自分の立場の関係が不安です。このギャップは想像以上に大きいのです。リーダー自身から部下に歩み寄っていかないとなにも変わらない。そのポイントを気づかせてくれるのがコーチなのです。

「バカヤロー、でも俺はお前のことを考えてるんだよ」では伝わらない 

もうすこし、ギャップの部分を中立的にみることの重要性について話します。

例えば、フィギュアスケート競技のトレーニングでは、自分では3回転をしているつもりでも、2回転でしたよと客観的なデータや画像でみないとわかりません。同様に、メンバーとの人間関係のなかで、なんとなく気まずくなっているときに、「前の会議で攻撃したためか」「前の発言が刺激したのかな」と考えるものなのですが、自分で思っているのとは別の理由かもしれません。物事は客観的に、中立的に見ておく必要があるのです。

チームの関係の質を高めるには、まず自分のリーダーシップを高めなければいけません。例えば傾聴や感謝など、個人のリーダーシップの質を高めて、あの人を応援したいと思ってもらわないと、リーダーがいくらビジョンを語っても動かないのです。

最初はプロダクトを作るためにメンバーが集まり、チームを作っていくだけであっても、人が増えていくにつれて、ビジョンやミッション、人事制度が必要になってくるのです。

暗黙知・経験値の共有。チームとして成果をあげるには

「個人のモチベーションはあがっても、それが組織力になるのか?」という質問もよくあります。コーチングして、発奮して、やる気はでますが、チームとして成果をあげるには、経験値とスキルが、チーム内で迅速に共有できなければなりません。

例えば、「これぐらいでわかるだろう」という上司からの教え方がなぜ機能しないかについては、タスクレべルまでおとして分析してもらう必要があります。課題を明文化して、本質を分析しながら、なぜそう判断したのか。その判断した背景を要件定義することで経験値を類型化して、共有しやすくします。このように手間がかかりますが、どんな暗黙知も、経験=知識、スキル=評価基準、言葉の選択・ストーリー構成=フローチャート手順と分解することで伝えることが理解しやすくなります。

現在は、引き継ぐべき経験値や暗黙知の境界が複数に広がっていることが、マニュアル作りを難しくしています。同じようなプロセスで単純化して仕事ができた時代には、マニュアルが有効でした。しかし、商品の幅が広がり、競合する分野もかさなり、なによりもあっという間に陳腐化してしまうほどスピードがはやいので、マニュアル作りしても、すぐつかえなくなってしまうのです。

無印良品のようにマニュアルを誤解しようのないレベルで、こまかく改定できるか。GitHubのようにログが残っているたくさんの情報から、タグだけで検索できてそのエキスをつたえられるようにする。インデックスと、検索のインテリジェント化がもとめられます。「社内知識のNAVERまとめ」が不可欠なのです。

次回は、ベンチャーの中で実際に起こった事件の中で、振り返りとコーチングによって気づき変わることができたリーダーの具体例と、それぞれの仕組みやよい質問をタイプ別に詳しく話したいと思います。
(次回へ続く。本連載は週1回の更新を予定しています。)
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