日本が生んだ温故知新の事業承継型起業。人から人へ、想いと事業を承継する(連載第3回)

(連載第3回)0→1起業ではなく、今ある会社を受け継ぐ「ネクストプレナー」による事業承継。これまでの日本にはない新しい起業のスタイルといえるでしょう。本連載では、今なぜ、ネクストプレナーなのか、その背景にある課題とともに、新しい起業スタイルとその働き方を提案しています。

本連載は、書籍『今日から1年後に社長になる方法―今ある会社を継いで、想いと事業を育てる「ネクストプレナー」』(2021年9月発行/著者:河本 和真)の一部を、許可を得て抜粋・再編集し収録しています。

【本記事はこちらの書籍からご紹介しています】今日から1年後に社長になる方法―今ある会社を継いで、想いと事業を育てる「ネクストプレナー」 | 河本和真 |本 | 通販 | Amazon

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■ゼロイチ起業が全部じゃない。今ある会社をつないで育てるネクストプレナーという働き方
■「もっと自分を生かせる場所があるのではないか」とモヤモヤしている方へ
■2025年に迫る「大廃業時代」。ネクストプレナーが日本経済の救世主に

日本に馴染みやすい、温故知新の事業承継

前回の記事では、ネクストプレナーが求められる背景として、日本経済とこれまでの事業承継の課題をお伝えしました。

これまでの事業承継は、親族内承継が中心でした。ただしそのためには、代替わりのちょうど良いタイミングに、次期経営者に適した親族が存在していなくてはなりません。どの企業でもそのようなタイミングに恵まれることは難しく、後継者不在問題に悩む中小企業は少なくありません。

この後継者不在問題を解決するためには、第三者による事業承継(アメリカではサーチファンドと呼ばれている)を日本でも浸透させることが鍵となると考えました。そのためには、日本の文化に溶け込みやすいような工夫をしなくてはなりません。検討を重ねた結果生まれたのが、ネクストプレナーによる事業承継でした。

そこには、単なる企業の買収や0→1起業とは異なる、ネクストプレナーならではの役割があります。そしてその役割こそ、私たち日本人が大切にしてきた考え方でもあります。
ある事業承継のストーリーとともに具体的にお伝えしていきます。

創業明治4年「又一庵」が事業承継を進めるまで

静岡県磐田市に「又一庵」という和菓子店があります。創業は明治4年、140年以上の伝統を持つ老舗和菓子店です。親族間で四代にわたって事業承継をしてこられました。

事業承継の交渉を始めた当時、経営は四代目となる社長が担われていました。和菓子職人としての腕とこだわりを生かして次々と新商品を生み出し、店頭には常にたくさんの種類の和菓子が並んでいました。
一方で、原価管理やマーケティング、利益を考慮した価格設定など、企業として存続していくために必要な要素については手薄となっていることが課題でした。

このままでは債務超過に陥る可能性があり、店の存続が難しくなってしまいます。そこで私たちはM&Aの提案を持ちかけましたが、老舗ののれんを他人に譲ることはできないと、当初はなかなか受け入れてもらえませんでした。
そうこうしているうちにいよいよ債務超過寸前となり、銀行の態度が一変。私たちは四代目にこう尋ねました。「社長にとっていちばん大切なことは何ですか」と。
すると、「この店を残すことだ。自分の代でつぶすわけにはいかない」と答えたのです。そこで初めて、店を残すためにはM&Aという道しかないと気づいていただき、考えを変えてもらうことができました。

そうして又一庵は、同じく静岡県で地域創生コンサル業や地域ブランドの創生を手がけている、株式会社TTC(以下、TTC)という企業に買収されることとなりました。
TTCは商品のブランディングを得意としている企業です。又一庵の伝統や品質は生かしつつ、時代に合ったリブランドや新商品の開発などが進められることとなりました。

若手社員の感性を生かして、リブランド計画は大成功

又一庵のリブランドにあたって、当時TTCの新入社員だった女性がプロデュースを手がけることになりました。その女性社員は、自身の感性を生かして、和菓子を中心にしたカフェの構想を生み出しました。そして、又一庵にちなんで「マタイッコタベタイカフェ」というカフェを開店。これまで又一庵で代々受け継がれてきたきんつばを、カフェ風のスイーツにアレンジしたメニューを開発したのです。

ロゴやパッケージ、Webサイトなどの商品の見せ方も、ターゲットとなる客層を意識したかわいらしいデザインに仕上げました。

既存の和菓子店の概念にとらわれず、新しい発想と豊かな感性を生かしたリブランド計画は大成功を収めました。もちろん、斬新なアイデアだけの力ではなく、原価管理やマーケティングといった経営に欠かせないノウハウが土台となっています。
慢性的な赤字傾向にあった又一庵は順調に売り上げを伸ばし、黒字体質へと回復することができました。
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伝統や思いも受け継ぐ、人から人への事業承継

この又一庵のストーリーは、一個人ではなくTTCという企業の実績もあっての成功事例ではありますが、担当した新入社員の女性はまさにネクストプレナーとして活躍したといえるでしょう。
外部の人であれば誰でもできたというわけではありません。彼女の感性と熱意があったからこそ実現したストーリーなのです。ネクストプレナーとして力を発揮するためには、経験年数や実績、学歴などといった表面的な要素はあまり関係しないと私たちは考えています。
実際に、サーチファンドの文化が日本より浸透しているアメリカでは、様々な経歴を持った人がサーチャーとして活躍しています。

ネクストプレナーは、その企業がそれまで大切にしてきた財産をうまく活用することで新たな付加価値を生み出し、企業価値を増大させる存在です。財産には、事業内容や資産だけでなく、従業員、クライアント、地域との関わりなど、様々なものが含まれます。

温故知新の心を大切にし、人から人へとその思いも一緒に承継するのがネクストプレナーです。だからこそ、それまでの経営者も安心して事業を受け渡すことができるのです。この点が0→1起業や従来のM&Aと大きく異なる特徴の一つです。

【本記事はこちらの書籍からご紹介しています】今日から1年後に社長になる方法―今ある会社を継いで、想いと事業を育てる「ネクストプレナー」

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■ゼロイチ起業が全部じゃない。今ある会社をつないで育てるネクストプレナーという働き方
■「もっと自分を生かせる場所があるのではないか」とモヤモヤしている方へ
■2025年に迫る「大廃業時代」。ネクストプレナーが日本経済の救世主に
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