小室淑恵「残業ゼロの実践で生まれる問題」(連載3回)

【第3回】少子高齢化が進む中、日本社会全体の労働力不足や企業の生産性低下、それに伴う日本人の働き方の見直しが急務となっている。この課題に国や企業はどう対峙していけばよいのか? その課題解決の糸口を探るため、多くの企業や組織にワーク・ライフバランスに関するコンサルティングを提供する株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵氏にお話をうかがいました。

本連載のインタビュアーは、森戸裕一さん(JASISA/一般社団法人 日本中小企業情報化支援協議会)に担当いただきました。

本業に真剣に取り組んでいるなら、副業している余裕はないはず

森戸:サイボウズさんなどは、会社以外の副業をどんどんやりなさいと副業推進を行っていますが、副業をすることについてはどうお考えですか?

小室:これは本当に多くの企業が考えていく必要がある課題ですね。副業についてはこんなエピソードがあります。

私が2年前に新潟で講演した時、地元のとても小さな企業の社長さんが感動し過ぎて、その場で「うちも明日から残業をゼロにする!」と社員に宣言してしまったんです(笑)。そして先日その社長さんに2年振りにお会いしたら「うちはこの2年で、ついに残業ゼロを達成しました」と。「でも想定外のことが起こって困っているんです」と言うんです。聞くと、社員が副業したいと言い出して困っていると。
どの会社でも残業ゼロを実践すると、往々にしてそういう問題が出てくるようです。
その原因は主に二つあります。
一つは「残業がなくなって収入が減ってしまったから副業したい」という発想。もう一つは「労働時間が短くなった分、自分自身の成長感がなくなった。もっと自分を成長させたい」という発想です。

まず「収入が減った」という社員に対しては、残業を減らして生産性は上がっているわけなので、会社としてベースアップを図るなど、以前よりも高い水準でしっかり報酬を支払うべきです。
残業を減らしたことで、いい人材が定着して高い生産性で業績を上げることができた。会社としてはそれが最大の成果なので、残業代を削減したという細かい成果がもともとの狙いではないんですよ、というところを認識することがまず大事だと思います。

次に二つ目の成長感の欠如の話ですが、労働時間という負荷をかけないと自分は成長していないような気がする、という人が特に若い人にはたくさんいます。何か空白の時間が生まれてしまうと、そこが自分の停滞時間だと思ってしまうのです。
でも本当は、限られた労働時間内で成果を出して、そこで生み出した余分な時間をどう使い、そこで自分がどう成長するかが重要です。
また、その時間をどう使うかについて上司と本人の間でコミュニケーションがきちんととれていないと、会社が望まない方向の副業に走っていくことが多い。もしくは、ただ飲みに行くだけ、パチンコするだけという人が増えてしまいます。
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大事なのは、上司が部下に対する期待感を明確に示すことです。
つまり「私があなたの10年、20年先のキャリアについてどういう期待を持っているか。あなたを6時に帰すのはより成長してほしいからであり、その時間を自己研鑚や人脈をつくることに使ってほしいからだ」ということをはっきり伝える。
そうした会社側の期待感を本人が自覚できるような企業の社員は、退社後の時間を暇だとは思わず、逆にやらなければいけないことが山積みだ、と思うようになるのです。

そうした合意がきちんと取れている企業にいて副業している人は、やはり自分の本業に対してプラスの効果を与える選択をしています。
「この仕事だけをしていたのではこういうことが分からなくなるから、別の仕事をやることによって本業でもより成果を出そう」とか「この仕事(本業)で定年までちゃんと働きたいと思っているからこそ、定年後の準備をしっかりしておこう」といった発想です。

つまり、副業をするかどうかが問題なのではなくて、副業というものが会社にとって、または自分にとってプラスとなるのか、翌日疲れて会社に来て仕事にならないというマイナスの形になってしまうのか、というところが重要なんです。

副業OKかどうかが問題ではない

森戸:そうですね。あとは「副業をOKにしたのはいいけれど、就業時間中にあいつ別のことやってるよね、というのが何となく周囲に分かると、チームとしての雰囲気が悪くなる」という話もよく聞きますね。

小室:周りに悪影響を与えないというのは最低限守るべきルールですよね。本業にコミットしている余裕がなくなる、気が散ってくるというのは非常にまずい状況です。

ちなみに弊社は創業した時からずっと副業可なんですが、未だに副業をしている人はいません。8時間(一日の基本終業時間)で成果を出そうとすると、普通は疲れきって6時以降にこれ以上何か絞り出せと言われても何も出てこない状態になる。それくらいのシビアな時間の使い方をして一分一秒が全力投球なので、必然的に「他に何かをやる」ということができない状況になるんです。
(次回に続く)

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グーテンブック編集部 グーテンブック編集部