小室淑恵「労働時間を減らすと出生率は伸びるか」(連載5回)

【最終回】少子高齢化が進む中、日本社会全体の労働力不足や企業の生産性低下、それに伴う日本人の働き方の見直しが急務となっている。この課題に国や企業はどう対峙していけばよいのか? その課題解決の糸口を探るため、多くの企業や組織にワーク・ライフバランスに関するコンサルティングを提供する株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵氏にお話をうかがいました。

本連載のインタビュアーは、森戸裕一さん(JASISA/一般社団法人 日本中小企業情報化支援協議会)に担当いただきました。

労働時間の短縮が少子化対策になる

森戸:小室さんがこれまで長年にわたって企業のコンサルティングをされてきて感じる、働き方が変わったことによる〝業績や生産性のアップ〟以外の成果とは何ですか?

小室:私たちがこれまでコンサルティングをやってきた企業さんで如実に出てきた成果としては、「労働時間を減らした企業では、出生率が伸びる」ということです。
こんなことを言うと驚かれるかもしれませんが、これはデータ的な裏付けもあるので確信を持って言えることです。
国はそのあたりの統計を取っていませんし、そもそもそういった観点も持っていないので、国の白書などからはそうしたデータは出てこないと思いますが、私たちがコンサルティングした結果では、明らかなデータが出ていますし、最近はこれがこの国の少子化解決策につながるのでは、と感じています。
労働時間の短縮によって企業内出生率が上がるわけですから、これを国規模でやれば国としての出生率も上がってきて、経済を上向かせることもできるはずです。
働く時間を減らすことと経済を上向かせることは相反するように思っている人も多いでしょうが、労働時間に上限を設けると業績も上がって出生率も上がるということが明確に実証できている。
そこで私も最近政府に対して、これは国の枠組みとして真剣に考えたほうがいいですよ、という働きかけをしているんです。
それもあるのか、去年くらいからの政府の少子化対策に対する姿勢が驚くほど前向きに変わりました。

先日、安倍晋三首相と一対一でお話をした時にも、首相が本当に声を絞り出すように「少子化対策はもっと早くやっておくべきだったよね」とおっしゃったんです。
私も「そうですよ、歴代の厚労相が先送りにしてきたんです」と喉から出かかりましたけれど、やはりこの問題は難しいからどの厚労相も自分の時代にやりたくなかったんでしょうね。
でも、この問題への取り組みは政権が安定している今しかできないのではないでしょうか、と首相に提言してきたのです。
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山から山へ飛び移る勇気が日本を救う

森戸:国も様々な問題を先送りにしていますが、企業も労働環境や働き方に関する多くの問題を先送りにして、なかなか変革の決断をしてくれませんよね。そこを決断させるためにはどういったアプローチの仕方がいいんでしょうか。
小室:やはり人口ボーナスと人口オーナスの話が一番分かりやすいと思います。人口ボーナス期というのは、労働力人口がたくさんいて高齢者が少ない状態、すなわち日本の1970年代の状態です。この状態にある国は必然的に経済成長すると言われています。
一方、人口オーナス期というのは、人口に対する働く人の割合がどんどん低下していくという、まさに少子高齢化が進む今の日本の状態です。
人口動態

人口動態

・一度人口ボーナスが終わると、二度とこない
・日本の人口ボーナス期は90年代に終わり、人口オーナス期へ
日本企業の経営者の方にとって重要なのは、「労働力不足は決して短期的な現象ではなくて、今後より深刻化する。今、対応・決断しなければ、この後にやってくる代償の大きさは計り知れない」ということに気づくかどうかということです。

私はよく、人口ボーナスとオーナスの二つの山の絵を描いて説明するのですが、人口ボーナスの山から人口オーナスの山に移行するには、もはやエイッと飛び移るしか方法がないんです。
その飛び移ることへの不安感というのが大きいので、いつまでも決断できないわけです。だけれども、飛び移らなかった場合に発生するリスクは非常に大きい。

日本にとって、日本の企業にとって、今が飛び移るタイミング、つまり働き方を変えるラストチャンスです。「ちょっとずつ労働時間を減らしていけばいいよね」とか「できる範囲で女性を採用しましょう」などというのんびりしたやり方を続けていたら、そのまま谷底に落ちていってすべて終わりということになります。
日本という国はあと2、3年で団塊ジュニア世代の女性の出産期が終了してしまいます。
そうするとさらに労働力人口が減って、年金の払い手ともらい手のバランスが保てなくなり財政破綻に行き着きます。
財政破綻するということは、日本が他国に買われるということです。中国などに買われるかもしれない。

それを回避できる唯一の望みが、団塊ジュニア世代の女性がどれだけ最後の駆け込み出産をしてくれるかにかかっているんです。
100年後の日本を救うことができるかどうかは、今からの2年間にかかっているわけです。
(本連載は今回で終了です)

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