読み手のニーズは何か?その本を読むことの読者メリットを明確に伝える【出版社をやってみて分かった「本と企画のつくり方」】

【第3回】この連載では、本Webサイト「biblion」も運営している出版社(株式会社masterpeaceと申します)でこれまで100冊ほどの書籍企画・編集・発行をお手伝いさせていただいた筆者(代表兼編集者をやっております)が、自社でお手伝いさせていただいた企画やプロジェクトの経験からお伝えできる範囲で「シンプルな本づくりのポイント」をお話させていただきます。

前回までの記事では、本づくりを成功させるためのポイントとして2つの視点をご紹介しました。
・「何のために本を作るのか(プロジェクトの目的)」を正確に(自分に正直に)確認する
・企画(著者)が一番ユニークになれる切り口を探す
今回の記事では、本づくりの3つのポイントの最後、「読み手のニーズ(欲求)を考える」についてお伝えしたいと思います。

【3】読み手のニーズ(欲求)を考える

前回記事では、書籍企画をユニークなものとするための切り口設定について書きましたが、ユニークでニッチすぎて、読み手が全然いない企画になってしまうと本末転倒です。
本当に読者は存在するのか、イメージしている読者はどういう人なのかを冷静に分析する必要があります。

分析し、読者の存在をしっかりと考えたうえで、「読者により強く手を伸ばしてもらうためのアプローチ」をどう作るかが今回のテーマです。

読み手が本に求める3つの要素

私は、「書籍に読み手が求めること」を大きく下記の3つに分けて考えています。

①ファン
②レファレンス
③レクチャー
1つ目のファン(fun)は、読んで楽しめること。
実用書やビジネス書は少し当てはまらないかもしれませんが、その本を読んでどうこうすることが目的ではなく、読むこと自体がfunになることが求められている本はあると思います。

2つ目のレファレンス(参照)は、「体系立てられた情報を網羅的に得たい」というニーズです。
一番わかりやすい例えが辞書です。ほかにもマニュアル本など、特定のテーマに関する情報や手順が網羅的に詰まっていることが求められます。(この種の本は頭から順番に追いかける読み方よりは、知りたいところを検索して調べるような使い方が中心となるのではないでしょうか)

3つ目のレクチャー(講義)は、その本を読むことで何かを得たり、何かができるようになったりすること。とくに実用書やビジネス書で強く求められることが多いのではないでしょうか。
授業を受けるように、本の頭から順を追って読み、学ぶような読み方がイメージできます。
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「簡単に得られるか(学べるか)どうか」が決め手になる

3つのポイントのなかでも、一般書やビジネス書の場合は、3つ目の「レクチャー」が一番多く求められている気がします。
「この本を読むことで、何かを得られて、何かができるようになる」ことをレクチャーしてもらいたい、という欲求を読者は強く持っています。

さらに、一般的な読者さんの気持ちを想像すると、
【1】知るとすごく役に立つコトを
【2】とっても簡単(時間的に・難易度的に)にさっくりと手に入れられる
ことを本に求める人が多いのではないかと思います。

誤解を恐れずに言うと、読み手は「ずぼら」です。本を読むことで、「効率よく」何かを得たいのです。ここでは、特に【2】の「とっても簡単」が読者にとってより響くファクターとなります。

読者のみなさんは、楽して学んで、役立てたい。
こういった気持に応えて、「1時間でわかる」「サルでもわかる」「一番簡単な」「簡単すぎる」、、といったタイトルの本も多く出版されています。

例えば、こんな本があります。
・『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス 著)
・『東大の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』(西成活裕 著)

この2冊は、2019年5月現在、Amazonの売上ランキングでともに2桁以内に入っていますが、どちらも、「いかにわかりやすいか」ということをとてもよく伝えています。

「役立つこと」を伝える

もちろん、【1】の「すごく役に立つ」も大切です。お金と時間を投資して本を読むので、「これは使える!」「これお得!」と読者に感じてもらえないと、手に取ってさえもらえません。

作り手や著者さんは書籍の内容を知っているため、「この本がどう役に立つのか」が簡単に伝わるように感じてしまいますが、たまたま本をみかけた読者(候補の人)に一瞬でそのメリットを想像させることは容易ではありません。

書籍タイトル・デザイン・他の告知情報を一目見て、「あ、これ使えそう。」と感じさせる必要があるのです。情報を詰め込めばよいというものではありませんし、あまり抽象的に表現してもなかなか伝わりません。

「フックのあるキャッチコピーや強い言葉」で興味関心を引いて、本を手に取ってもらうという方法もありますが、これは「著者自身」「テーマ」に極めて強い力があるときにやるべきことなのではないか、と私は思います。
(例)
『メモの魔力』(著 前田 裕二)
『死ぬこと以外かすり傷』(著 箕輪 厚介)

一般的な企画については妙技ではなく、あくまでわかりやすく王道の企画を考えるほうがよいように感じます。

ここまでを整理すると、
・その本が「どういう人の」「どういうことに」役立つのかを、とってもわかりやすく伝える・見せること(【1】の「すごく役に立つ」を、くどいほどわかりやすく、しっかり伝える)
・そして、それが簡単に、構えなくてもさっくり手に入ることをアピールすること
が、一般的な読者さんのニーズにもマッチすることが多いんじゃないか、と思います。
これは、本だけではなく、プレゼンテーションでも広告施策でもセミナー企画でも学校の授業でも同様かと思います。役に立たないと思って学校に通う人はいなくて、役に立つとしても、「10年修行してください」よりは、「週末だけ」「半年で卒業できますよ」に惹かれる人が大半です。

この考え方は読者さんを軽んじているわけではなく、いかに「わかりやすく伝えるか」をしっかり考えて、できる限り努力することが、情報を発信する側の義務なのではないかと私は考えています。
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Photo credit: Sonia Belviso on Visualhunt.com / CC BY

いかに、わかりやすくてお得なものかを打ち出す

もちろん、ひとつの本の中に、①ファン ②レファレンス ③レクチャー の3つの要素が混ざっていることも多いかと思います。

例えば、「聞くだけで英単語を覚えられる本」が、求めるレベルで必要な単語は網羅されていて(②レファレンス)、楽ちん(③レクチャー)、しかも聞いていて楽しい(①ファン)だと最高ですよね。

ただ、やはり読者は、その本を読むことで得られる投資対効果を見て、お得だと感じられることにこそがお金を出すのだと思いますので、特に「③レクチャー」の要素が重要となります。

最後にまとめましょう。

これまでの3回の連載でお話してきた順番と同様に、私が出版企画を考えるときは、
①「だれに何のために伝えたいのかを考える」(https://biblion.jp/articles/1TJ21
②「それはユニークなものか?を考える」(https://biblion.jp/articles/bvki2
で企画テーマを絞り込んだうえで、
③「いかに、わかりやすくてお得なものであることを読者に伝えるかを考える」
という順番とすることがよくあります。

最後の「わかりやすく」が抜けていると、驚くほど、せっかくのユニークな企画が読まれない(そもそも開いてもらえない)というケースが多く、もったいない結果となってしまいます。

以上、ここまで3つのポイントで出版企画のつくり方を追いかけてきました。

次回からは本づくりに必要な「作業」や「お金」について、ご紹介します。

本づくりをお考えの方は出版サービス「グーテンブック」まで

著者:窪田篤

good.book(グーテンブック)という出版サービスを運営している窪田と申します。
この連載では、もともと編集者でもなかった私が、様々な著者さん・編集者さんとご一緒するなかでわかった範囲で、「本や企画作りのポイント」について簡単にお話させていただきます。(生粋の書籍編集プロの皆様からはお叱りのお言葉をいただく内容もあるかもしれません。門外漢ゆえの、、としてご了承ください。)

弊社の出版サービスは、主に電子・印刷書籍を複数のWeb書店を通じて販売するというものです。大手出版社さんの「全国の書店に書籍を並べて販売する」出版方法とは主に流通面で異なる点は多いのですが、企画の作り方や書籍制作の進め方についてはそこまで大きな違いはないかと思います。

「これから本を作りたい著者さん」あるいは「書籍化したら面白そうなネタがある企画者さん」のご参考となれば幸いです。

尚、弊社の発行企画の傾向から、特に「書くことが好きでただ書きたい!」方よりは、「書籍を作って、人に伝えることでお仕事や様々な目的でなんらかの効果を生み出したい」と考える人のための本づくりを中心にお話させていただきます。

株式会社masterpeace代表取締役社長。アクセンチュア株式会社で大規模システム設計/運用プロジェクトに参画。2013年、good.book(グーテンブック)立ち上げのため、masterpeaceに参画。新規事業企画・コンテンツ編集責任者を兼任。2018年5月より現職。
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