グレタさん、オードリー・タンさん、そして大坂なおみさん。「理不尽なルールを変更する人」は行動を呼びかけている|都市型・利益追求型のゲゼルシャフトだけが強化された社会で求められる行動(連載3回目)

【連載3回目】技術はどんどん進化しているのに、暮らしやすくなったり、日々が豊かになったような気があまりしない……。どうしてだろう? 皆さんはそんな風に感じたことはありませんか? この連載では、いろいろな会社や学校などと共に、より「良く生きる」ためのテクノロジーの活用方法を追求している日本アイ・ビー・エム株式会社のとあるチームの取り組みをご紹介させていただきます。

本記事の原稿は、AIやIoTを活用し、さまざまな企業・組織と協働して社会課題の解決につなげる活動をされている、日本アイ・ビー・エム株式会社の八木橋パチさんに寄稿していただきました。
(グーテンブック編集部)

理不尽なルール。あなたはどうする?

突然ですが、皆さんは理不尽なルールを突きつけられたとき、どうしますか?

1. 「世の中そんなもの。しょうがない」と、納得いかないままにルールに従う
2. 納得がいくようにルールを変更しようとする
3. そんなルールなんて存在しない、あるいは知らない振りをして過ごす

他にもあるかもしれませんが、私の頭にぱっと浮かぶのはこの3つの対処方法です。
これまでの社会では、大多数の人が1番を選んで行動していました。いや、もしかしたら、選ぶことすらなく、無意識のうちにそれを正解として行動しているのかもしれません。

「理由なんていいから目立たないようにした方がいい」とか「いいから黙って上の人間の言うことを聞いておけ」とか、そんな言葉を直接言われたことがある人もいるかもしれませんね。
あるいは、誰も口にはしていないけれど「黙っていろ」というような空気を感じさせられたことがある方もいるのではないでしょうか。
「世の中そんなもの。しょうがない」と考えてルールに従う。
それが最も実りが多く最も被害に会うことが少ないやり方だと、学校でも家でも会社でも社会でも、ずっとそう思わされてきたからではないでしょうか。
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グレタさんとタンさんとなおみさん

なぜこんな話を書いているのかと言えば、ここ数年で「2. 納得がいくようにルールを変更しようとする」人が増えてきているのではないかと、私パチが強く感じているからです。

個人の感覚でしかないので、「それはパチさんの周りだけの話でしょう?」と言われてしまうかもしれません。でも、以前は5%以下だったのが、今ではルールを変更しようとする人が10%くらいにまで増えてきているのではないかと、そんな気がしてならないのです。

さらに年代を10〜30代と限定すれば、ひょっとしたらその割合は15%近くにまで上がっているのではないかという気さえします(ちなみに、私パチは「3. ルールなんて存在しない、あるいは知らない振りをして過ごす」の要素が一番強い人間じゃないかと思います)。

さて、では「ルールを変更しようとしている人」と言えば、皆さんはどんな人の顔が頭に浮かびますか?

…きっと、この3人のうちの誰かの顔が浮かんだという方も少なくないですよね。
グレタ・トゥーンベリさん。オードリー・タンさん。そして大坂なおみさん。
3人とも男性ではないですね(これは偶然でしょうか?)。

グレタ たったひとりのストライキ

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マレーナ・エルンマン、グレタ・トゥーンベリ、羽根 由 (翻訳)(海と月社・2019年)
グレタ・トゥーンベリさんが訴え、行動を起こしたのは、気候危機に対する大人や社会のリーダーたちのアクションを呼びかけるもの

オードリー・タンさんが訴え、行動を起こしたのは、ITを大胆に活用した市民参加型のデジタル民主主義を推進していくこと

大坂なおみさんが訴え、行動を起こしたのは、「黒人の命も大事だ」という #BlackLivesMatter への支援を呼びかけるもの

3人とも、地球環境や民主主義そして基本的人権という、このままにしていたら生きていけなくなる、あるいはますます「生き難さ」が増していってしまうという事柄に、真正面から向き合い、自ら行動を取るだけではなく周囲にもアクションを呼びかけました。
So we can’t save the world by playing by the rules.
Because the rules have to be changed.
Everything needs to change. And it has to start today.

本記事著者の試訳:
ルールを守っていては、世界を救うことはできません。
なぜなら、ルールが変更されなければならないからです。
あらゆるものを変えていかなくてはなりません。今日から。

ゲマインシャフトとゲゼルシャフト

前回記事の最後に「ゲマインシャフトとゲゼルシャフト」という概念のことをチラッと書きました。

ゲマインシャフトとゲゼルシャフトは、社会やコミュニティーを考える際に用いられるもので、対比させることで2タイプの社会の違いを分かりやすく浮かび上がらせることができます。
ゲマインシャフトとゲゼルシャフト

ゲマインシャフトとゲゼルシャフト

上記の図は、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトの違いが特徴的に表れていると思われる点を書き出したものです。

簡単に解説すると、左のゲマインシャフトは、家族や地域社会に代表されるつながりがその価値観の中心にある社会で、その主な目的はメンバーの結束や心地よさです。
一方で右のゲゼルシャフトは、営利事業やお金儲けのために集まった人たちに代表されるつながりで、生産性や効率を向上させることで、その主目的である利潤の追求や戦いに勝つことを達成しようとします。

とはいえ、それほどはっきり明確に分かれるものでも分けられるものでもなく、実際には入り混じっている部分も多いものです。
それでも、大まかな傾向として捉える分にはこの分け方に違和感を感じる人は少ないでしょう。

ゲゼルシャフトが強すぎる社会

私パチの所属しているIBMのCognitive Applications事業のリーダー村澤さんが、以前こう話していました。

「ゲマインシャフトとゲゼルシャフトは対立概念ですが、それでも20世紀の間はどうにかバランスを取って共存できていました。ただ、そのバランスが崩れ、都市型で利益追求型のゲゼルシャフトだけが強くなり過ぎてしまった。一方的に吸い上げられ、循環しない形になってしまっています。
今や、ゲマインシャフトは立ち直れなくなってしまう一歩手前と言ってもよいのではないでしょうか。」

「人びとが『より良き市民』として生き、"より良い生活"を活き活きと営むために、今こそゲゼルシャフトに対抗できるゲマインシャフトの再構築の必要性を見直すべきではないでしょうか。そして同時に、ゲゼルシャフトとゲマインシャフト間の活動を縦横に連携することが重要です。

つまり、『ゲゼルシャフトかゲマインシャフトか』という2元論的な思考から脱却し、もう一度共同体を中心としたゲマインシャフトと機能体を中心としたゲゼルシャフトを共存共栄させることで、人間一人ひとりが持つ様々な異なるデマンドを満たし、生きやすい社会を作り上げるためのサービスの提供が可能となるのではないでしょうか。
そのためのIT基盤の整備を、広く対話を重ねながら作り上げていく必要があると思っています。」
ここ数年、「行き過ぎた資本主義」や「資本主義の限界」などの言葉をよく見聞きするようになりました。

それに対抗する言葉として、「ステークホルダー資本主義」という言葉への注目も高まり始めています(また、現在大ヒット中のベストセラー『人新世の「資本論」』では、現在の資本主義をベースとした暮らしを「帝国的生活様式」という言葉で表していますね。これも根底には同じ問題意識があると言えるのではないでしょうか)。
つまりこれは、「行き過ぎた資本主義」とは「ゲゼルシャフトが過ぎる社会」であって、それがいよいよ限界に突き当たりつつあることを感じている人たちが増え続けていること、そしてそれに対する問題意識が言葉として世の中に溢れ出してきていることを表しているのではないでしょうか。

冒頭に書いた若いリーダーたちは、その意識の変化を言葉だけではなく行動へと変化させ、「もう無理だ!  皆で変えましょう」と皆に呼びかけているんだと思うのです。
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「資本主義の限界」と同時に起きていること

「もう無理だ変えよう!」という声が拡がっているのは、資本主義の限界が近づいているというだけではなく、同時にいくつか他のことが起こっていることもその原因だと私は考えています。
それらをまとめると、以下の3つの事柄になるのではないでしょうか。

1. テクノロジーの進化
2. 経済の変化
3. 価値創造の進化


それでは一体この3つがどんな事象を指しているかと言うと……。
ちょっと長くなったので、続きは次回にしようと思います。

次回予告

1. テクノロジーの進化(かつでは不可能だったものごとが可能な世界に)
2. 経済の変化(社会関係資本や倫理的消費を重視する新しい経済)
3. 価値創造の進化(価値を見出す対象と価値創造方法の変化)

Happy Collaboration!
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