誰もが、もっと自分らしく、しあわせに生きるために。そのテクノロジーは人間に寄り添うものになっているか?(連載9回目)

【連載9回目】技術はどんどん進化しているのに、暮らしやすくなったり、日々が豊かになったような気があまりしない……。どうしてだろう? 皆さんはそんな風に感じたことはありませんか? この連載では、いろいろな会社や学校などと共に、より「良く生きる」ためのテクノロジーの活用方法を追求している日本アイ・ビー・エム株式会社のとあるチームの取り組みをご紹介させていただきます。

本記事の原稿は、AIやIoTを活用し、さまざまな企業・組織と協働して社会課題の解決につなげる活動をされている、日本アイ・ビー・エム株式会社の八木橋パチさんに寄稿していただきました。
(グーテンブック編集部)
この連載が掲載されているオンラインメディア「biblion」の大きな特徴の一つは、障害者雇用や支援祉に関する記事の多さだと私は思っています。
とりわけ障害者支援サービス会社の方たちが、実際の経験を通じて得た学びや提言を社会に発信している記事はあまり他では見かけることがなく、社会の実情を知れるとても貴重なものだと思います。

私自身は障害者雇用に対して直接的な支援を行っているわけではありませんが、具体的に社会や企業がどのような課題を持っていて、それに対してどのような取り組みが行われているかを知ることができることには、大きな意味があると思っています。

なぜなら、なんらかの障害を持つ人たちが、周囲の支援を受けながら自分らしく暮らせる方法がたくさんある社会は、しあわせな社会だと思うから。そしてそれは、今現在は障害がなく過ごしている人にとっても、自分らしく安心して暮らせるであろう社会の在り方を考えさせてくれるからです。

「みんなが自分らしく、しあわせに暮らせる社会」に近づけるように。
今の私にできることは、より多くの人にその取り組みに興味や関心を持ってもらうためのお手伝いをすることなのかなと思っています。

今回は、最近取材した2つの取り組みを紹介します。

Access Blue | 日本IBMの障害者向けインターンシップ・プログラム

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日本アイ・ビー・エムには2014年にスタートした「Access Blue(アクセスブルー)」という障害者向けのインターンシップ・プログラムがあります。

期間が7カ月間という長期にわたること、そして昨年と今年はITツールをフル活用した「完全オンライン」という形態が取られていることなど、おそらくは世界でも類を見ないものではないかと思います。
これまでおよそ200名が参加しており、卒業生のおよそ3割がIBMグループに、それ以外にも多くの卒業生が企業への就職を果たしています。

インターンで実施していただくのは「ビジネス・カリキュラム」と「ITカリキュラム」。
「ビジネス・カリキュラム」では、コミュニケーションとコラボレーション・スキル、仮想提案プロジェクトを通じたチームによる価値創造、実際の業務部門における就業体験(OJT)などを提供しています。

そして「ITカリキュラム」では、プログラミングやWeb開発などの基礎スキル、データサイエンスに関する基礎知識と簡易実習、AIの基礎理解やハンズオン、チームでのアプリ開発プロジェクトなどを通じて実践的にスキルや考え方を身につけていただいています。

認知多様性が拓く未来社会のジャスティス(公正さ)

先日、Access Blueのインターン生に向けて「認知多様性が拓く未来社会のジャスティス(公正さ)」と題された特別講義が行われました。
以下、その模様を紹介した記事の中から、講義を行った村澤さんの言葉をいくつか紹介します。
「社会、経済、企業、市民個々人…。新しい時代に向けて、今まさに原理・原則、そして根源的・内発的動機付けが変わりつつあります。

より『生きやすい』『暮らしやすい』社会を目指し作り上げていく一員として、私自身を含むここにいる全員が世界をどう変えて行くのか、変えて行きたいのかを問われています。
そしてこれからは『Cognitive Diversity(コグニティブ・ダイバーシティ)」、つまり『認知多様性』が重大な役割を持つこととなります。

今日は、これから仕事を通じて社会の一員として活動を始められるインターン生の皆さんに、一先輩として僭越ながらエールを送らせていただきます。」
「組織論や社会学の分野で使われる言葉に、ゲゼルシャフト(機能体組織)とゲマインシャフト(共同体組織)というものがあります。単純化して説明すると、ゲゼルシャフトはGAFAに代表される営利組織、ゲマインシャフトは地域コミュニティです。

21世紀に入りおよそ四半世紀が過ぎましたが、ゲゼルシャフトは莫大な資本を集めスピード感を持ってそれを展開させることで、デジタルサービスを進化させてきました。ただ、それが『人間が本当に求めているモノ』を提供しているでしょうか?

デジタルは人や社会の格差を埋めるものになっていくと思われていましたが、現状はどうでしょうか。格差を広げているのではないかと思いませんか? 今後はしっかりと『そのテクノロジーは人間に寄り添うものとなっているか』を、見ていく必要があるのではないかと思っています。」
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アイデアミキサー・インタビュー | 皆川 義廣(合同会社KIZUNA代表)

障害者就労継続支援B型「オフィス・キズナ」やペット共生賃貸マンション、スタッフの7割が障害を持つカフェ・レストラン運営などの事業をされている合同会社KIZUNAの代表社員 皆川義廣さんへのインタビュー記事です。
皆川さんとの出会いは15年くらい前。私が当時派遣社員として働いていたIBMのマーケティング部門で、ベンチャー企業との合同キャンペーンなどのプランナーをしていたのが皆川さんでした。

当時の印象は…「パリピ」(笑)。いつもご機嫌で楽しそうにしていて、ときどき、人間の限界に挑むようなアイアンマンレースなどに出場する人…。そんな印象しか持っていなかったので、共生社会の実現を目指して障害者雇用や共同生活のためのグループホームを設立したと聞いた際には、「え、あの皆川さんが!?」とビックリしました。
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そんな皆川さんの活動にかける想いや現在に至るストーリーは、きっと多くの方に新たな視点や考えを与えてくれるものだと思います。

以下、インタビュー記事より一部を紹介します。

顔が見える関係性を作っていきたいから、「しょうさん」って呼んでいるんだ

"当たり前の生活をするには暮らすところが必要で、グループホームは当然重要なものだけど、それ以上に、ある程度の収入を得る力や機会が絶対に必要だと思ったんだよ。
だって、彼らの時給って、平均すると150円程度だよ。月額で1万5千円。
これじゃあ国や親に頼らずに暮らすことは不可能だよね。そのためにはまず年内に時給500円にしなきゃいけないって考えていて(現時点で270円)、その実現のために「時給日本一を目指します」と宣言しているの。"
"今は、障がい者就労支援B型事業として、3つの業態でしょうさんに働いてもらってるの。あ、「しょうさん」っていうのは障がい者の方たちのことね。僕らは親しみを感じられて、顔が見える関係性を作っていきたいから、「しょうさん」って呼んでいるんだ。

3つのまず1つ目が「キズナ・コーヒー」という、千葉県の茂原駅前でのコーヒーの焙煎と販売。お客様に生豆を選んでもらって、それをその場でしょうさんが焙煎し、パッケージングしています。"
"それから2つ目が配食事業。配食っていうのは、お弁当を作って配達する事業のことね。そしてもう1つが、こないだパチも来てくれた、500円玉1枚でワンコと一緒に食事ができる「ワンコin(ワンコイン)食堂」ね。"
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"きっかけは自分のお袋のことがあったからなの。IBMで働いていた頃の話だけど、お袋が認知症になっちゃって。最初は自宅で看護していたけれど、悪化スピードが結構早くてね。いよいよ難しくなって、グループホームで見ていただくことになったんだよね。

それで、症状の悪化レベルに合わせるということもあって、結局5軒かな、ホームを変わることになったんだけど、ホームの質の差が酷くてね…。
亡くなる前の最後はすごく良いホームに巡り会えて、とてもよくしていただいたんだけど、それまでの何箇所かは本当に酷かった。"

共生社会を実現する最重要要因は「愛」。愛でしかない

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"増やしたいのは活き活きと働ける職場。そしてそれを増やすには選択肢を増やしていくことが重要だと思っています。

障がい者就労支援B型は単純作業が多いのは事実だけど、それでも来る日も来る日もまったく同じ作業を繰り返すよりも、多少なりとも作業内容が異なれば気分だって変わるでしょう? 「違う仕事がやりたくなった」というときに、選べる環境を作ってあげられるかどうかは大きな違いにつながると思うんだよね。"
"自分がペットと暮らす場所を探すのに苦労したっていう原体験もあるんだけど、その後のお袋の高齢者認知症の発症とか、いろいろ経験しながら「自分が実現したいものが何か」を考えていくと、共生社会の実現だったんだよね。

それで…これは真面目過ぎてちょっと照れ臭さも感じるんだけど…共生社会を実現する最重要要因は何かと言えば「愛」だなと。愛でしかないなって思ったんだよね。"
"一緒にやろうよ。グランピング施設自体は「星Fullグランピング・キズナ」と名付けて、オンリー・ワンなものを作りたいと思っているんだ。

このプロジェクトを通じて、しょうさんはもちろん、都会暮らしに疲れてしまった若者や引きこもり生活をしている人にも、ぜひ大自然の中で生きる喜びを感じてほしいんだよね。自然がすぐそこにある環境の中で、自分たちの力で生活を切り拓いていく体験をすれば、きっと自分の中に眠っているエネルギーに気づいてもらえると思わない?

日本の悪化する若年層の自殺問題の解決にも、少しは役立てるんじゃないかなと思ってるんだよね。"
「生きやすく」「暮らしやすく」しようとする想いとテクノロジーが溢れる社会は、きっと誰にとっても生きやすく暮らしやすい社会のはず。

「どこかの誰かが必要としているもの」というちょっと距離感のある捉え方を、「仲間の背中を支えてくれるもの」へと一歩縮められれば、社会の景色は少し変わるのではないでしょうか。

これからも、私たちIBM コグニティブ・アプリケーション・チームは、人びとに寄り添うテクノロジーの開発と社会実装に向き合っていきます。応援よろしくお願いします!
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