大前研一「イタリアで箱詰めさえすればOK。最強ブランド『Made in Italy』の定義」

【連載第3回】鞄や家具などのものづくり、ファッションやオペラなどの文化。歴史的建造物が連なる町並みや穏やかな農村。国のいたるところに文化と産業が息づく町があるイタリア。国家財政・社会情勢が悪化する中、なぜイタリアの地方都市は活気に満ちているのか。イタリアに日本の課題「地方創生」解決のヒントを探る。

本連載では書籍『大前研一ビジネスジャーナルNo.11』(2016年8月発行)より、日本の「地方創生」の課題に迫ります(本記事の解説は2015年7月の大前研一さんの経営セミナー「イタリア『国破れて地方都市あり』の真髄」より編集部にて再編集・収録しました)。

イタリアの輸出入の現状

地方都市の産業が輸出に貢献

政府がさまざまな問題を抱える一方で、自前の産業を持ち経済的に自立しているイタリアの1,500の町。それらの町の産業は、イタリアの貿易を支える柱となっています。

図-10の左側をご覧ください。イタリアの地場産業である家具、眼鏡の貿易額を見ると、欧州市場の低迷などの影響で右肩上がりとは行きませんが、一定の規模の輸出額を維持していることがわかります。
一方、日本は家具に関しては完全なる輸入国です。
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また、眼鏡はかつて輸出が強かったのですが、日本人が外国製のフレームを好むようになったこともあり、近年いよいよ輸出入が逆転しました。
その輸入した眼鏡フレームの生産地が実は日本の福井県鯖江市であったりするのが、実に皮肉です。

同図の右側では、どの産地のどの品目の輸出がどれだけ成長しているのかを前年比(2012年)で示したものです。これだけたくさんの地場産業が好調に輸出を伸ばしているのが、イタリアの貿易の現状です。

売れるイタリアブランド EU外への輸出にも積極的

図-11は欧州主要4カ国の輸出先・輸入相手先を示しています。

輸入相手先は他国に比べてアフリカ、中東、その他(中国、ロシア)が多いのが特徴です。
注目すべきは図の左、輸出先です。ドイツ、フランス、スペインの輸出先の約6割がEU内であるのに対し、イタリアはEUへの輸出依存度が低く、中南米、中東、アフリカなど新興国への輸出を積極的に行っています。言ってみれば、イタリアのブランド品はEU外へも売れる、ということです。
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機械、繊維・衣料品・皮革製品などを輸出

主にどのような品目が輸出入されているのでしょうか。図-12で見ていきましょう。
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輸出額の上位を占める品目は、機械を筆頭に、前出した繊維・衣料品・皮革製品などです。また、総額としては下位に位置しますが、木工品=家具などはイタリアのブランドとして非常に高い値段が付きます。高級ボートなどは今、外側を中国や台湾で作り、内装だけをイタリアで仕上げるという手法が流行っています。

一方で輸入品目として多いのは、鉱物・石油などの資源、金属製品、化学品などです。

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まるごと「地方創生」号。
・地方創生の前に立ちはだかる「中央集権」の壁/
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・デザインの根幹にある哲学と美意識がブランドを創出/

世界に名だたる高級ブランドを創出

定義を変えてでも「Made in Italy」を死守

これまでの話から、貿易や各産業を行うに当たり、「イタリアのブランドである」ことが、とても重要なポイントであることがわかります。
一方で、当然のことながらイタリアも、価格競争と無縁ではありません。EU第4位の国ですから、国内はやはり人件費が高くつきます。価格競争の中で、徐々に生産拠点を国外へシフトしているのが現実です。

しかしそこを、いい意味でずる賢く、いい加減に切り抜けるのがイタリアという国です。なんと言ってもベルルスコーニ氏が首相を務めたくらいの国です。生産拠点を国外へシフトしていく中で「Made in Italy」の定義を変えてしまいました。

図-13は、イタリアが周辺諸国とどのように貿易を行っているのかを示したものです。ルーマニアはもともと民族的にも言語的にもイタリアに近いので、良好な取引先として注目されています。また、トルコとの貿易も順調に拡大中です。

ただ、ルーマニアやトルコで生産すると、原産地がイタリアではなくなってしまいます。そこで、外国で生産したものでもイタリアで仕上げれば「Made in Italyである」という定義に変えることにしました。
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ルーマニアで縫製したものを、イタリアできれいにアイロンがけして畳んで箱に入れる。
トルコで作ったフェラガモの靴にイタリアでスリングをつける。
それらをMade in Italyとして輸出すると、製造コストの約5倍の価格で売れます。実にイタリアらしい、クレバーなやり方ではないでしょうか。

日本の場合は、原産地の定義そのものがない中で、例えばアパレルにおいては縫製した場所を「Made in ○○」で示さなければなりません。
これは奇妙な話で、原材料の木綿はエジプトやトルコのもの、貝殻のボタンはフィリピンのものなどを使っていても、製品において最もコストがかかっていない「縫製」場所を原産地として示さなければならないのです。

一方で農産品に関しては、フレキシブルすぎるほどいい加減です。
マレーシアで育てて浜名湖で2週間泳げば「国産」うなぎと示してよい。ブルガリアからワインをバルクで持ってきて、日本でボトル詰めすれば日本産でよい。実際のところ、十勝ワインと言いながらブルガリアのワインが混ざっていたりします。
アパレル、農産品、いずれにおいても日本は、ブランドというものへの理解に問題があるのではないかと思わざるをえません。

グッチ、プラダ…ファッション分野などでブランド力を発揮

強力なブランド力を持つ「Made in Italy」は、とりわけ食品・飲料、ファッション、ラグジュアリー、そして自動車などでその力を発揮しています(図-14)。
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言うまでもありませんが、世界的人気を誇る高級ファッションブランドがイタリアには多数あります。グッチ、プラダ、ブルガリ、ジョルジオ アルマーニ、エルメネジルド ゼニア、ドルチェ&ガッバーナ、ボッテガ・ヴェネタ…枚挙に暇がありません。

イタリアの自動車と言えばフィアットやアルファ ロメオが大衆車として有名ですが、フィアットはマセラティも持っていますし、2016年にフィアットから分離しましたが、スポーツカーの最高峰とも言えるフェラーリもイタリアを代表する自動車ブランドです。
さらにランボルギーニもあります。また、高級家具のカッシーナもイタリアのブランドです。

ラ フェラーリは1億円超 レクサスは1300万円

図-15は世界の超高級車を価格順に並べたものです。

堂々たる1位はイタリアが誇る超高級スポーツカーブランド、フェラーリが2015年にリリースした「ラ フェラーリ」で、141万6,000ドル。日本円で軽く1億円を超えます。
2位がポルシェ、そして3位にふたたびイタリアの車、ランボルギーニの「アヴェンタドール(2015)」がランクインしています。
他にトップ10にはフェラーリが2台入っています。
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世界トップクラスの超高級車の多くが、イタリアで生産されていると言ってよいでしょう。ちなみに、日本で高級乗用車とされるトヨタ自動車のレクサスの最高級モデル「レクサス LS600」は、およそ13万ドルです。

さて、この141万6,000ドルの「ラ フェラーリ」ですが、499台の限定生産で、実際に生産される数年前に発売を発表し、その売り上げで開発・生産しているので、開発リスクはゼロです。
開発前に売り切れるということです。フェラーリはそのような方法で、世界を魅了する高級車を開発しています。

私はフェラーリ50周年記念の限定生産「F50」を買いましたが、当時5,000万円ほどだったものが、今ではヴィンテージとして2億5,000万円まで吊り上がっています。
例えばこれがトヨタの自動車なら、発売時の5倍の価格で売れるということはまずありません。やはりフェラーリというブランドだからこそ、特別な値段が付けられるのです。
(次回へ続く)
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