大前研一「イタリアの狡猾さに学ぶ地方創生。『Made in Japan』ブランド&デザインを死守する」

【連載第7回】鞄や家具などのものづくり、ファッションやオペラなどの文化。歴史的建造物が連なる町並みや穏やかな農村。国のいたるところに文化と産業が息づく町があるイタリア。国家財政・社会情勢が悪化する中、なぜイタリアの地方都市は活気に満ちているのか。イタリアに日本の課題「地方創生」解決のヒントを探る。

本連載では書籍『大前研一ビジネスジャーナルNo.11』(2016年8月発行)より、日本の「地方創生」の課題に迫ります(本記事の解説は2015年7月の大前研一さんの経営セミナー「イタリア『国破れて地方都市あり』の真髄」より編集部にて再編集・収録しました)。

イタリアの産業は水平型、日本の産業は垂直型

イタリアのさまざまな地方都市の状況を知ると、国にとっての地方の重要性、地場産業の大きな可能性について、理解できるのではないでしょうか。
地方の小さな町が、常に「世界」を捉えているイタリア。これまでの話を整理しながら、そのグローバル展開のポイントを押さえていきましょう。

まず、産業のあり方です。図-30をご覧ください。日本は産業を発展させる際に、ヒエラルキーとして大企業がトップに君臨し、中小企業を下請けとしてバックに置きながら、世界のマーケットを相手にするのが通例です。
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価格競争の時代には、生産拠点を国外の低コスト国へシフトし、「Made in Japan」を「Made in China」に変えることで対処してきました。その海外シフトは当然のことながら、国内の中小企業の廃業や工場の閉鎖を招くことにもなりました。

こうした日本の「垂直型」に対して、「水平型」なのがイタリアです。
産地の発展期には、各地の中核企業を中心に、中小企業、大学、研究機関、業界団体など横のつながりを広げ、世界化してきました。今でこそ大企業へと成長したグッチもプラダも、もともとは地域の中核企業として伸びてきたのです。

そして、価格競争の時代には、何もかもを海外生産へとシフトせずに、ルーマニアやトルコといった生産地を取り入れながらも、デザイン、最終加工など付加価値の大半を国内に残すことで、「Made in Italy」を継続できる仕組みを保持してきました。イタリアは中国での生産を非常に警戒しています。そこが緩むと、フランスのピエール・カルダンのようにOEM の乱発でブランド価値を失って値段が保てなくなり、経営が悪化することになるからです。

国を挙げてデザインの力で世界を呼び込む

もう1つ、イタリアのグローバル展開を支える重要なファクターが「デザイン」です。とにかく、国を挙げてデザインの力を強調しています。

図-31はイタリアのデザインの中心地であるロンバルディア州(ミラノ)、トスカーナ州(フィレンツェ)のコミュニティモデルです。
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地元の大学や研究機関、産業支援機関などと、企業・職人などのクラスターの連携があります。ファッションのミラノ、ルネサンス文化が街中に息づいているフィレンツェというように、街そのものにも強い魅力があります。世界的な見本市も開催されます。こうした要素が一体となることで、グローバル市場で勝てる競争力が備わるとともに、留学生や世界中のデザイナー、建築家、関連企業など、世界から企業・カネ・人材を呼び込む吸引力をも生み出しているのです。

この連載の記事もまとめて読める書籍版はコチラから

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『大前研一ビジネスジャーナル No.11(日本の地方は世界を見よ! イタリア&世界に学ぶ地方創生)』
まるごと「地方創生」号。
・地方創生の前に立ちはだかる「中央集権」の壁/
・顧客セグメントの違いと地方産業が安定化するサイクル/
・デザインの根幹にある哲学と美意識がブランドを創出/

大企業、中小企業、地方都市 それぞれのヒント

イタリアのような自立性の高い地方中核都市は、一体どうすればつくり出せるのか。最後に、日本がイタリアに学ぶべきことを総括したいと思います(図-32)。
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大企業に関してはまず、デザインというものに対する価値観を反転させる必要があります。日本の大企業は生産が中心で、デザイナーは借り物であるケースが多いです。ですから、デザイン部門を生産部門からしっかりと切り分け、デザイナーをきちんと会社の中核に据えること。他部門はデザインに口を挟まずに、デザイナーに自由に創造してもらう覚悟が必要です。そこで初めて、製品のブランド化、高付加価値化が達成されるのではないでしょうか。

また、イタリアの企業あるいはブランドを買収し、ブランド化・高付加価値化といったイタリア流のノウハウを会得するのも1つの方法です。

中小企業に関してはとにかく、ニッチを深堀りせよ、ということでしょう。
例えばアパレルであれば、ニットだけ、眼鏡だけ、というレベルまで落とし込むこと。器用な企業はつい横に広げがちですが、屏風のごとく、横に広げすぎると倒れます。
狭く深く追求しながら世界に販路を開拓し、世界一を目指すのです。そのためには、イタリアの地場産業のように、地元の同業企業との連携を強化し、産業クラスターとして競争力を高めていくことも必要です。
日本の場合、同業企業を競争相手と捉えて敬遠しがちですが、そうではなく、「零細でもいいんだ、“この町”で世界に売り込んでいくんだ」と発想することが大切なのです。そのようにして地場産業が活気づいていけば、自ずと後継者育成にもつながります。

産品に関しては、いい意味でイタリアの狡猾さを学ぶことです。海外で製造をしてもデザインや最終工程は国内で行い「Made in Japan」ブランドを死守するべきです。
農産物や加工食品においては、マーケティングを強化すると同時に、品質基準や製造基準を明確化し、世界に通用するブランドを確立することが重要です。
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グーテンブック編集部 グーテンブック編集部