主役は生活者! 地域課題に持続的に取り組むために(連載1回目)

【連載1回目】技術はどんどん進化しているのに、暮らしやすくなったり、日々が豊かになったような気があまりしない……。どうしてだろう? 皆さんはそんな風に感じたことはありませんか? この連載では、いろいろな会社や学校などと共に、より「良く生きる」ためのテクノロジーの活用方法を追求している日本アイ・ビー・エム株式会社のとあるチームの取り組みをご紹介させていただきます。

本記事の原稿は、AIやIoTを活用し、さまざまな企業・組織と協働して社会課題の解決につなげる活動をされている、日本アイ・ビー・エム株式会社の八木橋パチさんに寄稿していただきました。
(グーテンブック編集部)

はじめまして。IBMです。仲間を探してます!

 (6118)

はじめまして。日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)というテクノロジーの会社で、人びとの話やイベントの様子を記事にしている八木橋パチです。

私が所属しているチームはCognitive Applications(コグニティブ・アプリケーションズ)という名前です。そして私たちの活動を一言で言うと、「AIとIoTをプラットフォームにソーシャルグッドをブロックチェーンなどでアップデートしてます!!」って感じです。

…冗談です。これじゃ「意味不明!」「日本語で書いて!」って叱られてちゃいますよね(笑)。
できるだけこういう何を言ってるのか分からない文章ではなくて、「なんのために、何をどんな風にしているのか」を分かりやすくお伝えさせていただくつもりなので、どうぞよろしくお願いします。

テクノロジーで、もっと良い社会に

さて、私の所属チーム名にある「コグニティブ」「アプリケーション」も、あまり聞き慣れない単語ですよね。でも「人工知能」や「アプリ」と言ったらどうでしょうか? なんだか、急に身近な感じがしませんか?(「しません」って言われそう……)

厳密に言うと「コグニティブ」は人工知能とは少し違うし、アプリも「スマホで使うやつ」とは限らないんですけど、でも、イメージとしてはそんな感じです。10年20年前の、インターネットが発展する前は実現不可能だったことを、いろいろな会社や組織と手を組んで人びとや社会に提供していく活動をしているチームです。

この連載は、そうした私たちチームの活動をビブリオン読者の皆さんに紹介させていただき、できたら読まれた方の感想やアドバイスを聞かせていただき、もっと活動を良いものにしていきたいと考えてスタートするものです。
そして願わくば、「こうい言う活動を一緒にやりましょう!」だとか、「この取り組みに力を貸して欲しい」だとか、そういう新たな仲間を見つけられたら最高だなと思っています。

というわけで、第1回目の今回は、東京電機大学(以下、TDU)の松井研究室との取り組みについて紹介させていただきます。

東京電機大学(TDU)

TDU 知的情報空間研究室とIBMが共に地域課題に挑む

左から、河西さん、松井助教、西垣さん。

左から、河西さん、松井助教、西垣さん。

皆さんは東京電機大学と聞いたとき、どんな学校をイメージしますか?
私は「なんとなく「理系で白衣を着たメガネ男子と、その学生がそのまま大人になったような教授陣」をイメージしてしまいました(先入観は良くないですね!)。

なので、一昨年初めてTDUのキャンパスに行き、「知的情報空間研究室」を管理・運営している松井加奈絵准教授と、そのゼミ生の方たちに会ったときは、私の先入観とはまるで違うその印象に少々驚いたのを覚えています。
次の記事は、その初めてお会いして話を伺ったときのものです。
以下に、上の記事のポイントをかいつまんで紹介します(5分程度で読める記事なので、ぜひお時間のあるときに!)。

・松井研究室は、エクスポリス合同会社社とIBMと共に、地域課題解決に持続的に取り組むためのデジタル・ヴィレッジ・プラットフォーム(DVP)の開発に取り組む。

・DVPは、人間の生活を豊かに、暮らしを快適で持続可能なものとするための「地域課題解決型データ流通プラットフォーム」であり、主役となるのは地域の人たちである。

・暮らしの課題解決に肝心なのは、地域の人びとの気持ちに寄り添ってそれを価値に変えられる人材が必要。その人材を育成することにも同時に取り組んでいく。

これまでの取り組みを振り返ってみる

 (6044)

先ほどの記事を書くのにインタビューをした2019年12月の段階では、まだこうしたことを「構想」として発しただけでした。いわば「やります!」と宣言したものの、具体的な取り組みをスタートするのはこれから…という状態でした。
しかしその後、新型コロナウイルス感染症の拡大という未曾有の事態にも負けず、着実にそのステップを進めていきます。
ただ、こうして実際にやってきたこと、そしてこれから行うことを並べるだけだと、こうした活動の背景にある私たちの「想い」が伝わりづらいのではないか? という気も……。

そこで、改めて「私たちが、なんのために何をどんな風にしているのか」を少し細かめに説明させてください。

IoTって何だろう?

でもその前に!
皆さん「IoT」という言葉は聞いたことありますよね。でも、いま一つ何のことだかピンと来ていないという人はいませんか?
すごく簡単に言うと「いろんなものをインターネットにつなげて便利にしよう。これまでできなかったことを実現しよう。」というものです。

ちょうどここに、松井研究室が作った「IoTとは?」を紹介するYouTube動画があるので、(小学生向けに作られたものなので、簡単過ぎるかもしれませんが)「IoTって良く分からない…」という人は見てみてください。

小谷小学校STEAM授業動画コンテンツ

IoTで地域課題に取り組む

私たちと松井准教授が知り合ったそもそものきっかけは、「IoTとファッション」というテーマでした。でも、よくよくお話を聞いてみると、松井准教授はファッションだけではなく、「IoTを活用した地域課題解決」にも熱心に取り組まれていたんです。

それも、ご自身の研究や、地域の自治体や企業のためだけではなく、その地域で暮らす人びとが、持続可能な形で、自分たちの地域における幸福を追求するための仕組み作りをサポートしようとされていました。そしてそのために必要な技術力と影響力、そして資金力を持つパートナーを探しているところでした。

何度かの打ち合わせといくつかのプロトタイプ(テスト用モデル)作りをご一緒させていただいた後、目指す世界観と進め方の多くが私たちのそれと一致したことから、私たちは正式にパートナーとなり、一緒に取り組みをスタートしました。
 (6052)

スマートシティって何だろう?

ところで、皆さんは「スマートシティ」という言葉はご存知ですか?
最近だと、トヨタ自動車株式会社が「富士山のふもとに新しい街をつくる」という掛け声のもと、「Woven City(ウーヴンシティ)」という近未来的な街づくりに取り組んでいる様子が、ときどきネットニュースやテレビなどで紹介されていますよね。
スマートシティの代表として取り上げられることも多いウーヴンシティですが、他にも、日本にはたくさんのスマートシティの取り組みがあります。
千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」、福岡県北九州市の「北九州スマートコミュニティ創造事業」、埼玉県さいたま市の「スマートシティさいたまモデル」などが良く知られているものです。
そして実は、私たちが一緒に地域課題に取り組むこととなった松井准教授は、「スマートシティさいたまモデル」に取り組むプロジェクトチームのメンバーでもあったのです。
これ以外にも本当にたくさんのスマートシティ・プロジェクトがあるので、皆さんが住んでいる地区やその近辺でも取り組みが行われていないか、ぜひ調べてみてください。

そしてこれは、長年スマートシティに取り組んできた人たちの間では良く知られていることなのですが、多くのスマートシティ関連のプロジェクトは、実は苦戦しているのです……。
その理由は大きく2つに分けられます。

(スマートシティ苦戦の理由1) 住民が本当に欲しいものじゃない…

まず1つ目は、そこで生活する人たちが本当に必要と感じているものと、提供されるサービスに「ズレ」が生じてしまうから。提供されるサービスが、暮らしている人たちに本心から喜んでもらえるものになっていないことが少なくないのです……。

これは、街づくりやサービスづくりをする側と、そこで暮らしサービスを受ける側に、感覚のギャップがあるために生じてしまっています(もちろん、そこで暮らす人たちの間にも多様性や個人差があるし、考え方もさまざまなので、「全員に喜ばれるサービス」というのは非現実的ですが)。

(スマートシティ苦戦の理由2)そのお金、一体どこから?

そして2つ目の理由は、大雑把に言えば「お金を生みだすのが難しいから」です。
「人々の生活のためなんだから、お金を生みだせなくても税金でやればいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、プロジェクトをやり続けるには、ある程度の継続的なコストが必要です。

でもそれをずっと税金で賄うのは、人口減などで税収が下がっている地域には難しいのです。
ですから、事業として参入する企業などの組織が必要ですし、その企業が参加を取りやめないように、ある程度の収益を上げ続けられる仕組みや見込みが重要となります(企業だって、従業員や株主への金銭の分配や、未来の市民の幸せな暮らしのために地球環境への投資が必要ですから、そのための収益が必要なのです)。

このように、これまでのスマートシティ関連のプロジェクトの多くが、「地域住民の積極的な参加」と「継続的な収益モデル(長期的に儲け続ける仕組み)」がうまく見出せなかったために、実証実験だけで本番には至らなかったのです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
重たい話を書いていたらすっかり長くなってしまいました。読むのも疲れますよね。フー。
「なぜこうした活動をしているのか。どんな世界を思い描いているのか」そうした活動の背景にある私たちの「想い」をお伝えするつもりだったのですが、そちらは次回とさせてください。

それではまた。Happy Collaboration!

次回予告

・ 活動に込めた想い| 松井准教授の情熱の源泉とは?
・ 教育の重要性 | 誰もがチェンジメイカー
・ 産官学民のコラボレーション
・ 地域と都市がよりフラットな関係性を構築するために
37 件

関連する記事 こんな記事も人気です

この記事のキーワード