ビジネスパーソン必須スキル! 下町ロケットで学ぶフレームワーク思考実践講座 第10回  QCDで下町ロケットの「佃プライド」を探る!

いよいよ最終回の第10回は、ものづくり企業に不可欠なフレームワークである「QCD」です。「下町ロケット」の佃製作所にはとても目立つ場所に、手書きの力強い毛筆で「佃品質 佃プライド」と書かれた大きな看板が天井から吊るされています。(ガウディ計画編では「ロケット品質 佃プライド」と看板の文字が変わっています。) この「佃プライド」を支えている「QCD」とはなんでしょうか。今回は佃製作所をQCDの視点から分析していきます。

本記事は新しい働き方ぜんぶがわかるメディア「ビジネスノマドジャーナル」さんの提供で配信しています。

QCDとは

まずはQCDの基本的な考え方を説明しましょう。
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Q:品質(Quality)

他の業種でも重要な要素になるとは思いますが、特に製造業では製品の品質が重要視されます。
製品を世に出す以上は、その製品が求められている一定以上の品質基準を必ず満たさなければならないのは当然のことです。

そして更に進んで他社よりも品質の優れた製品を作り出すことは、差別化や競争力の向上につながり、ひいては売上や利益の向上に寄与することになります。
品質のよい製品を作り続ける事が出来れば、その企業が作る製品全体への信頼を獲得することも可能です。

QCDの中でもQを重要視する企業は多く、「品質第一」(Quality First)はパナソニックや日立製作所など数多くの企業が製造現場における信念として掲げています。

C:費用(Cost)

企業が継続的に活動を行う場合、利益を出し続けていくことが求められます。
そのとき企業は利益を出すために、自社側でかかった費用を、仕事を遂行する際の制約として考えていきます。
損益分岐点を下回るような、費用を度外視した製品は、資金繰りの悪化や利益の減少に直結し、いずれは倒産、という憂き目にあうことになるかもしれません。

D:納期・配達(Delivery)

製品は、必要なときに必要な場所に必要な数量がある、ということが求められます。

特に日系の製造業はトヨタのカンバン方式を筆頭に極力在庫を持たないようにしている生産現場が多く、その方式は「ジャストインタイム」として世界に広まっています。
そのジャストインタイムは発注者側にとっては在庫管理の手間が省けるとても便利なシステムですが、下請け側にとってはかなりのプレッシャーになります。
配達の時間が予定時刻よりも遅くてはもちろんダメだし早くてもダメ。配達する数量が少なくてももちろんダメだし多くてもダメ。きちんと決められた納期を守り、きちんと先方に製品をお届けすることはその企業の信用力に繋がっていきます。

以上のように「QCD」はものづくり企業にとても大事な要素です。
また、牛丼で有名な吉野家が「うまい、やすい、はやい」をキャッチフレーズにしていましたが、これはまさに「QCD」です。このようにQCDは、ものづくり企業のみならず外食産業やサービス業、IT業などでも重要なフレームワークとされています。

佃製作所におけるQCDは

「下町ロケット」(ロケット編およびガウディ計画編の両方)の内容を、QCDの視点で評価してみましょう。そしてそれぞれの要素は登場人物の中で誰が担っているのでしょうか。

QCDの視点からの佃製作所は、以下のようにまとめられるでしょう。

Q:品質(Quality)

まずは看板にも書いてある「佃品質」。その後ロケット部品の受注を獲得した後は「ロケット品質」と看板に書かれることになっていくその確かな技術力。その技術力が生み出す品質は、折り紙付きで誰もが納得するものでしょう。

佃製作所は後述するCやDと比べると圧倒的にこのQの向上に力を注いでいます。まさに技術開発中心の企業です。ストーリーもその技術開発を向上させるための努力の過程を丁寧に描いています。

佃製作所は、視察に来た帝国重工の社員も驚く、中小企業では珍しいクラス5の技術開発用クリーンルームを有しています。
このクリーンルームから次々と高品質の製品を生み出していきます。
ロケット編では国産初のロケット打上げ成功に大きく貢献したバルブシステム、ガウディ編では多くの心臓病患者を救うための心臓の人工弁。高品質製品を作るために社員たちは昼夜を惜しんで開発を続け品質向上に邁進します。

このQに関しては阿部寛さん演じる佃航平社長や、安田顕さん演じる佃社長の大学の後輩である山崎光彦技術開発部長が中心になって、かなりQに対して真剣に向き合っていることが物語全編からヒシヒシと伝わってきます。

C:費用(Cost)

下町ロケットにおける費用で一番目立つものは、常に膨れ上がる開発費のコストです。

佃製作所は製品開発型企業なので、もともと研究開発には多額の資金を投入していました。ヒット商品である小型エンジン「ステラ」の改良にも励んでいて、製品単体でみると適正な開発コストだったのでしょう。

問題となるコストは、佃航平の夢であるロケット開発の部分にありました。佃製作所は販売予定も立っていないロケットエンジンの開発のために多額の資金を投入してきましたが、これを辞めさえすればメインバンクの白水銀行も追加融資をすると言っています。

一方、社内においても、営業部員が「駆けずり回って売っても、全て開発費に消えていく」と不満を口にし、佃航平の夢に共感する技術開発部と対立してしまいます。
営業側からすれば、無駄な研究開発を辞めてしまえば売れ筋のエンジンを他社よりももっと低価格で販売することができ、競合に打ち勝つことで売上を増加させることが出来るというわけです。

しかし社長の佃航平はこれを是としません。愚直に良いものを作っていれば、結果は後からついてくるという信念もありますが、筆者の記憶に残ったのは「(夢がないと)つまらないだろう」という、ある意味コストを無視した言葉です。
実際、佃航平の夢の共有が研究部門のモチベーションになっていましたし、最終的にはロケットエンジン部品の製造を自社が行ったという事実が社員全員の自信や誇りへと繋がりました。QCDと直接の関係はありませんが、社員の定着率というものも会社にとっては大切な課題です。

D:納期・配達(Delivery)

佃製作所では下請け企業として元請け企業側に求められた納期にきっちり応え続けています。
ただ下請け企業の悲しさ故に、急に納期の短縮を強要される場面も出てきます。
ガウディ編では、ロケット打ち上げ成功後ずっと納入してきたロケットバルブの採用がコンペ形式となることが決定してしまいます。
そしてそのコンペでは、サヤマ製作所の納入遅れによりなぜか佃製作所の新型バルブシステム燃焼試験日が急に1週間繰り上げられてしまいます。このように計画的に進めていた納期が急に短縮されると現場には多大な負担がかかってしまいます。

この急な納期短縮に懸命に対応したのが、技術開発部の若手社員たちです。
チーム一丸となって連日の残業も厭わずこの試練に対処した結果、きちんと試験日に納入を間に合わせることができ、素晴らしい燃焼試験結果を出すことになるのです。

QCDは優先順位を決めておくことが大事

QCDは、企業の生産活動を評価する優れたフレームワークですが、使いこなすために留意すべき点もあります。

それは、そのQ、C、D、それぞれの3つの要素が「トレードオフ」の関係にあることに起因しています。「トレードオフ」とは「一つの要素を向上させようとすると他の要素が低下する」というものです。

QCD3つのバランスを保ったまま全てを向上できれば良いのですが、それはとても難しいことです。そのようなときに何を優先し、何を劣後させるかを決めておくことが出来れば、意思決定に遅延を生じるロスを防ぐことが出来ます。

佃製作所も決してQCDのバランスが取れた経営をしているわけではありません。むしろQに極端に偏重した経営だと言えるでしょう。それでも成功できたのはなぜか。ドラマだからと言ってしまえばそれまでですが、少し理由づけしてみたいと思います。

それは「QCD全体で見た時に、競合よりも勝っていた」という事ではないでしょうか。
ガウディ編において競合となるサヤマ製作所は、強力なトップ営業で業績を伸ばしていました。しかし取引先から求められるQとDが実は基準に到達していなかったのです。求められる品質を求められた納期に完成出来ない。そのためデータ偽造に走ってしまいました。後々辻褄合わせをするつもりだったようですが技術者同士がバラバラでまとまりのない研究開発部門に品質向上を成功させることは出来ず、結局佃製作所に完敗します。

佃製作所は、経営判断として品質(Q)に重心を置きつつも、その方針を明確に示すことがC、Dそれぞれの部署の人たちが一丸となって全力で奮闘することにつながり、最終的に成功を収めています。
実際の現場でも優先順位を定めながらも、各部署に対して、経営指針を明確にすることが大切ではないでしょうか。

10回にわたって連載してきたこの企画も今回で最終回となりました。
下町ロケットのドラマは2015年12月に終了しましたが、下町ロケットからビジネスパーソンが学べるものが多々あります。
我々執筆陣は下町ロケットのストーリーを振り返りながら楽しく連載させていただくことができました。読者の皆さまに心から御礼申し上げます。長らくご愛読いただきまして本当にありがとうございました。
(本連載は今回で終了です。)
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