分離からインクルージョンへ! 障害のある子もない子も同じ場で学ぶ教育とは?【連載第2回】

【連載第2回】「IoT/AIによる障害者のソーシャル・インクルージョンを実現する」ことを目的に設立した「スマート・インクルージョン研究会」の発起人・代表の竹村和浩氏が目指す「インクルーシヴ社会」とは何か? さらに東京オリンピック・パラリンピックに向けた先進的なビジョンと、その先に広がる日本の未来を、IoT/AIの活用という視点で語ります。 みなさんは、バリアフリー、ユニバーサル・デザインといった言葉をご存知かと思いますが、その意味や違いを正しく答えられますか? 連載第2回の今回は、これら用語の成り立ちと理念を解説。そこから広がっていったインテグレーション、インクルージョンの流れを、教育の分野に目を向けて考えてみたいと思います。

記事のポイント

●「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」の違い
●障害児と健常児を統合させる「インテグレーション」(統合教育)の発生
●「メインストリーム」(主流教育)とは何か
●障害をひとつの個性としてとらえる「インクルージョン」教育

前回までの記事はコチラ

【第1回】障害があってもなくても誰もが同じ地平で生きていく―インクルーシヴ社会を理解する
http://biblion.jp/articles/DQ7lr

何が違う? バリアフリーとユニバーサル・デザイン

建築から生まれた「バリアフリー」という理念

前回の記事では、「インクルージョン」という言葉の由来、また、インクルージョンを考える上で忘れてはならない「ノーマライゼーション」の理念について説明しました。この「障害者が暮らしやすい環境を整える」というノーマライゼーションの考え方から、「バリアフリー」という理念・運動が始まりました。文字通り、障害を持つ人たちから、“障害(barrier)を取り除く(free)”という理念です。

正式には、このバリアフリーという用語は、1974年の「国際障害者生活環境専門家会議」がバリアフリーデザインの報告書をまとめたところから普及し始めました。さらには、国連が定めた「障害者の10年」計画の中で、世界に広がっていきました。

バリアフリーという理念は、本来、物理的な段差などの障壁を取り除く=「バリアフリーデザイン」(建築物的障害物の除去)という意味で使われていました。そこから、「障害者の社会参加を妨げている制度などの除去」という考え方に発展し、「心のバリアフリー」といった用語が使われるようになります。主として、バリアフリーという用語が高齢者や、身体障害者について使われるゆえんです。

しかしながら、バリアフリーを強調するあまり、かえって障害者を特別視することが浮き彫りとなり、それによって、「より障害者理解が疎外されるのではないか?」という考え方が生まれてきます。

共感を呼んだ、ロン・メイス提唱の「ユニバーサル・デザイン」

「バリアフリーの施設そのものが障害者を特別視し、除外する要因となる。であれば、そもそも最初から、障害者も含めたすべての人が使いやすいデザインとすべき」と唱えたのが、“ユニバーサル・デザインの父”と呼ばれるノースカロライナ州立大学のロン・メイスです。

彼が提唱した「ユニバーサル・デザイン」という考え方は、多くの人の共感を呼びました。単に障害を持つ人たちにとって使いやすいだけでなく、さらに、障害のない人たちにとっても、より使いやすいものになる、という考え方が当時の人々の心をとらえたのです。
彼の考え方は、1961年、アメリカ国家規格協会に採用され、最初の建築仕様基準として制定されます。

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IoT/AIの活用による、障害のある人もない人も、誰もが安心・安全に暮らせる心豊かな社会の実現と、障害者の視点からのIoT/AIの開発を目指して活動している「スマート・インクルージョン研究会」代表の著者による、スマート・インクルージョンという考え方の提唱と、同研究会のビジョン・取り組みを紹介する一冊。

ユニバーサル・デザインの7原則を知っていますか?

ユニバーサル・デザインを理解するには、彼が1997年に定めた7つの原則を見るのがよいでしょう。

<ユニバーサル・デザインの7原則>

1. 誰であろうと公平に使えること
2. 使う上での自由度が高いこと
3. 使い方が簡単でわかりやすいこと
4. 必要な情報がすぐに理解できること
5. うっかりミスが、できる限り危険につながらないこと
6. 身体への過度な負担を必要とせず、少ない力でも使えること
7. 使いやすい十分な大きさと空間が確保されていること

(*『インクルーシブデザインという思想』排除しないプロセスのデザイン」ジュリア・カセム著 平井康之監修 ホートン・秋穂訳P.90)

実は、ここには、『インクルーシブデザインという思想』の著者、ジュリア・カセムが指摘するように、「見た目の美しさ」などの要素が含まれていません。そこで、のちにインドのユニバーサル・デザインの専門家9人によってさらに5つの原則が加えられました。
さらにこの原則を補う形で、のちに、「デザイン・フォー・オール(design for all)」や、「インクルーシブデザイン」(inclusive design)という考え方が生まれてきます。

ユニバーサル・デザインは、その使用者を選びません。使う人が障害者であれ、健常者であれ、高齢者であれ、女性であれ、子供であれ、区別なくデザインするところに「障害のある人たちを社会に“含もう”とする社会的な動き」を作り出しました。TOTOのキッチンシステムなどは日本におけるその好例であるといえます

障害児と健常児の隔離・分離から「インテグレーション」(統合)へ

教育分野に新しい理念「インテグレーション」(統合)を!

さて最後に、インクルージョンという言葉が最も日本でも使われている「教育」の分野について、国際法の流れとともに考えてみたいと思います。

1960年代から1970年代にかけて北米に広がった「ノーマライゼーション」という考え方は、「インテグレーション」という教育の手法に影響を与え、新しい理念を生み出していきます。前回の記事でお話した、発達障害研究者のヴォルフェンスベルガーは、このノーマライゼーションの理念から、教育の分野におけるインテグレーションという考え方をその理念の実践の一つとしてとらえていました。

障害児と健常児を一緒にした結果、問題点も……。

アメリカで始まったインテグレーション、統合教育は、ノーマライゼーション実現の手段と考えられました。それまでは、隔離・分離(セグリゲーション/segregation)されていた障害児を、「障害のない子供たちと分け隔てなく受け入れていくこと」を理念としたのです。

それ以前は、障害児教育と通常教育は別の制度として運用されていたものを、共同学習や交流などを通じて「統合」しようとする考え方です(現在の日本の特別支援教育は、このノーマライゼーションに基づく、統合教育の流れを汲んでいるといえます)。

障害児教育と通常教育の生徒たちが、交流などを通じて相互理解を含めるという考え方そのものは、一定の効果を生みました。しかし、障害児とそうでない子供たちをまず分けて考えるという、ある種「2元対立の2原論」に基づいている点で問題を残しました。“障害のある子供たちが、ない子供たちと違和感がないように言動を制限される”ことなどが問題として指摘されるようになったのです。

メインストリーム(主流教育)からインクルージョン教育へ

分離と内包の中間をとった、メインストリーム

その問題を解決するために考え出されたのが、次に紹介する、「メインストリーム」(主流教育)という考え方です。

「メインストリーム」(主流教育)は、インテグレーション(統合教育)の不足を補うために、“障害児を通常学級に出席させるとともに、障害児学級にも通わせる”という、いわば分離とインクルージョンの間をとった考え方です。

ただしこの場合も本来、前提として障害を持つ子どもたちと健常児を「分ける」という2原論に立つ点と、“交流などが形骸化する”という問題点が次第に明らかになってきました。

そして、「本来、人間は障害児・者、健常児・者ともに同じ社会で暮らしており、教育もそのようにあるべきである、障害は個性の一つである」という考え方に基づいて生まれたのが、「インクルージョン教育」あるいは「インクルーシヴ教育」という考え方です。
ノーマライゼイションからインクルージョンへ

ノーマライゼイションからインクルージョンへ

障害は“一つの個性”。すべての人は同じ社会に含まれる

インクルージョンは、教育の分野においてはアメリカで生まれた教育理念です(ソーシャル・インクルージョンは、フランス・EUでの社会的経済的格差から生まれた言葉ですが)。

つまり、「インクルージョンとは障害児も健常児も、もともと社会全体の中に「含まれ」(include)ている」という考え方です。「障害が特別なものではなく、一つの個性であり、すべての人に特別なニーズがあり、それは障害を持つ人だけのニーズではない」という考え方なのです。

またインクルージョンは、「障害のある子供も、ない子供も共に同じ場で学ぶことは、単に障害のある子供たちだけではなく、障害のない子供たちにとっても有意義であり、有益である」という立場に立っています。

インクルージョンの理念は、「一人一人の多様性を包含するプロセス」を大切にすることに、その意味の本質があるのです。

(*『実践事例に基づく障害児保育 -ちょっと気になる子へのかかわり』七木田敦編著/保育出版社、2007年、P.19)

(次回に続く)

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