2020年東京オリパラ選手村を、スマート・シティーのショールームに!

【連載第10回】IoT/AIによる「障害者のソーシャル・インクルージョンの実現」を目的に設立された「スマート・インクルージョン研究会」代表の竹村和浩氏による連載第10回。今回は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた、スマート・インクルージョン研究会の具体的なビジョンについて語っていただきました。

記事のポイント

●選手村を日本の先端技術のショールームに
●「社会の自動化」は障害者の視点で
●今こそTRON・OSの復活を!
●日本にとって千載一遇のチャンスを逃すな

前回までの記事はコチラ

【第1回】障害があってもなくても誰もが同じ地平で生きていく―インクルーシヴ社会を理解する
http://biblion.jp/articles/DQ7lr

【第2回】分離からインクルージョンへ! 障害のある子もない子も同じ場で学ぶ教育とは?
http://biblion.jp/articles/tJ5k2

【第3回】障害を持って生まれた娘が教えてくれた、インクルージョンの大切さ
http://biblion.jp/articles/PFWEl

【第4回】“子供より先に死ねない親たち”の思い
http://biblion.jp/articles/H9trE

【第5回】2020年東京オリパラが「AI/IoT×障害=?」の答えとなる理由
http://biblion.jp/articles/26RZn

【第6回】障害×AI/IoT=イノベーション 「障害者」の視点が、日本のスマート技術を飛躍させる!
http://biblion.jp/articles/MRWxP

【第7回】AI(人工知能)は、障害者支援の夢を見るか?
http://biblion.jp/articles/vqy2n

【第8回】日本はスーパーコンピューターで世界トップの座につけるのか?
http://biblion.jp/articles/oJEiE

【第9回】相模原・障害者施設の殺傷事件に思う。私たちはどちらの未来を選択するのか?
https://biblion.jp/articles/yZbUB

選手村を日本の先端技術のショールームに

今回のリオ五輪では、日本選手たちが目覚ましい活躍を見せてくれ、ロンドン五輪でのメダル獲得数を抜き、過去最高のメダルを獲得しました。4年後に迫った東京でのオリンピック・パラリンピックでは、ロンドン、そしてリオを超える成果が期待されます。

一方で、相模原での知的障害者福祉施設での殺傷事件や、地下鉄の駅のホームでの盲導犬を伴った視覚障害を持った方の転落死の事故など、障害者をめぐる社会的環境は決して楽観視できる状況とは言えない日本です。

このコラム全体を通じて私が本当に訴えたいことは、2020年、東京でオリンピック・パラリンピックを開催する日本、そして障害を持った人たちにとって、2度と来ない千載一遇のチャンスを何としても活かしきって欲しいということです。
もっと具体的に言うと、中央区の晴海地区に建設予定の「オリパラ選手村」を、ぜひ世界の選手と彼らを取材する世界のメディアに対して、日本の技術と福祉意識の高さを示す「日本の先端技術のショールーム」(英語で言うショーケース:showcase)としてもらいたいのです。

私がこうした想いに至ったのには、以前にもこのコラムで述べたように大きく2つの理由があります。
1つは、オリンピック後にも日本の景気がよりよくなるための、成長戦略の本命たる「AI/IoT技術の集大成を示すこと」が重要であると考えるからであり、2つ目はそれにより、「日本の国内先端技術の統合を図ること」が必須であると考えるからです。
またそれらを実現することは、スーパーコンピューターを筆頭とする「社会の自動化」が全世界で進み、第4の産業革命のフロントランナーに日本がなることを意味しています。

「社会の自動化」は障害者の視点で

実は、技術的には、社会の自動化を実現するための基本的なテクノロジーは既に存在しており、あとは、それを集積・集約するだけという段階にきています。ただ、どのような方向性でそれを集積したらよいか、そのことを誰も明示できていないだけの状態なのです。

しかしながら、日本の悲しい後追いマーケティングの癖から多くの日本企業が抜け出せないでおり、今は、高度な個々の技術を持ちながら、世界の動向や流れがどうなるかが決まるのを、ただ見守っているだけなのです。
でも、動向が決まってから動いていたのでは、AI/IoT技術の特性(すべてのものがインターネットで繋がる)からして、“時すでに遅し”ということになってしまいます。

では、「社会の自動化」とは、何を自動化させればよいのでしょうか? 
その答えは、「障害を持って社会に生きる人たちに聞いてほしい」と私は主張します。その答えを導き出すためには、障害者の視点が必要なのです。
なぜなら障害者は、いずれは高齢者としてさまざまな心身の障害を抱えるであろう我々すべての人間の先駆者であり、そのニーズは多岐にわたり、実現のハードルは高いがゆえに、高度な技術開発につながるという側面を持っているからなのです。

スマート・インクルージョンという発想 IoT/AI×障害者が日本の未来を創る!

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IoT/AIの活用による、障害のある人もない人も、誰もが安心・安全に暮らせる心豊かな社会の実現と、障害者の視点からのIoT/AIの開発を目指して活動している「スマート・インクルージョン研究会」代表の著者による、スマート・インクルージョンという考え方の提唱と、同研究会のビジョン・取り組みを紹介する一冊。

今こそTRON・OSの復活を!

ここで少しインターネットとコンピューター技術の専門的な分野に目を向けてみましょう。

かつて起こったインターネット革命は、本来であればここ日本から発信されるべきものでした。東京大学の坂村健教授が開発した「TRON・OS」と、東北大学の総長も務めた工学者・西澤潤一氏が開発に携わった「光ファイバー」という技術。
それら2つの技術があれば、日本発のインターネット、またNTTによる情報ハイウェイ構想、IT革命は日本主導で進めることが可能だったのです。しかし残念ながら、実際にIT革命を主導したのはアメリカであり、今は、WindowsとiOSが主流となっています。

今さら終わった話を、と思われるかもしれません。しかしながら、私はこのAI/IoT技術が導く社会の自動化を迎えるにあたって、再度、この分野で日本が世界をリードすることは不可能ではないと考えています。
その理由は、TRON・OSが持つ最大の特徴である「リアル・タイム・OS」という特性にあります。つい最近もGoogleが、Androidに代わるIoT専用の新しいOSの開発をリークしていました。Androidはその名のとおり、ロボティクスのことを構想したOSであったわけですが、実際にはIoTでは重たすぎ、その軽量化が進められているということのようです。
Digital Cities

Digital Cities

TRONも軽量化という点では課題を抱えていると言えますが、それよりも一番大事なこの国産OSの優位性は、その「リアル・タイム」という点にあります。

ご存知のように、WindowsにしてもiOSにしても、あるいは、Linuxにしても、いずれも、「リアル・タイム」OSではありません。いわゆる、命令を実行するためのタイムラグ、バッファリングという時間が常に必要となります。
それは、今後社会の自動化を進める上では大きな障害となり、人間にとっては一瞬のバッファリングと感じられたとしても、機械と機械の通信においては、非常に長い(遅い)待ち時間となってしまい、その場で起きていることに即応することが難しくなると言われています。

また、命令実行のためのバッファリングをしている間に、その場の状況が変化してしまうと、バッッファー後の命令実行は、意味のないものとなりかねないのです。繰り返しになりますが、社会の自動化を実現するAI/IoT技術においては、この「リアル・タイム」という特性が極めて重要な要素であり、その点で、このTRON・OSがこれからの時代に最も適したOSなのです。

日本にとって千載一遇のチャンスを逃すな

20年以上にわたり、組込み型OSとして生き残ってきたこの国産OSを、今こそ日本政府は支援すべきではないでしょうか。
またLinux同様、オープンソースとなっている特性も活かして、ちょうどiOSがWindowsに対してiOSの中でのWindowsの実装を可能にしたように、TRONによって「すべてのOSが機能する環境」を構築するべきです。
それができれば、日本発のAI/IoT技術による「第4の産業革命」の日本からの発信と、次世代成長産業のリーダーとして世界でイニシアチブをとることは不可能ではないでしょう。

また、日本のOSは次のような理由から、他のOSにはない優位性を持っていると言えます。
日本は幸か不幸か、国として諜報機関というものを公式には持っていない国です。このインテリジェンスのなさは、それはそれで国を危うくするくらいの脆弱性ではありますが、一方では、「情報を取るためのセキュリティー・ホールを意図しない」と捉えることもできます。

どういうことかというと、「情報を抜き取る」という国家的意思がない日本の基幹OSが、今後、社会の事実上のインフラとなっていく「IoT技術における安全性」を担保するからです。つまり、「安心・安全の社会基盤としてのOS」の日本からの発信は、商業ベースの他のOSを超える社会と世界のニーズとなっていく可能性があるのです。
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グーテンブック編集部 グーテンブック編集部