ビットコイン、電気飛行機、宇宙開発で増える電力需要【スマホでサンマが焼ける日】

【第20回】電気・エネルギー業界は今、50年に1度の大転換期を迎えています。電力自由化をきっかけに各家庭へのスマートメーター導入が開始され、電力産業、電力関連ビジネスは一気にデジタル化の道を歩み始めました。本連載では、RAUL株式会社代表取締役の江田健二氏が、IoTとも密接な関係を持つ電力とエネルギーの未来を、ワイヤレス給電、EV(電気自動車)、ドローン、ビッグデータ、蓄電池、エネルギーハーベスティング、VPPといった最新テクノロジーの話題とからめながら解説します。

本連載は、書籍『スマホでサンマが焼ける日』(2017年1月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。

大きな壁になっている電気コスト

今までこういうものを作りたい、でもそれは電気代がかかるから無理だと言われていたもの、電気代が高いことによって縛られていることが実はたくさんあるのです。

たとえば人間が乗れるドローンはすでに開発が実現していて、技術的には作るのは簡単なのに、肝心の電気代がかかるために実用化できないという問題があります。3Dプリンターを使ってこんな製品を作りたいけれども、そのためには3Dプリンターを何十時間も回さなくてはならず、電気代がかかり過ぎて無理……、という場合でも、電気代がほぼゼロになればもっと多種多様なモノを作ることができます。農業の分野で言えば、IT農業として注目されている植物工場。電気代が安くなればもっと多くの植物工場を作ることができ、農業も発展するでしょう。

ちなみに今、多くの日本企業が海外に工場を置くのは、人件費が安いからだけではなく、日本の電気代が高い、現地の光熱費が安いからという理由もあるのです。

またビットコイン(仮想通貨)の世界では、仮想通貨を新たに発行するための「マイニング(採掘)」というものがあります。マイニングは自分のコンピュータに計算をさせて新たにビットコインを生成・入手する方法ですが、金などの採掘になぞらえて「マイニング(採掘)」と呼ばれています。

今、このマイニングが新しいビジネスとして注目を集めていて、日夜ビットコインの採掘に励んでいる人たちが世界中、特に途上国に増えています。ただマイニングには莫大な電気代がかかります。コンピュータの稼働やサーバーの冷却にかかる電気代です。もし電気代がタダであれば世界中でマイニングができて世界中で仮想通貨がもっと普及するはずです。ちなみに、今アイスランドでマイニングビジネスが盛んなのですが、その理由として、アイスランドは寒くてサーバー冷却にかかるコストが安くてすむからということがあるようです。

スマホでサンマが焼ける日 電気とエネルギーをシェアする未来の「新発想論」

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この連載では書籍からごく一部のキーワード解説を掲載しています。
50年に1度の大転換期を迎えた電気・エネルギー業界の未来のキーワードをチェックするならぜひご覧ください!

電気コストダウンで可能になる未来

もっと大きな視点で見ると、飛行機やロケット開発の分野でも電力コストが重要になってきます。先日、NASAとボーイングが電気飛行機を共同開発中というニュースが出ていましたが、分散型発電の活用で電気代が安くなれば、オイルなど化石燃料を使わず電気だけで飛ぶ旅客機が出てきても不思議ではありません。

またロケット打ち上げには、ロケットエンジンの燃料費だけでなく、莫大な電力コストがかかります。これからの宇宙開発には電力・エネルギーの低コスト化が必須課題です。また、日本の小惑星探査機「はやぶさ」は電気ロケットエンジンを使用していますが、将来、宇宙空間の様々な面で電気エネルギーが主流になっていくでしょう。EV(電気自動車)とロケット開発を同時に行っているイーロン・マスクあたりは、おそらく電気エネルギーシステムの宇宙開発への利用を真剣に考えているのではないでしょうか。

こうして考えていくと、家電製品やオフィスの光熱費レベルだけであれば電力需要はさほど増えず、電気が余ってしまうようなイメージもありますが、もっと広い視野で考えるとそうではない未来が待っているような気がします。

人間の進歩発展に対するあくなき追求心は今後も衰えることはないでしょう。もっとこんなものを作りたい、もっとこんなことができるようにしたい、とさらに様々なテクノロジーを生み出し、それにともなって今以上に電力の需要を生み出していくのだと思います。

(本連載は今回で終了となります。)
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