本連載では書籍『大前研一ビジネスジャーナルNo.11』(2016年8月発行)より、日本の「地方創生」の課題に迫ります(本記事の解説は2015年7月の大前研一さんの経営セミナー「イタリア『国破れて地方都市あり』の真髄」より編集部にて再編集・収録しました)。
タガが外れる寸前の厳しい国家財政
EU4位の大国 1人当たりGDPは中位
まずはイタリアという国を知るために、さまざまな側面からイタリアのデータを見ていきましょう。
イタリアは人口およそ6,000万人、欧州連合(以下EU)加盟国の中でドイツ、イギリス、フランスに次ぐ規模の大国です。ところが、図-1が示す通り、1人当たりGDPで言えば北欧諸国が圧倒的に上を行き、イタリアは約3万5,000ドルで中位レベルにとどまっています。
同図では、イタリアに次いでスペインが約3万ドル、ギリシャが約2万ドルとなっています。
余談ではありますが、実力で言えばギリシャは1万ドルといったところでしょう。EUに加盟していることで実力の2倍ほどに嵩上げされていますが、一度ギリシャはEUから離脱して実力相応の1万ドル国家に戻れば、また国として強くなっていくのではないかと、私は思っています。
現状のような中途半端なEUの救済では、失敗に終わることが目に見えています。
イタリアは人口およそ6,000万人、欧州連合(以下EU)加盟国の中でドイツ、イギリス、フランスに次ぐ規模の大国です。ところが、図-1が示す通り、1人当たりGDPで言えば北欧諸国が圧倒的に上を行き、イタリアは約3万5,000ドルで中位レベルにとどまっています。
同図では、イタリアに次いでスペインが約3万ドル、ギリシャが約2万ドルとなっています。
余談ではありますが、実力で言えばギリシャは1万ドルといったところでしょう。EUに加盟していることで実力の2倍ほどに嵩上げされていますが、一度ギリシャはEUから離脱して実力相応の1万ドル国家に戻れば、また国として強くなっていくのではないかと、私は思っています。
現状のような中途半端なEUの救済では、失敗に終わることが目に見えています。
赤字続きで大きな債務を抱える国家財政
話をイタリアに戻しましょう。
財政状況を見ると、イタリアは日本と同様に、非常に大きな政府債務を抱えています(図-2)。
日本は対GDP比で債務残高が200%を突破し、ギネス記録更新中といったところでしょうか。イタリアはEUという後ろ盾によってタガが外れないところで踏ん張っていますが、今にもそのタガは外れて、150%に届きそうな状態です。
さらに図-2の右側は単年ごとの財政収支ですが、こちらも日本と同様、イタリアでは赤字が続いているのがわかります。
実はEU加盟の条件には、政府の累積債務が対GDP比で60%以内という項目があるのですが、図を見るとEU加盟国であるフランスもイギリスもすでに60%を突破しています。EUは単年度の政府債務に関しても、対GDP比で-3%までしか許容していないのですが、イタリアはぎりぎり、フランスとイギリスは完全に-3%以上の赤字、ドイツだけが優等生であり続けている状況です。
財政状況を見ると、イタリアは日本と同様に、非常に大きな政府債務を抱えています(図-2)。
日本は対GDP比で債務残高が200%を突破し、ギネス記録更新中といったところでしょうか。イタリアはEUという後ろ盾によってタガが外れないところで踏ん張っていますが、今にもそのタガは外れて、150%に届きそうな状態です。
さらに図-2の右側は単年ごとの財政収支ですが、こちらも日本と同様、イタリアでは赤字が続いているのがわかります。
実はEU加盟の条件には、政府の累積債務が対GDP比で60%以内という項目があるのですが、図を見るとEU加盟国であるフランスもイギリスもすでに60%を突破しています。EUは単年度の政府債務に関しても、対GDP比で-3%までしか許容していないのですが、イタリアはぎりぎり、フランスとイギリスは完全に-3%以上の赤字、ドイツだけが優等生であり続けている状況です。
財政悪化を煽る不安定な社会情勢
政治の不安定が招く国家への不信感
莫大な累積債務、赤字続きの財政を背負っているイタリアですから、当然GDP成長率はマイナスゾーンを漂っています(図-3)。
なぜそのような事態に陥っているのか。要因の1つに政治の不安定が挙げられます。
国のトップである首相の在任期間が短く、経済政策が安定しないのです。この点も、日本との類似点と言えます。
政府がそのような状況ということもあって、ほとんどのイタリアの町は“国”というものを邪魔者扱いしています。
イタリアは豊かな地域の税金を貧しい地域に流す還流機構になっていますから、経済的に自立している地域にとっては、国という枠に縛られていることをデメリットとしか感じないわけです。
なぜそのような事態に陥っているのか。要因の1つに政治の不安定が挙げられます。
国のトップである首相の在任期間が短く、経済政策が安定しないのです。この点も、日本との類似点と言えます。
政府がそのような状況ということもあって、ほとんどのイタリアの町は“国”というものを邪魔者扱いしています。
イタリアは豊かな地域の税金を貧しい地域に流す還流機構になっていますから、経済的に自立している地域にとっては、国という枠に縛られていることをデメリットとしか感じないわけです。
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大前研一ビジネスジャーナル No.11(日本の地方は世界を見よ! イタリア&世界に学ぶ地方創生)
¥1,500
大前研一が主宰する経営勉強会の講義内容を読みやすい書籍版として再編集しています。「これからの経営」に役立つグローバルビジネスのキートピック「地方創生」をテーマに収録。日本と世界のビジネスを一歩深く知り、考えるためのビジネスジャーナルです。
人の流出入が活発なイタリア 近年は移民受け入れが問題化
貧しい地域の食い詰めた人々はどうしているのかと言えば、彼らは海外に出て行きます。
図-4をご覧ください。北米、南米、オーストラリアなどを中心として、世界中にイタリア系の人は約8,500万人(2010年)もいます。
図-4をご覧ください。北米、南米、オーストラリアなどを中心として、世界中にイタリア系の人は約8,500万人(2010年)もいます。
南米、特にアルゼンチンはスペイン系が多い印象をお持ちかもしれませんが、実際にはイタリア系が非常に多いです。米国のボストンのイタリア人街などはよく知られていますが、そのような場所が世界各地にあります。
一方でイタリアは外国からの移民も多く受け入れており、その数は577万人(2011年)にも上ります。同図の右側はイタリアに暮らす移民の出身国別構成比ですが、最多数はルーマニアからの移民です。互いにラテン系欧州国ということで、親近感があるからではないでしょうか。
そんな中、移民受け入れに関しては近年社会問題化しつつあり、治安の悪化やゴミ問題といった地域生活の秩序の乱れなど、さまざまな問題を抱えています。
また、北アフリカのモロッコやチュニジアから大勢がボートに乗ってイタリアの島に漂着してくる光景(ボートピープル) は、日本でも話題になりましたね。
毎日数百人という大量の移民がイタリアになだれ込んでくることで、どこの国で受け入れ、どう対処していくのか、欧州全体を巻き込んだ深刻な問題となって議論を呼んでいます。
一方でイタリアは外国からの移民も多く受け入れており、その数は577万人(2011年)にも上ります。同図の右側はイタリアに暮らす移民の出身国別構成比ですが、最多数はルーマニアからの移民です。互いにラテン系欧州国ということで、親近感があるからではないでしょうか。
そんな中、移民受け入れに関しては近年社会問題化しつつあり、治安の悪化やゴミ問題といった地域生活の秩序の乱れなど、さまざまな問題を抱えています。
また、北アフリカのモロッコやチュニジアから大勢がボートに乗ってイタリアの島に漂着してくる光景(ボートピープル) は、日本でも話題になりましたね。
毎日数百人という大量の移民がイタリアになだれ込んでくることで、どこの国で受け入れ、どう対処していくのか、欧州全体を巻き込んだ深刻な問題となって議論を呼んでいます。
(次回へ続く)
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大前研一ビジネスジャーナル No.11(日本の地方は世界を見よ! イタリア&世界に学ぶ地方創生)
大前研一
株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長/ビジネス・ブレークスルー大学学長1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍するかたわら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長及びビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。
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