障害者雇用で起こりがちなミスマッチ①「能力や意欲以上に、高い業務レベルを求められる」(連載4回目)

(連載第4回)障害者専門の人材サービス会社「パーソルチャレンジ」に発足したパーソルチャレンジ Knowledge Development Project による、経営目線に立った障害者雇用の成功セオリー。障害者の人材紹介や雇用コンサルティングに携わる一方、自社でも多くの障害者を雇用する経験を踏まえ、企業と障害者がwinーwinの関係に近づくための「障害者雇用成功のポイント」を紹介します。

本連載は、書籍『障害者雇用は経営課題だった! 失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー』(2019年12月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。
今回(第4回)の記事では、障害者雇用で起こりがちな問題を、事例をもとにご紹介します。障害者雇用で起こりがちな問題として、以下の三点をピックアップしました。

①「本人の能力や意欲以上に、高い業務レベルを求められる」
②「高いレベルの業務をしたいのに、簡単な仕事しか与えられない」
③「志向も能力もそれぞれ違うのに、与えられる仕事はみんな同じ」


どの問題も、障害者の志向とアサインする業務レベルがマッチしていないことが原因です。
業務レベルとは、業務の難易度のことで、求められる専門スキルや課せられる業務課題の達成難易度のことだとご理解ください。また志向とは、障害者の方が持つ、はたらく目的や意欲を表しています。

以降の事例を通して、問題の背景や企業が受ける影響などを知ることで、障害者雇用の原則を掴むことができるはずです。

ケース① 能力や意欲以上に、高い業務レベルを求められる

ミスマッチのせいで悪影響が出てしまった失敗事例で多いのは、障害者本人の能力や意欲以上に高い業務レベルを求められるパターンです。
一般部署に配属され、一つの人事制度で運用している企業の過半数で見られる典型的な問題です。その中でも、特に深刻な状態だったA社を例に説明していきます。

【A社のプロフィール】
・社員数 1000名以上
・障害者雇用率は未達成の状況


会社の人事制度は総合職制度一本であり、法定雇用率達成のために幅広く障害者を雇用する場合も、総合職の採用基準をもとに採用活動をしてきました。
しかし現実として総合職の採用基準一本では、必要な人数分の障害者の採用が捗らず、部分的に基準を甘くして採用してきました。

その結果、アサインする業務も評価制度も総合職基準であるのに対して、求める業務レベルに満たない障害者人材が増加。また聴覚障害者に偏った雇用により、障害種別と業務内容とのアンマッチといった問題も発生していました。
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アンケート調査の結果、見えてきた課題

弊社で現状把握と対策立案の依頼を受けて、状況を把握するためのインタビューやアンケート調査を行いました。
対象は、人事部と障害者を受け入れている30以上の部署の部長と次長、そして所属している障害者約70名です。定量調査の結果、五つのことがわかりました。

雇用エリア、配属部署に偏りがある。3つの部署で障害者の85%以上をまかなっている
・雇用障害者のうち、聴覚障害者が45%、聴覚以外の身体障害者が50%と雇用が大きく偏っている
・適正な異動(配属部署、職種、職域など)がなされず、初期の配属先に長く留める傾向がある
・障害者の10%以上が職場環境に問題ありと回答。障害者による職場環境評価が低い
・人事評価において、一般社員の低評価出現率が25%であるのに対して、同部署内における低評価の障害者数は65%と著しく高い

このように、当該企業の障害者雇用では様々な形で問題が発生していました。
なぜこのようなことが起こっていたのでしょうか。

障害者と健常者を、同等の処遇で雇用した結果……

A社は、障害者も障害者雇用枠という特別枠ではなく、新卒・キャリア(中途)採用枠として健常者と同等の処遇で雇用していました。
適用する人事制度でも区別がなく、健常者と同等の対応です。募集給与も障害者だからといって低く抑えられることはありません。
これらの要因から、現状では必要な雇用数を達成し、一定水準で定着にも成功していました。

しかし、これは戦略的な施策による結果というよりは、顕在化しつつある課題をなんとか運用で個別解決してきた結果でもあったのです。

法定雇用率の上昇とあいまって採用する障害者の人数が拡大するとともに、徐々に問題が表面化してきました。一見うまくいっているように見えても、一枚皮をめくってみるとあちこちで問題が燻っていることが、調査結果にはしっかりと現れていました。

もともとA社は、能力が高く活躍志向の障害者を採用したいと考えていました。
しかし、労働市場にそのような人材は多くありません。法定雇用率に近づけようと採用の幅を広げた結果、志向や能力にばらつきが出てしまっていたのです。

配属先は、障害者に配慮された部署ではなく一般部署です。処遇が同等ですから、それに見合ったはたらきをしてもらうために通常の総合職レベルの業務をお願いすることになります。
能力が満たない方は目標に追いつけず、どんどんストレスが溜まっていました

評価制度も一般社員と同じものを使っているため、絶対評価ではなく相対評価です。能力が満たない場合は評価が低くなります。
データで見ても、一般社員における低評価の出現率が25%であるのに対し、障害者は65%と高率でした。評価が低いとモチベーションが下がり、職場環境への不満に繋がります。
また、昇給の基準も一般社員と同じため、給与が上がらないのも不満要因の一つにあります。

このように、高いレベルに合わせた同一の処遇で幅広い人材を採用した結果、一様の能力とレベルではない障害者と会社の間にミスマッチが発生してしまったのです。

さらに、障害者本人だけでなく、部署内の一般社員にマイナスの影響を与えることもあります。
「同じ処遇なのに、あの人は同じ仕事ができていないではないか」と不満が生まれたり、障害者のサポート担当者がストレスを抱えて退職したりする例も少なくありません。

障害者の能力と処遇のミスマッチを解消するには?

企業にかかるコスト面から見ても、このミスマッチはとても大きな問題です。
コストには障害者の採用にかけたコスト、教育やマネジメントのコスト、給与などがありますが、これらが全て「捨て金」になってしまうのです。

障害者雇用のコストを少しでも「活き金」にしたいのであれば、このミスマッチを是正すべきでしょう。
具体的には、同社の総合職採用という良い面は残しつつ、総合職レベルに達しない方向けの雇用制度(人事制度)が求められます。
必要なスキル、評価制度、処遇を整理し、志向や業務レベルに合わせて何段階か用意すればいいのです。

これまでの経験からすると、ほとんどの場合で志向と能力は相関関係にあります。
「自分のペースを守ってはたらきたい」志向が強い方は、ストレスレベルの高い業務が苦手であることが多いものです。ストレスレベルが高い業務とは、納期が短い、品質基準が高い、業績課題が大きいといった仕事です。
「ストレスレベルの高い仕事はできない。自分のペースを守ってはたらきたい」というのが悪いということでは決してありません。ただ、職場環境と本人の希望がミスマッチになってしまうと、雇用者も障害者もお互い不幸になるだけなのです。

「障害者雇用は社会貢献だからコストは考えない。いくらかかってもいい」と考える企業もなかにはあります。福祉の専門家が作成した指導要綱やテキストに沿って運用している企業に、見られる事例です。
それはそれで、経営判断として納得されているなら問題はありません。
しかし、適度に仕事を与えて適度に成果を求めない組織は、結局衰退してしまうことが多いのです。

私たちは、障害者人材を活用し、障害者雇用のコストを少しでも「活き金」にするためには、ミスマッチは是正すべきだと考えています。

重要なのは、戦略として納得して雇用施策を選択することです。
現状把握も戦略もなく、なんとなく雇用してなんとなくコストがかかっているという状況が問題だと言えます。そして、そういった企業がとても多いのが実情なのです。

障害種別の絞り込み効果を高めるには、工夫が必要

A社では聴覚障害者を多く採用していましたが、それにも限界が見えていました。

A社に限らず他の企業でも、業務の生産性や雇用管理のしやすさから障害種別を絞って雇用する傾向があります。特にオフィスワーク系の職種で多く見られるようです。
雇用管理も、障害種を限定することで業務内容と配置部署・就業場所を集約し、配慮事項と管理者を一元化するといった工夫で、一定の生産性を維持している企業もあります。

しかし、A社では障害種別の絞り込み効果を高めるための工夫が特に見られませんでした。
A社が採用している障害者の実に45%が聴覚障害者です。これは労働市場全体から見るとかなり偏った数字です。聴覚障害者の労働市場構成比は9%前後。パーソルチャレンジの人材紹介登録者数でも、聴覚障害者の構成比は8~9%となっています。

45%という高率で聴覚障害者を採用し集中雇用などの工夫もなく、バラバラに一般部署配属を続けるのは困難でしょう。法定雇用率の引き上げに対応するためには、配属などの工夫とともに他の障害種別の方も採用する必要があります。

人事異動の課題と、受け入れ部署の負担

適切な人材配置が行われていないことも無視できません。
A社の人事異動周期は3年程度です。しかし、障害者の場合は5割以上が3年以上同一部署に滞留し、6年間異動がないスタッフも約3割いました。

一般社員は、様々な部署を経験することでスキルアップ・キャリアアップの機会を得ています。ということは、何年も同一部署に留まっている障害者の中にはスキルアップ・キャリアアップの機会を与えられていない社員も含まれている恐れがあります。

このケースでは、障害者スタッフの異動希望者は約3割でした。異動の希望がなかなか通らない状況も、障害者のストレス要因になります。

異動の希望がなかなか通らない原因は、A社の障害者受け入れ体制にありました。
業務レベルが高い人材を想定していたこともあり、A社には障害者雇用を支える専門スタッフやサポート体制がありません。部署の管理者に一任するという属人的な体制です。

受け入れ部署にとって、人事のサポートもマニュアルも何もない状況で、通常業務の合間に障害者スタッフをサポートするのは大きな負担です。
その結果、面倒見が良く優しい管理者がいる部署に障害者が偏ってしまいました。約30の部署があるにも関わらず、採用した障害者の85%を三つの部署で受け入れていたのです。

サポート不足が職場環境への不満に直結する

受け入れ後、サポートがままならない場合も多々あります。そこで不満を感じた障害者が異動したいと思っても、今度は受け入れてくれる部署が見つかりません。
この悪循環により、障害者本人の職場環境評価も低くなったのではないかと推測されます。

受け入れ部署に一任していると、各部署で同じような問題が起こり、受け入れ部署も障害者本人も疲弊してしまいます。
「採用して配属したら人事の仕事は終わり」ではなく、採用後の定着も人事がリーダーシップを取ってサポートするべきでしょう。

人事ができるサポートの具体例として、配属先の管理者や現場スタッフへの研修、マニュアル作成、障害者本人への定期的な面談の実施などが考えられます。
管理者が異動したときに引き継ぎがなく、新しい管理者も障害者も困ってしまうという事例も絶えません。引き継ぎトラブルを防ぐためにも、引き継ぎ資料は人事がストックしておくことが理想です。

さらに一歩踏み込んで、障害者を一定期間受け入れ部署ではなく人事部のヘッドカウントに入れ、人件費も人事部持ちにする方法もあります。
こうすれば受け入れ部署の負担は減りますし、人事部も当事者意識を持ってサポートすることが可能です。

こういったサポート体制にもコストはかかります。しかし、安定して活躍できる障害者が増え、受け入れ部署の負担が減るのであれば、このコストは「活き金」と言えるのではないでしょうか。

どんな施策を行うにしても、最初に必要なのは現状の把握です。
「なんだか大変だ」「法定雇用率が達成できない」ということは感じていても、どこにどんな問題があるかわからなければ手を打つことはできません。
私達も企業から相談を受けると、まずインタビューやアンケートなどの調査を行います。
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複数のはたらき方を用意することで、障害者の不満もコストの問題も解決できる

法定雇用率を達成するために、暗黙のうちに採用基準を下げて障害者を採用した場合、A社のような状態になる可能性は極めて高いのです。

この問題を解決する方法は、志向や実力にマッチしたはたらき方を選択できるようにすることです。そうすることで、コストの問題も改善できます。

また、配属後のフォローが配属部署任せになっている場合は要注意です。
人事部がリードして、障害者のフォロー体制を構築する必要があります。

フォロー体制や人事制度については、書籍『障害者雇用は経営課題だった! 失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー』第三章でも説明していますので、ぜひ参考にしてみてください。

障害者雇用は経営課題だった! 失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー

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