障害者雇用で起こりがちなミスマッチ③「志向はそれぞれ違うのに、与えられる仕事はみんな同じ」(最終回)

(最終回)障害者専門の人材サービス会社「パーソルチャレンジ」に発足したパーソルチャレンジ Knowledge Development Project による、経営目線に立った障害者雇用の成功セオリー。障害者の人材紹介や雇用コンサルティングに携わる一方、自社でも多くの障害者を雇用する経験を踏まえ、企業と障害者がwinーwinの関係に近づくための「障害者雇用成功のポイント」を紹介します。

本連載は、書籍『障害者雇用は経営課題だった! 失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー』(2019年12月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。
今回(最終回)の記事では、前回に引き続き、障害者雇用で起こりがちな問題を、事例をもとにご紹介します。障害者雇用で起こりがちな問題として、以下の三点をピックアップしました。

①「本人の能力や意欲以上に、高い業務レベルを求められる」
②「高いレベルの業務をしたいのに、簡単な仕事しか与えられない」
③「志向も能力もそれぞれ違うのに、与えられる仕事はみんな同じ」


どの問題も、障害者の志向とアサインする業務レベルがマッチしていないことが原因です。
業務レベルとは、業務の難易度のことで、求められる専門スキルや課せられる業務課題の達成難易度のことだとご理解ください。また志向とは、障害者の方が持つ、はたらく目的や意欲を表しています。

以降の事例を通して、問題の背景や企業が受ける影響などを知ることで、障害者雇用の原則を掴むことができるはずです。

ケース③ 志向はそれぞれ違うのに、与えられる仕事はみんな同じ

ご相談いただいたC社は、さらに厳しい状況でした。
法定雇用率は長期間未達成。その年当時は障害者雇用率が2%未満で、ハローワークから是正指導が来ていたのです。離職率も10%以上と思わしくありません。

しかも、法定雇用率を達成するために必要な業務レベルに達しない方も雇用した結果、「お願いできる仕事がない」といった状況が散見されました。

【C社のプロフィール】
・社員数 1000名以上
・障害者雇用率は未達成の状況
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能力と意欲で二極化する障害者

C社の募集条件は、一見するとそれほど悪いようには思えませんでした。
障害者配慮の重要な要素として、通院があります。C社のシフト勤務では有給を消化せずに通院することが可能で、障害者に好評な制度でした。
障害者と健常者を区別せず、同じ人事制度の枠内で障害者雇用を進めてきたことも強みの一つです。

しかし、最初に述べた通り、離職率は10%以上とかなり高い状況でした。
新規採用者数の70%が離職している年度もあります。また、休職している社員も10%近くおり、離職リスクが高い状況にありました。
これらのことから、雇用定着のための施策が不十分な状態で採用を継続していることが推測できました。

障害種別の多様化も進んでいません。近年は精神障害者の雇用に取り組む企業も増えていますが、C社は身体障害者を中心に進めてきたため、身体障害者の割合が約80%と高く、精神障害者の割合は20%です。

人事評価でも良くない変化が見られました。
ここ数年で平均値を下回る評価を受ける障害者が急激に増加していたのです。2年前には全くいなかった低評価の人材が、調査時点では5割近くにまで増えていたのです。

データからもヒアリングの結果からも、能力・意欲が高い障害者層と能力・意欲が高くない障害者層の二極化が進んでいることがわかりました。
この評価が低い層の増加が、さらに障害者雇用の推進を妨げていることも考えられます。
障害者の非配属部署が多く、障害者の受け入れを本格的に進めきれていないことが調査結果にも現れていました。

障害者雇用は、ダイバーシティ施策ではカバーできない

C社の根本的な問題は、障害者雇用に対する教育とコンセンサス形成が大きく不足していることです。
採用担当者以外に障害者雇用に対する知識や理解を持っている部門長やスタッフが少なく、障害者本人からも上司や同僚の理解不足、知識不足といった意見が寄せられました。

C社は以前からダイバーシティに大きな関心を寄せ、努力されていました。このこと自体は悪いことではありません。
しかし、障害者雇用もダイバーシティの一つのジャンルという扱いを続けた結果、それだけでは対応しきれない状況になっていたのです。

一般的に、ダイバーシティは一定の業務能力を前提に、国籍や人種、性別、宗教、障害の有無などの属性の多様性と、勤務時間やはたらく場所、雇用形態などのはたらき方の多様性を認めることです。
一方で、障害者雇用は能力の多様性を前提としています。
ダイバーシティ雇用と障害者雇用を兼ねている場合も多いと思いますが、重ならない部分があるということも理解する必要があります。

障害種別により受け入れ体制に差が

障害種別についても、多様な人材の受け入れが必要です。
まず、C社で雇用されている障害者について、障害種別ごとに見てみましょう。

C社は身体障害に関しては下肢・上肢だけでなく免疫機能障害まで採用枠を広げています。また、半数以上の身体障害者が標準レベルで業務を遂行しているため、受け入れ部門に対するネガティブな印象は強くないはずです。

しかしアンケートの結果、障害者が所属していない部門長の60%、所属している部門長の35%が受け入れに消極的であり、受け入れ拡大には課題が多いことがわかりました。

私達はC社の部門長が「受け入れるのは困難」と感じる理由を調べてみました。
(調査結果は回答の構成比を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%とはなりません。)

身体障害者を受け入れるのを困難と感じる理由
 ・スキルや適性に合った業務を切り出すのが困難(40%)
 ・部署内の指導スタッフや周囲のメンバーの負担が大きい(20%)
 ・設備や施設を整えるのが大変(5%)
 ・その他(30%)

精神障害者を受け入れ困難と感じる理由
 ・スキルや適性に合った業務を切り出すのが困難(35%)
 ・部署内の指導スタッフや周囲のメンバーの負担が大きい(30%)
 ・あまり接したことがないからわからない(20%)
 ・その他(10%)

知的障害者を受け入れ困難と感じる理由
 ・スキルや適性に合った業務を切り出すのが困難(35%)
 ・指導者や周囲のメンバーの負担が大きい(30%)
 ・あまり接したことがないからわからない(20%)
 ・その他(10%)

精神障害者の場合、身体障害者のように障害の状況が外見から確認できないため、どんな配慮が必要かわかりにくいという声が聞かれました。また、勤怠が不安定なため、業務を割り当てることが困難という意味も含んでいます。

また最大の懸念事項は、知的障害者に対応した業務の切り出しの難易度が最も高いと考えられていることです。切り出し作業ももちろん容易ではありませんが、仮に業務を切り出すことができても業務に見合う給与制度がありません。
アンケートには現れていませんが、知的障害者の雇用に対応した受け入れ制度がないことも課題になっていると考えられます。

障害者雇用への意識変化と、複数の雇用モデルが必要

C社が抱える問題の解決方法として、まずは障害者雇用に関する研修の実施や、社内広報の改善を提案しました。
部門長だけでなく、エキスパート社員やフレックス社員を含む社員が正しい知識を持ち、障害者雇用に対する意識を変える必要があると考えたのです。

当然、長期的な法定雇用率の未達成により、ハローワークから是正指導を受けている事実も共有し、危機感を持っていただくべきです。

さらに、C社にも障害者雇用の複数モデル化を提案しました。
全ての障害種別や能力格差のある障害者を、何の基準もなく採用することは不可能です。受け入れ可能な障害種別や要件を整理し、いくつかの雇用モデルを検討するのです。
そのためには、それぞれの雇用モデルに適した業務と給与設定が必要です。雇用モデルが決まれば、それに合った人材要件を定義することができます。
採用から受け入れ、定着までのプロセスを雇用モデルに沿って見直すのです。

障害者を無原則で採用する場合は、とりあえず採用してからできる業務を考え、それに合った給与を支払うというフローになりがちです。
しかしそうなると「お願いできる業務がない」「給与を払いすぎてしまう」といった問題が起こってしまいます。
「最初に割り当てる業務を決め、業務に見合った給与を設定し、業務レベルに合う方を採用する」というフローにするべきです。通常の中途採用は後者のようなフローで行います。
誰でもいいから採用して、採用後に業務を決めるというフローはあり得ません。障害者雇用にも、通常の中途採用と同じフローを適用すればいいのです。

さらに、人事制度の改善についても提案しました。
現行の制度では能力格差を前提とした多様な障害者雇用には対応できず、設定できる業務の難易度や業務量が限られてしまいます。
職種についても、現状の一般社員、エキスパート社員、フレックス社員とは異なる新たな職種を設定し、職種定義を拡大しなければなりません。
その際には、下限を最低賃金とする給与レンジが必要です。障害者雇用を複数モデルにした場合は、評価制度も複数用意することが求められます。

障害者雇用の主管部門は人事部

障害者の受け入れ体制については、人事部と配属部署の管理者の役割分担に関してご説明しました。
当時、配属後は全て管理者に任せきり。負担が大きいのはもちろん、障害者雇用への理解も不十分だったため、適切なフォローが行われていませんでした。

障害者雇用の主管部門は人事部です。
障害者雇用に関する責任や役割負担を明示することで、配属部署の負担を軽減することができます。
業務割り当ても人事部がサポートすべき分野です。職務の「見える化」を進めて障害者が担当する業務を把握し、採用時や配属時のマッチングにも参画すべきです。

採用時や配属時に複数の勤務可能部署を明示して、障害者に選択肢を提供していくことも、採用競争力や定着率の向上には有効です。

配属後も人事部の定期的なフォローが欠かせません。
配慮要請を言葉にできない障害者が多いため、配慮事項の確認や徹底には人事部が仲介した方が効果的です。
合理的配慮事項の確認なども、定期的に人事部が関わる必要があります。

C社は特に精神障害者のサポート体制が遅れていました。支援機関を利用していない精神障害者には、適切な支援機関との関連付けをサポートするといいでしょう。
業務上のサポートは会社で行いますが、それ以外のサポートは支援機関の協力が必要になるため、支援機関との連動体制の構築も不可欠です。
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障害者には、障害者専用のマネジメントが必要

一定の業務能力を前提に多様性に対応するD&Iの考え方では、多様な業務能力を持つ障害者に対応することができません。

障害者には、障害者専用のマネジメントが必要だと言えるでしょう。
障害者が志向に合わせたはたらき方を選択できないことや、社内のフォロー体制の不備など、C社にもA社・B社と同様の問題点がありました。

複数の問題点を一度に解決するのが難しい場合は、期間を区切って改善計画を立ててみてください
その際には、改善の順番が重要です。障害者の受け入れ体制を整えてから、採用する人材の幅を広げましょう。

志向に合ったはたらき方を選択できれは、多様な障害者が安心してはたらける

ケース①ケース②、ケース③(本記事)の3社の事例を見てみると、課題の原因は一見バラバラなようでも、最後は同じ解決方法に収束されるということがわかります。

障害者雇用の課題解決策は、障害者本人の志向と、割り当てる業務レベルのミスマッチ解消にあると言えるでしょう。

法定雇用率を達成し、企業や日本の社会全体にポジティブな影響を与えるためには、企業が多様な障害者を雇用することが必要不可欠です。
その中には、レベルの高い業務にも対応できる意欲の高い人材も、簡単な業務を担当し自分のペースを守ってはたらきたい人材も含まれています。

障害者をひと括りにして考え、同じはたらき方を押し付けてはいけません。それぞれの志向に合ったはたらき方を用意し、多様な障害者が安心してはたらくことができる環境を整えるべきです。

障害者雇用は経営課題だった! 失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー

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障害者雇用に迷う、すべての企業経営者に!
障害者専門の人材サービス会社「パーソルチャレンジ」に発足したパーソルチャレンジ Knowledge Development Project による、経営目線に立った障害者雇用の成功セオリー。企業と障害者がwinーwinの関係に近づくための「障害者雇用成功のポイント」を紹介します。
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