「やっぱり障害者雇用は無理。納付金を払うしかない」と思っているあなたへ(連載2回目)

(連載第2回)障害者専門の人材サービス会社「パーソルチャレンジ」に発足したパーソルチャレンジ Knowledge Development Project による、経営目線に立った障害者雇用の成功セオリー。障害者の人材紹介や雇用コンサルティングに携わる一方、自社でも多くの障害者を雇用する経験を踏まえ、企業と障害者がwinーwinの関係に近づくための「障害者雇用成功のポイント」を紹介します。

本連載は、書籍『障害者雇用は経営課題だった! 失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー』(2019年12月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。

法定雇用率と早期退職率から見る、障害者雇用の現状

あなたの会社は障害者の法定雇用率を達成できていますか?
とても基本的な質問ですが、この時点で耳が痛いという方も多いかもしれません。

厚生労働省がまとめた「平成30年 障害者雇用状況の集計結果」によると、法定雇用率達成企業の割合は45・9%。達成できていない企業の方が多い状況です(※厚生労働省「平成30年 障害者雇用状況の集計結果」)。

「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、法定雇用率が達成できなくても罰則や制裁の定めはありません。しかし、101人以上雇用している事業主は、法定雇用障害者数に不足する障害者数に応じて1人につき月額5万円の障害者雇用納付金を納める必要があります。

障害者雇用は、採用して終わりではない

その一方で、法定雇用率を達成している企業もあります。
この法定雇用率を達成している45・9%の企業は、障害者雇用が成功している何の問題もない企業なのでしょうか。
私達はそうは思いません。法定雇用率達成のために数合わせの採用をしただけでは、社内で様々な問題が発生します。

雇用は採用して終わりではありません。むしろ採用はスタートでしかなく、採用後それぞれの部署に配属され、長くはたらいていただいて初めて成功と言えます。

その指標になるのが早期退職の割合です。離職率に関しては行政公表の一貫したデータがないため、一例として私達パーソルチャレンジが採用支援した方のうち、6ヶ月以内に退職した障害者の退職時期を調べたところ、17・3%が1ヶ月以内60・1%が1ヶ月~3ヶ月以内22・6%が3ヶ月~6ヶ月以内に退職していることが明らかになりました。
かなり早い段階で退職していることがわかります。早期退職に至るケースはごく一部ではありますが、これは看過できない数字です。

障害者雇用のコストは、中途採用コストに埋没している

ここで、障害者雇用のコストについて考えてみましょう。
人材紹介会社を通じて採用する場合、1人にかかる採用コストは100万円前後と申し上げました。特例子会社など障害者を集合雇用しているケースを除き、障害者雇用に関するコストは中途採用コストに埋没してしまい、正確に把握できている企業自体が少ないのが実態です。

面接・選考・採用後の教育といった、数字に現れにくいコストもかかっています。
このようにコストだけに着目しても、早期退職によるマイナス面の大きさがおわかりいただけると思います。

法定雇用率を達成するためにとりあえず数だけ合わせて採用しても、採用後の定着がうまくいかず早期退職となってしまうと、企業も障害者も不幸な結果を迎えてしまうのです。

障害者雇用のコストを把握すべき理由

実は、障害者雇用とコストを関連付けて語ること自体、業界では長くタブー視されてきました。しかし、私達は意識的にコストのお話をしています。理由は二つあります。

一つは障害者雇用促進のためです。コストを度外視した施策は長く続けることができません。
障害があってもなくても、どんな方を採用してもコストはかかるもの。適切なコストの管理が障害者雇用の促進に繋がるという考えが根本にあります。

もう一つは企業における障害者雇用の問題を可視化するためです。
いろいろな企業のお話を聞いていると、障害者雇用のコストについて把握されている方はほとんどいらっしゃいません。中途採用コストに埋没する、専任の担当者がいない、費用対効果を意識していない、縦割り組織で他部署や経営層と状況を共有していないなど、様々な要因から「何にどのくらいお金がかかっているのか、誰もよくわかっていない」という状況が生まれています。
こうなると、他のタスクに紛れて優先順位がどんどん下がり、改善が後回しになる一方です。

障害者雇用問題の解決には、障害者が活躍するための人事制度の改定、部署の新設などの経営判断が必要になります。受け入れ部署との連携も不可欠で、人事部だけで完結できる問題ではありません。
コストを明らかにすることで定量的に問題を捉えやすくなり、社内での優先順位を上げる効果を期待しているのです。

これらの考えから、私達パーソルチャレンジはコストの問題とも真摯に向き合い、経営的な観点からお手伝いを続けています。
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日本全体から見た障害者雇用の意義

ここまでご説明させていただいた内容や、ご自分の会社で障害者雇用に挑戦し挫折した経験から「やっぱり障害者雇用は無理! 必要経費だと思って納付金を払った方がいい!」とお思いの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、障害者雇用は自社だけでなく、社会全体を通して捉える必要があるのです。自社の手間やコストを鑑みたときに、「納付金を払う方が合理的な選択だ」とお考えになる気持ちはわかります。

障害者雇用促進法は、社会政策であり労働政策である

ここで障害者雇用促進法の本来の意味を、もう一度考えてみましょう。
障害者雇用促進法は、「共生社会の実現」「雇用の促進」「職業の安定」の三つを目的としています。これは社会政策であり労働政策です。
2018年度の日本の社会保障関連費は約33兆円(※参議院「平成30年度(2018年度)社会保障関係予算」)。20年前の1998年は15兆円以下でした(※財務省「社会保障について」)。

このままいくと2040年には社会保障給付費が約190兆円に達するという試算もあります(※内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」)。
なかなか厳しい金額だということがおわかりいただけるはずです。

そこでどうするかというと、方法は大きく分けて二つ。
保障の金額を減らすことと、財源を増やすことです。家計でも商売でも同じですね。支出を減らして、収入を増やせばいいのです。

そのために、障害者にもできるだけはたらいてもらおうという意図もあります。はたらいて収入があれば保障は減らせますし、障害者本人が納税者になることで税収が増えます。

本質的な意義を踏まえた障害者雇用を

もちろん、障害者雇用の意義はそれだけではありません。
障害者が社会との繋がりや生きがいを得ることになりますし、多様な人々に接することで企業側の視野が広がるという意義もあります。生きがいや視野の広がりはとても大切なことです。

それにプラスして、障害者雇用は切実な「お金の問題」を抱えていることを知っておいてください。日本全体の将来を考えると、障害者雇用を促進する方がメリットは大きいのです。

法定雇用率や納付金制度は障害者雇用促進法で決まっています。これは強制力のある「法律」です。
労働基準監督署やハローワークが、監査監督や監督管理をし、指導を行ったり罰則を科したりすることができます。これはとても重要なことで、事業主の責任も非常に重いものです。

コンプライアンスや多様性が重視される世の中で、「未達成でいいや」「納付金を払えばいいや」という考えは、今後ますます通用しなくなっていくでしょう。
「法律で必要採用数が決まっているから」というだけでなく、障害者雇用の本質的な意義を踏まえた上で、障害者雇用に前向きに取り組んでいただきたいのです。

障害者雇用は経営課題だった! 失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー

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障害者雇用に迷う、すべての企業経営者に!
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