障害×AI/IoT=イノベーション 「障害者」の視点が、日本のスマート技術を飛躍させる!

【連載第6回】IoT/AIによる「障害者のソーシャル・インクルージョンの実現」を目的に設立された「スマート・インクルージョン研究会」代表の竹村和浩氏による連載第6回。今回は、障害とテクノロジーの関係性について語っていただきました。

記事のポイント

IoT/AIによる「障害者のソーシャル・インクルージョンの実現」を目的に設立された「スマート・インクルージョン研究会」代表の竹村和浩氏による連載第6回。今回は、障害とテクノロジーの関係性について語っていただきました。

●GoogleとGM提携の意味するところとは?
●障害者は高齢者の「先輩」!?
●IKEAはなぜあんなに人気があるのか?
●「障害を持つ人たちの視点から」開発を!

前回までの記事はコチラ

【第1回】障害があってもなくても誰もが同じ地平で生きていく―インクルーシヴ社会を理解する
http://biblion.jp/articles/DQ7lr

【第2回】分離からインクルージョンへ! 障害のある子もない子も同じ場で学ぶ教育とは?
http://biblion.jp/articles/tJ5k2

【第3回】障害を持って生まれた娘が教えてくれた、インクルージョンの大切さ
http://biblion.jp/articles/PFWEl

【第4回】“子供より先に死ねない親たち”の思い
http://biblion.jp/articles/H9trE

【第5回】2020年東京オリパラが「AI/IoT×障害=?」の答えとなる理由
http://biblion.jp/articles/26RZn

GoogleとGM提携の意味するところとは?

今年初め、米国の自動車メーカーGM(ジェネラル・モータース)が日本市場撤退を発表しました。そしてその直後、Googleとの提携を発表しました。なぜ、Googleと?その答えは明確です。日本市場で、強みを生かせなかったGMは、Googleと組むことで、将来の自動運転での主導権を取り、それをもって、再度日本市場のみならず、世界市場を席捲する戦略にでた、ということです。

実は、これにはさらに深い意味があります。私が代表を務める「スマート・インクルージョン研究会」の名誉会長・村上憲郎も指摘しているように、これは、Googleにとっても、非常にありがたい提携であったということです。
既にIoTインフラの分野では、主としてGoogle、Amazon、Appleが全世界的にネットワークを構築しています。しかしながら、ネットワークがあるからと言って、それだけで、IoTの世界を制覇できたことにはならないです。つまり、そのネットワークをどう使うのか?そのノウハウが重要なのです。その点、GMは、市場の顧客と直接つながりがあり、その顧客ニーズに応じた自動車といういわば「デバイス」を創っている会社です。何のために、ネットワークを使うのか?その用途が、IoT別名「Industry 4.0」の世界では重要になってくるのです。

しかしながら、誤解を恐れずに言えば、これも十分ではないと私は考えます。なぜなら、GMは日本での市場顧客ニーズをつかみきれなかったために、日本市場を撤退したはずだからです。ということは、商品開発のための市場ニーズの把握は、どの企業も苦労していることであり、必ずしも、IoTネットワーク網と製造業との連携が、その解決とはならないということを示しています。

では、どうすればいいのか?
私は、このIoT・Industry 4.0の時代においては、むしろ、「障害者の視点」こそが、社会の自動化という局面では、非常に重要な要素となると考えます。
なぜなら、それぞれに障害をもって生活をしている障害者の視点こそが、社会の自動化というトータルの社会システムでは、市場ニーズそのものであるからです。IoT・Industry4.0の時代の商品開発ニーズは、まさに「障害者に聞け!」ということなのです。

障害者は高齢者の「先輩」!?

同じようなことが、高齢者介護の世界においてもいえます。IoT・AI・ロボットの応用分野といえば、すぐに、介護現場が思い浮かび、実際、多くの投資も既に行われています。

先日、ある介護ビジネスの会社社長の講演を聞いていた際、その社長が、「介護ビジネスの面白さ、難しさというのは、私たち自身がそのサービスの顧客になれないところにあります」といった趣旨のお話をされていました。それは、介護ビジネスの顧客になるためには、既に介護が必要な状態、つまり歩けなくなったり、寝たきりになったり、あるいは認知症を発症している状態でなければ、そのサービスを受けられないということです。
つまり、そのサービスの顧客になるときには、既に、そのニーズをきちんとフィードバックできる状態ではないことが多いということです。ですから、真の顧客ニーズを探る点に、介護ビジネスの面白さと難しさがある、と言われたのです。

このお話を伺ったとき、私の頭には、「ならば、個々にではあるけれども、それぞれに障害を抱えて、既に社会で生活をし、不自由を抱えている、身体・知的・精神・視覚・聴覚障害の人たちがいるではないか?」という考えがよぎりました。その人たちからは、まさに必要とされるニーズを直接聞くことができるのではないかと思ったのです。
また、知的障害者を持つ人たちの場合、認知症と同様に本人からのニーズは聞きにくい場合もありますが、(無論そうでないかたも大勢いらっしゃいます)私たち知的障害を持つ子の親が(私にはダウン症を持つ娘がいます)、そのニーズを十分に把握し、伝えることが可能です。

私たちも高齢化すれば、徐々に目が不自由になり、耳も遠くなり、また、認知症などで、判断力や記憶力が衰えてきます。それらを障害と言い換えれば、それぞれの障害を既に抱え、不自由を抱えながら社会を生きている人たちが、既にたくさんいる、ということなのです。
であれば、私の娘のように障害を抱えて生きる人たちの視点は、まさに、「高齢者のいわば先輩」だということができるのです。

そうはいっても、一見、障害とテクノロジーは、つながりを連想することが難しいだろうと思います。しかし商品開発においては、この障害者の視点こそが、極めて重要な役割を果たすことは、日本以外では既に知られ、実践されています。

スマート・インクルージョンという発想 IoT/AI×障害者が日本の未来を創る!

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IoT/AIの活用による、障害のある人もない人も、誰もが安心・安全に暮らせる心豊かな社会の実現と、障害者の視点からのIoT/AIの開発を目指して活動している「スマート・インクルージョン研究会」代表の著者による、スマート・インクルージョンという考え方の提唱と、同研究会のビジョン・取り組みを紹介する一冊。

IKEAはなぜあんなに人気があるのか?

日本でも人気のあるスウェーデン生まれの雑貨家具店「IKEA」。実はこのシンプルで美しくかつ安価なIKEAの商品は、元をたどれば、スウェーデンの障害者施策から来ているといわれています。
1969年にスウェーデンが世界に先駆けて障害者法を制定しました。IKEAの商品開発においても、ユニバーサル・デザインを取り入れることにより、いかに障害者にとっても使いやすい商品であるかが検討されるようになり、その結果、シンプルかつ美しいデザインが、生まれたのです。

そのほかにも、イームズという有名な椅子があります。合板を加工して作ったイームズの美しいデザインは、戦争中に足を怪我した人のために、従来の金属製の添木があまりに冷たく使いにくいということから、合板を使って開発依頼されたものであり、それが現在のイームズのデザインの原点なのです。

さらには、日本のファンケルという化粧品メーカーでは、視覚障害の方の知見を活かし、シャンプーとリンスの形状を四角と三角にすることで、シャンプーしている際目を閉じているときでも、手の感触で区別ができ、シャンプーとリンスを間違えずに使える工夫をしています。

ここに挙げたものは、ごく一部の例に過ぎません。既に欧米、とりわけ北欧では、産官学の共同でLaboを設置し、商品開発の際に「障害者の使い勝手を調査してその知見を活かす試み」が、既に20年前から実施されてきています。
日本でも、同様の取り組みを、今度は、IoT・AI・Industry4.0の分野で世界に先駆けて実現したい、という考えが、スマート・インクルージョン研究会、「インクルーシブ・スマート」技術という考え方なのです。
イームズの椅子

イームズの椅子

「障害を持つ人たちの視点から」開発を!

ここ数年、日本の大手家電メーカーが、海外の会社に買収される、ということが相次ぎました。無論、もともと日本という市場に5~7つもの「総合家電メーカー」があること自体、普通ではなかったので、ある意味当然の結果とも言えますが、しかしながら、そこには今の製造業を含む、日本の企業の問題点が浮かび上がっています。

その最も大きな問題点は、技術開発の「タコツボ化」です。
これは製造業だけでなく、専門分野が細分化された、理系・工学系の大学での研究開発においても同様のことが言えます。
それぞれが、いいと思うあるいは、興味のある商品開発分野に特化して開発しているのですが、それが本当に役立つのか、という市場ニーズの視点が欠けてしまっているのです。
また、IoT・AIの分野においても、いったい何のために、その商品、技術、システムを使うのかが、こちらは逆に明確すぎて、広い範囲でのいわゆる「汎用性」が不足している、という点です。

また、IoT/AIにおいても既存の自社技術を活かす、という視点のみに立脚し、トータルでの社会の自動化、という視点がないために、結局は単発技術の開発となり、他のよりネットワークに連動したサービスに負けてしまう、というものです。では、どのような視点で、技術開発をすればよいか?
その答えこそが、「障害を持つ人たちの視点から」開発する、ということなのです。
障害者のニーズは、個々の障害の区別はあったとしても極めて明確であり、それこそが、社会の自動化という課題を解決する手段そのものなのです。
ただ、そうした視点からの技術開発は非常にハードルの高いものになるといわざるを得ません。そして、だからこそ、日本の製造業が今チャレンジすべき目標ともなりうるのです。欧米の「ヴィジョン型の経営」が、テクノロジーの進んだ今、非常に力を発揮しています。ヴィジョン型とは、理想を掲げ、「こうあるべき」という明確な目標とヴィジョンを掲げて進んでいくやり方です。
日本はどちらかといえば、日々の業務の改善・改良を続けていく中で、現場から積み上げる、いわば「オペレーション型の経営」をしています。もちろん、ヴィジョンという日本人の感覚からすると絵空事のように思える「理想」を自ら構想し、実現するという故スティーブ・ジョブズのような経営は中々できるものではありません。

しかしながら、この障害者の視点という高いハードルは、求められる技術の高さゆえに、いわば理想であり、ヴィジョンに近いものだといえます。しかも、実際に社会ですぐにでも必要とされている、顧客ニーズそのものでもあるのです。
しかも、従来最も難しいといわれる知的障害こそが、これからのIoT・AIの時代には必要とされる存在、かつ視点であると考えています。

それは、AI(人工知能)が、今後のすべてのカギを握っているからなのです。

(次回へ続く)
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グーテンブック編集部 グーテンブック編集部