じゃまな電線、電気コードをなくして「ワイヤレス」に!【スマホでサンマが焼ける日】

【第7回】電気・エネルギー業界は今、50年に1度の大転換期を迎えています。電力自由化をきっかけに各家庭へのスマートメーター導入が開始され、電力産業、電力関連ビジネスは一気にデジタル化の道を歩み始めました。本連載では、RAUL株式会社代表取締役の江田健二氏が、IoTとも密接な関係を持つ電力とエネルギーの未来を、ワイヤレス給電、EV(電気自動車)、ドローン、ビッグデータ、蓄電池、エネルギーハーベスティング、VPPといった最新テクノロジーの話題とからめながら解説します。

本連載は、書籍『スマホでサンマが焼ける日』(2017年1月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。

無電線化のメリットとデメリットとは?

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、東京都の小池百合子知事が、都内の電柱をなくし電線を地中に埋める「無電柱化・電線地中化」を公約に掲げています。
このプロジェクトを実行するためには莫大な費用と時間がかかることはもちろん、電線を地中化したあとの送電線のメンテナンスが今よりも大変になり、災害などによるトラブル時の復旧に時間がかかるのではという懸念など多くの問題もあります。 
しかしメリットとしては、「景観の向上」「安全で快適な歩行空間の確保」「都市防災力の強化」などがあります。
こうしたメリットとデメリットの両方を考慮し、慎重な判断が必要なプロジェクトと言えるでしょう。

進化する「ワイヤレス給電」

さて、みなさんの身の回りに目を向けてみてください。
家の中には街中の電線のように、電気を送るためのたくさんの電気コードがあると思います。テレビ、ラジオ、オーディオ、電話機、照明、パソコン、スマートフォンの充電器、季節によっては扇風機やストーブなどの家電。場合によってはタコ足配線になっていたり、コード同士がからみあってぐちゃぐちゃになっていたりしませんか。

また、電源コンセントの位置によっては、家電を置く位置が制約されてしまったり、何メートルもの延長コードが必要になったりと、室内のレイアウトにいろいろ頭を悩ませている方も多いでしょう。
一方、掃除機やアイロン、ヘアドライヤーなど動かしながら使う家電も随分コードレス化商品が普及してきましたが、まだまだコード式の家電を使っている家庭が多いかと思います。
「この家電がコードレスになればいいのに」「電気コードが必要なくなれば部屋が綺麗になるのに」「電源コンセントの場所に縛られずに家電を自由にレイアウトできたらいいな」と思っている人も多いのではないでしょうか。

そんな多くの人たちが感じている「ワイヤー(線)に縛られた」生活の不便さを解消してくれそうな技術の開発が今進んでいます。電線を使わず電気を無線で飛ばす「ワイヤレス給電」という技術です。

今家の中で、インターネットのWi-Fiルーターからパソコンやタブレットに電波を飛ばしてインターネットを繋いでいるように、家の中に電気を飛ばす「電気発信器」のようなものがあって、そこから飛んでくる電気を各家電に取り込む、というイメージです。

スマホでサンマが焼ける日 電気とエネルギーをシェアする未来の「新発想論」

1,375
この連載では書籍からごく一部のキーワード解説を掲載しています。
50年に1度の大転換期を迎えた電気・エネルギー業界の未来のキーワードをチェックするならぜひご覧ください!
夢のような話かと思われるかもしれませんが、このワイヤレス給電(非接触型給電とも)はすでにかなり技術開発が進んでいて、実用化の段階に入っています。
もちろん大容量の電気の長距離無線送電の実用化はもっと先の話になると思いますが、10メートル、20メートルくらいの家庭規模の距離であれば、送受電できるシステムは比較的近いうちに実用化されるでしょう。

このワイヤレス給電技術が普及すれば、家の中も無線化して生活がより快適&便利になるはずです。もちろんコンセントもなくなりますから、コンセントの場所によってテレビやオーディオを置く場所が限定されなくなり、部屋のレイアウトの自由度も増します。

スマートフォンも、うちに帰って毎日充電器に繋いで充電しなくても、家に帰ってそのまま玄関に置いておくだけで、あっという間に充電してくれるような時代が来るでしょう。

デザインの可能性を広げる技術

また、製品の中に蓄電池、充電池を入れることを前提にデザインしなくていいので、家電製品のデザインも大きく変わるでしょう。
バッテリーの重たいノートパソコンも軽量化されて持ち運びが便利になり、今までできなかったデザインも可能になるはずです。おそらく電気自動車のデザインも変わり、様々な機器のデザインの可能性が広がるはずです。

さらに、機器から接続端子をなくすことができるため、ホコリが機器の中に入って誤作動や故障を起こすリスクを減らせるだけでなく、防水機能を持たせることができるという利点もあります。
12 件

この記事のキーワード