障害者福祉の現場から伝えたい、目指すべき支援の在り方。共に戦う仲間として成長していける仕組みを見つけよう(最終回)

(最終回)「障害者福祉の仕事を通じて福祉業界の『常識』を変えたい。」本連載では、福岡で障害者メンバーとチームを組んでITを活用した仕事を続ける就労継続支援A型事業所「カムラック」でサービス管理責任者統括として働く冨塚さんが、就労支援現場での取り組みをまとめた書籍『ふくしごと』から、福祉の未来を作るための実践をお伝えします。本連載は6回を予定しています。ご興味いただけた方は記事最後に紹介している書籍『ふくしごと』もぜひご覧ください。

本連載は書籍『ふくしごと』(著:冨塚 康成/2019年10月発行)の一部を抜粋・再編集し収録しています。

障害者支援における原則

福祉サービスでは「支援計画」を作ります。それは、大雑把に言えば、夢や目標、目的の達成のために、過去に与える意味を変更する作業とも言えます。原因を考えるのに、フラットに全ての要因を考えるのは難しいです。ですから「見立て」が必要になります。ですが「見立て」はあくまで「見立て」に過ぎません。

支援計画も、目的が変われば変える必要がありますし、そもそもの見立てが違っていたなら変えていいと思うのです。過去の出来事の意味づけを、なりたい未来の自分のために能動的に変えることが大事なのではないでしょうか。

チームを良い状態に保つために必要なこと

仕事の中でわからないことがあれば、皆さんだったらどうしますか? わかるまで考えますか?

自分で悩み考えるということは大事なことです。ただ、ずっと悩み続けていれば、いつまでも終わることはありません。仕事というものは、成果物を顧客に望む形で納期までに提出して初めて、報酬を得ることができるものです。

では、どうすれば良いのでしょうか。
答えは「教えてください」と尋ねてみることだと思います。
チームで仕事している以上、誰かを攻撃することは単に雰囲気を暗くすることで、周囲のパフォーマンスを低くさせていることに気づく必要があります。チームが良い状態を保つために活用すると良いものが、マニュアルなどの立ち返ることのできる原則です。

対人援助にかかわる援助者の行動規範として有名なものに「バイスティックの七原則」というものがあります。アメリカの社会福祉学者のバイスティックさんが定義した相談援助技術の基本です。

原則1 個別化の原則
同じ問題は存在しないという考え方。その人だけの問題や複合化した問題があることも。

原則2 意図的な感情表出の原則
感情表現を認めようという考え方。言葉だけでなく五感を使い、問題を見つける。

原則3 統制された情緒的関与の原則
自身も感情があることを忘れずに、落ち着いた時に行動を振り返る。

原則4 受容の原則
先ずは相手の話を聞く。否定せず何故そういう考えになるのか理解しようとする考え方。

原則5 非審判的態度の原則
善悪を判断しないという考え方。罰したとしても問題は解決しない。

原則6 自己決定の原則
相手が意志を持って行動しないのでは、効率が良くない。

原則7 秘密保持の原則
個人情報を他社に漏らさないという考え方。信頼がない状態では、相手に届かない。

何か問題が起きた時は原則を基に組織で話し合い共有していくと、素早く解決できます。
原則を何度も見直し基本に忠実であることが、ブレのない自分や自身のチームの基盤を作ることになると私は思います。
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服薬管理の重要さ

原則といえば障害者支援ですから、先ずは健康状態が安定していることが求められます。

障害自体は簡単になくならないのでサービスを受けているわけですが、それぞれの状態をさらに悪くさせず、安定させることは、すべてのサービスに求められるものです。そのために必要なこととして、服薬管理があります。薬の副作用というリスクを背負いながらも、日々を過ごしている障害者は多いです。副作用によって、「眠気」や「体重増加」などで苦しんでいる声もよく聞きます。

障害者雇用を行ったことのない企業は、基本的に障害者に対する知識や理解は少ないと思われます。ですから、万が一精神障害者を雇用して一緒に働くようなことになっても、上司や同僚が状況を把握するのはミスが顕著に表れ始めた後だったりします。

普段は丁寧にできていた作業が雑になったり、急に指示内容とは違っていたことをしていたりが続くと、指導している人も障害と結びつかないので信頼を失っていきます。つまり、就職して信頼を得るためにも、服薬管理を徹底して行えることは大切なのです。

服薬を自ら止める・飲み忘れる等、本気で働きたいと思っている人は、そのようなミスを犯してはなりません。服薬管理・体調管理が出来ていることで、受診する際も体調について話しやすくなり、医師にとっても状態を的確に把握でき、最適な治療が行えるのです。

障害者福祉の本来ある場所を見つけよう

ひとりの障害者が何か困った事があったときに、支援されるべきなのか、支援されるとしたら何処でどういう時なのかということを考えていく必要があります。自分のことだけを考えるのではなく、自分に係る人、自分と同じ障害がある人といった広い意識を持てるようになることが、自立への一歩となります。

もちろん「障害者」であるということは、「障害部分が簡単に無視」できなくなるというわけではないので、「障害者としての配慮や支援サービス」を受けていることは中心に置くべきことだと思います。

また健常者・社会には「障害があるから、守ってやらなければいけない」という義務的な価値観から脱していただきたいと思います。そのためには目の前にいる人を「障害者」という「カテゴリー」で見るのではなく、一人の個人として自分と組む時に、自分の組織・地域の仲間として組む時に、どういう風にいてもらえたら「自分が助かるか」を「戦力」として考えてほしいと思います。

障害者の実態を知る方法として、これまで本著で複数の方法を紹介してきました。障害者就労支援施設と連携する、又は障害者支援施設に足を運ぶなど、ぜひ実行してみてください。

なお「障害者」とひとくくりにするのではなく障害を持った人、一人一人を理解し成長させていけるような体制の構築も欠かせません。障害者支援施設の個別支援計画のように、状況を見守り共に成長させていける面談や研修を整えていってください。多くの障害者福祉施設においても、支援者と利用者という立ち位置ではなく、共に戦う仲間として成長していける仕組みを考えていってほしいと思います。

そのためには、福祉業界だけでなく、教育や経済、政治など縦割りではなく横とつながっていけるよう意識を変え、成長していかなくてはいけません。自分が成長しないのに、誰かを救うなんてナンセンスだと思いませんか。

障害者、家族や支援者、そして社会、それぞれが互いの状況やニーズ、ルールを学んでいくことで、より有機的に結びついていくことができるはずです。
互いを知っていく事で、少しずつ当事者たちの意識が変わり、大きな変化につながっていくことが本当の意味での福祉というツールの使われ方ではないでしょうか。

ふくしごと ~福祉で働く人のための、障害者支援の現場から伝えたい未来を考える力~

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■本書の内容
第1章「障害者支援について」では、特に障害者就労の支援の現場で実際に仕事として行なっている内容を解説し、障害者福祉の現状をお伝えします。
続く第2章「働く障害者の理想を生むためには」、第3章「障害者福祉事業について思うこと」では、障害者雇用の理想と問題、現場から伝えたい目指すべき支援の在り方をお話します。
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