支援計画を立て、利用者とスタッフをつなぐ。「障害者相談支援専門員」の役割(連載2回目)

(連載第2回)「障害者福祉の仕事を通じて福祉業界の『常識』を変えたい。」本連載では、福岡で障害者メンバーとチームを組んでITを活用した仕事を続ける就労継続支援A型事業所「カムラック」でサービス管理責任者統括として働く冨塚さんが、就労支援現場での取り組みをまとめた書籍『ふくしごと』から、福祉の未来を作るための実践をお伝えします。本連載は6回を予定しています。ご興味いただけた方は記事最後に紹介している書籍『ふくしごと』もぜひご覧ください。

本連載は書籍『ふくしごと』(著:冨塚 康成/2019年10月発行)の一部を抜粋・再編集し収録しています。

支援サービス管理責任者の最大の業務は「個別支援計画」の作成と進捗管理

障害者支援利用計画とは

障害者就労支援事業所は職業指導と生活支援を両輪にしており、サービス管理者は全体の計画を作り進捗を管理する職種ではありますが、主に後者の支援を行うことが多いです。

生活支援は、就労するにあたり障害の部分やストレス・家族の問題・通勤の問題・経済問題など、就労にマイナスの影響を与える問題に対しての支援となります。現場に生活支援員がいるので、どちらかといえば提案や関連機関との調整などの相談支援が主となります。
サービス管理責任者が明文化されている最大の業務が、「個別支援計画」の作成と進捗管理となります。
実際に、計画に即して支援が行われる中で、状況を改善するためにどのような仕事内容・勤務時間が望ましいのかを確認し合い、支援計画自体を変更することもあります。支援した上で違和感やうまくいかないことを相談していただき、対応策を一緒に考えます。

例えば「疲れたら休んでよい」と言われても、休憩のタイミングが分からないといったことも見受けられます。作業面以外の部分で、本人が疲れてSOSの連絡が入ることもあります。その際には面談し状況を整理しながら、「自分で対応できることか・会社や第三者に協力いただくことか」を定期的に、利用者・職員双方で不都合が生じている部分を確認しあっています。

仕事はできても、それ以外の部分の問題を対処しきれず休む方も少なくありません。就労継続をしていくためには、職場内に留まらず生活面も含めた、トータルで継続的な支援ができるサポート体制が必要なのです。

業務週報を導入し、利用者と支援スタッフをつなぐ

事業所には利用者、職業指導員、生活支援員、就労支援員、そしてサービス管理責任者と複数の人間が出てくるわけですが、当然全員、別の人格を持つ別の人間です。利用者と支援するスタッフの認識をつなぐものとして、障害者就労継続支援A型事業所にいるときに、業務週報というものを導入しました。

障害者就労移行支援事業所では、文章を書くのが苦手な方がいたことで、今の状況を、生活分野・スキル学習分野の2つに分け、それぞれを5段階に分け、理解や体調が一目でわかるようにしました。そして週に1回スタッフが内容を確認し、質問の答えや、注意や評価、激励など、コメントにより支援を行っています。サービス管理責任者は、それを読み、支援の状況を確認します。
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業務週報を読んでいて思うことは、わざわざ書類を作るということの意味を考えている人は、ほとんどいないということです。自分の名前が書いてあるファイルに挟んでいる報告書とはいえ、名前を書いていなかったり、日付が書かれていなかったりすることも少なくないのが実態です。何のために書くのか、誰宛に書いているのかを考えている方はほとんどいません。

つまり、一般企業に入った際に報告書を書くことをイメージしていないので、その報告書が何かに使われるという想定がありません。その報告書もまた訓練であり、「書類」は「誰かが読み、何かに使うためにある」ものです。でなければ貴重な時間を割き記入してもらう必要はないという発想になりません。
訓練をしてもらうという受け身の姿勢があるため、日報や週報をデータとして活用するという風には考えていません。せっかく自分自身を客観的に分析できるデータがあるのに。

そういった基本的な考え方なども伝えていく必要があります。業務スキルとして、そういう部分も含め必要な訓練のひとつだと思うのです。就労支援事業所A型は、実際に仕事をしながら、業務訓練をしていくところです。

よりリアルな状況の中で、学ぶべきスキル・知識を具体的に言葉や行動として示し、実践を繰り返すことで、個々の特性を活かした就労につながるのではないかと思っています。

「障害者相談支援専門員」の役割

私が今現在、公的かつ主として働いている職種は「障害者相談支援専門員」です。
相談支援専門員の仕事内容を簡単に説明すると、「障害福祉サービス等の利用計画の作成や、福祉に関する様々な問題について障害のある人等からの相談に応じ、必要な情報の提供、障害福祉サービスの利用支援等を行うほか、権利擁護のために必要な援助も行うもの。」となります。
相談支援専門員という職種には制度上の問題があります。
端的に言えば、収入の問題です。

例えば月30万円の売上を上げようとすると、約20人以上の利用者を毎月獲得する必要があります。通所施設のように、利用者は来てくれませんし、利用者の居住地域はバラバラですし、1人の利用計画を作成するにしてもそれなりの時間がかかります。

モニタリング(評価報告)は仕組み上毎月作成できませんが、サービスが終わるまでは状況確認は必要になります。そう考えると、1人の相談支援専門員がきちんとそれらをこなそうとするには、利用者数に限界が出てきます。

また、相談支援専門員が利用計画を作成するという制度は数年前に原則化したばかりで、すでにサービスを利用している方と新たにサービスを利用する方に対して、相談支援専門員の数は全く追いついていません。

結果、アセスメント(情報収集)をとり利用計画案を作成し、最適と思われるサービス事業所を見つけ、担当者会議を開き利用計画を確認してもらい、サービスの状況を利用者本人又はサービス事業所から聞き取りし、時にトラブルを解決し評価報告を作るという一般的な流れだけでも、物理的に時間が不足していきます。

現実的ではなくなるから、一度作った中身のない利用計画や評価報告の使い回しが起こり、「相談支援」という名前がついているのに、利用者やサービス事業者の話を聞く時間も精神的余裕もなく、利用計画を作成した後、連絡がなかなかつかない相談支援専門員は少なくありません。
相談支援専門員やサービス管理責任者の主な仕事は、支援計画の策定・修正・評価です。紙切れ一枚作成するだけと思う人もいるかもしれませんが、利用者の人生の大切な一定期間の責任を担っていると思います。

ただ、自分だけではできることは限られます。だからこそハローワーク・特別支援学校・医療機関等・地方自治体や他の福祉施設と連携体制の更なる強化を行い、継続的な支援を実施することで地域への移行・自立が目指せるのだと思います。
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「障害」の表記と、障害者雇用の現状

障害福祉の仕事をしていて、どうしても私には違和感と思えるものがあります。「言葉の言い換え」がそのひとつです。
たとえば、「障害」は「害」という文字を別の漢字にしたりひらがなで表記したりする点です。

「障害」の「害」の字については、印象が悪く、人に対して「害」という字を使うべきではないということが、「障害」の表記を変える議論のそもそもの発端となったわけですが、そう考えると、「障碍」の表記もまた『「碍」=妨げ』という意味であるため、「害」を「碍」と表記しても根本的な解決にはならないと思われます。そこで「害」をひらがなにした「障がい」という表記が、現在一般的に使われてきていますが、平仮名の「がい」では実体が見えない気がしますし、障害の社会性を曖昧にする気がします。

確かに「害」の字には負のイメージがありますが、イメージでの議論が先行し過ぎだと思います。
それよりも当事者がどのような呼称や表記を望んでいるかに配慮すべきと思うのですが、議論している方の多くが当事者ではなく、「気持ちを慮って労らないと」という気遣いよりも、現実的な社会の障害を取り除くことが大事と思われるのですが、肝心なことが誤魔化されている気がしてなりません。
現在企業は法律で、従業員の2.3%は障害者を雇用するよう義務づけられています。(厚生労働省HP
ところが、入社後に企業の待遇に課題を感じている人もいます。キャリアアップを目指して勉強し資格を取得しても仕事は補助業務ばかりで資格は活かされず、昇給もありません。「これがしたいんです」と言っても、「無理だよ」と突っぱねられキャリアアップになりません。

障害者を雇わないといけないから雇うというところから始まって、在籍していることだけが目的となっているのが現状です。
法定雇用率の達成が障害者を戦力として活用するのではなく、『数合わせ』とならないためにどうすればいいのかを考えていく必要があります。

ふくしごと ~福祉で働く人のための、障害者支援の現場から伝えたい未来を考える力~

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■本書の内容
第1章「障害者支援について」では、特に障害者就労の支援の現場で実際に仕事として行なっている内容を解説し、障害者福祉の現状をお伝えします。
続く第2章「働く障害者の理想を生むためには」、第3章「障害者福祉事業について思うこと」では、障害者雇用の理想と問題、現場から伝えたい目指すべき支援の在り方をお話します。
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