大前研一「教える」から「考える」へー答えなき時代の教育トレンドー 「アジアで根強い詰め込み型『教える教育』」

【第8回】日本の高度成長を支えた、「正解」をいかに早く覚え、再現するかという従来の教育は、「答えのない時代」を迎えた今、うまくいかなくなった。日本の国際競争力を高める人材を育成する上で、障害となっているものは何か。21世紀の教育が目指すべき方向は何か。本連載では、特色ある教育制度を取り入れている先進国の動向から、日本の教育改革の方向性を導き出す。

本連載では書籍『大前研一 日本の未来を考える6つの特別講義』(2016年6月発行)より、国際競争力を高める人材を育成するための日本の教育改革について解説します(本記事の解説は2013年6月の大前研一さんの経営セミナー「世界の教育トレンド」より編集部にて再編集・収録しました)。今回から次回にわけては「教える教育」「考える教育」の対比をご紹介します。

日本の教育は「中途半端」

図-19を見ていただきたい。OECD加盟国の15歳の生徒の学習到達度調査、PISA(Program me for International Student Assessment)の結果の推移を一覧にした表です。
これを見ると、この10年間で日本の順位は大幅に下がっています。上位に国名が挙がっているのは、主にアジアか北欧のフィンランド、あとはカナダとニュージーランドですね。

北欧と韓国では、この10~15年ほどの間に、教育制度が大きく変わりました。
世界の初等・中等教育には二大トレンドがあって、一つはアジア型詰め込み主義。日本が高度成長期に取り入れ、現在の韓国で行われているような「詰め込み」教育です。
もう一つは、北欧型の「考える」教育。日本はどっちつかずのまま、中途半端な教育システムになっています。従来のモデルから脱却しきれず、方向性が定まっていないのです。
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「中国」ではなく「上海」が統計に含まれる理由

図-19、2009年の調査結果を見ると、いずれも上海がトップです。ここで「中国」ではなく「上海」が統計に含まれていることに注目してください。
科挙、昔の中国の官僚選抜試験に合格するのは、浙江省と江蘇省の人が圧倒的に多かったのです。いずれも上海市周辺の地域ですね。この地域は古くから、中国国内でも群を抜いて高い教育レベルを誇っていました。
日本への留学生も、上海市の人が一番多いのです。このような背景があるので、教育関連の国際統計には、上海市が自主的に参加するようになっています。

ここ15年で飛躍的に英語力を伸ばした韓国

韓国では、1997年末の通貨危機を経て、グローバル化、IT化、英語教育を柱に、当時の金大中政権が大改革をしました。
韓国人は日本人と同じくらい英語が苦手でしたが、小学校からの英語教育が必修化され、現在では英会話力が飛躍的に伸びています。TOEICなどのスコアがかなり高くないと、韓国の大企業には入社できません(図-20)。ここ15年ほどの間に、ソウル大学に入って官僚になった人たちは、みんな英語が話せるという状況です。
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韓国では、大学を卒業しても半数が就職できない

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図-21を見ていただきたい。韓国では、大学進学率(2011年)が86.3%と非常に高いのですが、いいことばかりではありません。真ん中のグラフを見てください。大卒就職率(2012年)、日本は93.9%という異常な高さなのですが、韓国は56.2%、半分強です。右側のグラフ、若年層の失業率も高くなっており、大きな問題になっています。

韓国の大手企業に就職するためには、名門大学に入学する必要があります。その狭き門を突破するために、親たちは多額のお金を使います。結果、対GDP比で8%もの教育費がかかっている(図-22)。そのうち公的負担は4.9%。3.1%を個人が負担しています。国内で名門大学に入学できないとなると、子供の留学のため、母と子が米国に移り住みます。父親が韓国で働き、米国の家族に仕送りをする。この傾向が、韓国から米国に留学する人が増える要因にもなっています。
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シンガポールのエリート教育

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もう一つ、アジア型詰め込み教育の例として、シンガポールをご紹介します。
資源のない小国のシンガポールでは、国家の最大の資源は「人材」であるとして、二言語教育、能力主義を徹底しています。小学4年生からクラスは能力別編成、点数に応じて中学校が振り分けられ、さらに中学卒業時の成績で進路が決まるという、超エリート主義で優秀な人材を育てています。
(次回へ続く)

大前研一 日本の未来を考える6つの特別講義

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この「教育問題」講義ももちろん収録。「人口減少」「地方消滅」「エネルギー戦略」…避けて通れない日本の問題を大前研一さんが約400ページのボリュームで解説する特別講義集。
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