本連載では書籍『大前研一 日本の未来を考える6つの特別講義』(2016年6月発行)より、国際競争力を高める人材を育成するための日本の教育改革について解説します(本記事の解説は2013年6月の大前研一さんの経営セミナー「世界の教育トレンド」より編集部にて再編集・収録しました)。今回は、日本の人材育成の問題点について解説します。
日本には「学び直し」の場がない
次に、世界の「社会人教育」の現状を見ていきましょう。世界では、社会人になってから、大学や大学院で学び直す人が非常に多いです。図-29を見ていただきたい。再教育をするために高等教育機関に戻ってくる社会人の割合が、OECDの平均では全体の20.4%です。日本はわずか3.1%。OECDの中でもずば抜けて低い数字です。
理由は二つあります。一つは、そもそも「学び直し」という概念が一般的でない。勉強は学校でするもの、学校を卒業したら勉強は終わりだと考えている人が多いのです。本来、勉強は一生続けていくものです。卒業から5年、10年と時間が経てば、新しいこと、学ぶべきことがたくさん出てくるはずです。米国には、学び直しのためにもう一度マスターコースに行く、働きながら時間をつくってドクターコースに行くという人がたくさんいます。
二つ目の理由は、「戻る価値のある大学・大学院がない」ということです。20年前と同じ講義をする教授の話を聴いても実りはありません。めまぐるしく環境が変化し続ける21世紀において、学び直しのモチベーションがない、その場所もないということは由々しき問題です。
理由は二つあります。一つは、そもそも「学び直し」という概念が一般的でない。勉強は学校でするもの、学校を卒業したら勉強は終わりだと考えている人が多いのです。本来、勉強は一生続けていくものです。卒業から5年、10年と時間が経てば、新しいこと、学ぶべきことがたくさん出てくるはずです。米国には、学び直しのためにもう一度マスターコースに行く、働きながら時間をつくってドクターコースに行くという人がたくさんいます。
二つ目の理由は、「戻る価値のある大学・大学院がない」ということです。20年前と同じ講義をする教授の話を聴いても実りはありません。めまぐるしく環境が変化し続ける21世紀において、学び直しのモチベーションがない、その場所もないということは由々しき問題です。
日本型採用・人事制度の問題点
そもそも日本企業では、人材の採用、教育、幹部選別方法に問題があります。新卒一括で採用し、中途採用は外様扱い。年功序列で昇進し、花形部門から社長を選抜するという従来のやり方を続けている企業が非常に多いです。このような方法では、社員が自ら学ぼうというイニシアティブが働きにくくなります。
世界に目を向けると、グローバル企業は採用方式や幹部候補の選別方法を大きく変えています。世界中どこで採用した人間も、国籍に拘わらず社長までの距離は同じです。能力を見きわめて幹部候補生を選び、彼らを集中的に教育・評価する。最終的は4、5人に絞って後継者を決めていきます(図-30)。
世界に目を向けると、グローバル企業は採用方式や幹部候補の選別方法を大きく変えています。世界中どこで採用した人間も、国籍に拘わらず社長までの距離は同じです。能力を見きわめて幹部候補生を選び、彼らを集中的に教育・評価する。最終的は4、5人に絞って後継者を決めていきます(図-30)。
世界の一流企業の人材採用の仕組み
図-31、世界の一流企業の人材採用と、人事ファイルの仕組みを見ていただきたい。そもそも一括採用という仕組みはないので、その都度個別に採用します。どういう人材を採るか、決めるのは社長です。人事部任せにせず、社長が自ら用意した質問を基に、面接官が面接を実施します。
面接のノウハウもデータベース化します。採用後5年、10年経つと、パフォーマンスがいい人材、そうではない人材が分かります。いい人材を採用した面接官と、そうではない面接官を比較し、データベース化することで、採用に向いている人間と、向いてない人間が分かります(図-31)。
面接のノウハウもデータベース化します。採用後5年、10年経つと、パフォーマンスがいい人材、そうではない人材が分かります。いい人材を採用した面接官と、そうではない面接官を比較し、データベース化することで、採用に向いている人間と、向いてない人間が分かります(図-31)。
GEとIBMの後継者選定方法とは?
幹部候補者を選定する際に、たとえばGEやIBMでは、まず10万人の中から200人ほどを選びます。米国にある世界トップレベルのリーダー育成機関「クロトンビル」で彼らに徹底的な教育をして、最終的に5人くらいの後継者候補を選定します。その後、候補者にそれぞれ違うタスクを与えます。その結果、一番顕著な業績をあげた人間、GEならGEの将来的な課題を解決するのに最適な人間を選ぶのです。選ばれなかった候補者も、まったく心配ありません。これだけの競争に生き残った人間は、米国中の会社で高給待遇を受けられます。
2001年、GEの天才経営者だったジャック・ウェルチ は、ジェフ・イメルト を次のCEOに選びました。伝説と呼ばれた経営者の後、GEほどの巨大企業をリードしていくのはさぞかし大変だろうと思われましたが、ふたを開けてみれば、イメルトは大きな改革を成し遂げ、ウェルチよりも業績を伸ばしています。
それから、IBM中興の祖、ルイス・ガースナー の後を引き継いで、2002年にCEOに就任したサミュエル・パルミサーノ も、問題なく業績を伸ばしました。企業トップが人事にコミットするという後継者選びの仕組みが作り上げられているからこそ、経営者が変わっても、継続的な成功が可能になるので
2001年、GEの天才経営者だったジャック・ウェルチ は、ジェフ・イメルト を次のCEOに選びました。伝説と呼ばれた経営者の後、GEほどの巨大企業をリードしていくのはさぞかし大変だろうと思われましたが、ふたを開けてみれば、イメルトは大きな改革を成し遂げ、ウェルチよりも業績を伸ばしています。
それから、IBM中興の祖、ルイス・ガースナー の後を引き継いで、2002年にCEOに就任したサミュエル・パルミサーノ も、問題なく業績を伸ばしました。企業トップが人事にコミットするという後継者選びの仕組みが作り上げられているからこそ、経営者が変わっても、継続的な成功が可能になるので
日本企業の「シャープ現象」
日本では、優れた経営者のいる大企業ほど「アラブの春」化しやすいのです。どういうことかと言うと、リビアにしてもエジプトにしても、独裁者を追放したのはいいけれど、その後の指導者が現れず、組織ができない。同様に、カリスマ経営者が退いた後、後継者に恵まれず勢いを失っていく会社が多いのです。パナソニック、シャープ、どこもこのような状況です。私はこれを「シャープ現象」と呼んでいます。GEやIBMのような後継者選定システムがあれば、このような事態は起こらないのですが。
日本の場合、優れた経営者が会社をつくっても、肝心の人事制度、後継者選定制度が整っていないことが多い。幹部候補者が5人いるなどという贅沢は望むべくもありません。それどころか、日本の大手電機メーカーの多くは内輪もめを抱えています。東芝も、NECも富士通もそうです。中には訴訟に至るケースもあります。外の敵が強すぎるので、内ゲバが始まる。学生運動の末期と同じです。そのために、経営者は、自分の寝首をかかないだろうと思う人間を後継者に選んでしまう。これでは、世代交代はうまくいきません。グローバル企業のような仕組みを整えなければ、日本企業は「シャープ現象」から抜け出せません。
(次回に続く)
日本の場合、優れた経営者が会社をつくっても、肝心の人事制度、後継者選定制度が整っていないことが多い。幹部候補者が5人いるなどという贅沢は望むべくもありません。それどころか、日本の大手電機メーカーの多くは内輪もめを抱えています。東芝も、NECも富士通もそうです。中には訴訟に至るケースもあります。外の敵が強すぎるので、内ゲバが始まる。学生運動の末期と同じです。そのために、経営者は、自分の寝首をかかないだろうと思う人間を後継者に選んでしまう。これでは、世代交代はうまくいきません。グローバル企業のような仕組みを整えなければ、日本企業は「シャープ現象」から抜け出せません。
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大前研一 日本の未来を考える6つの特別講義
¥2,200
教育の問題をさらに詳しく知るにはコチラをご覧ください。
他にも「人口減少」「地方消滅」「エネルギー戦略」…日本の問題を約400ページのボリュームで解説。
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大前研一
株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長/ビジネス・ブレークスルー大学学長1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍するかたわら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長及びビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。
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