大前研一「ロケハラに個人情報。位置情報ビジネスのリスクとは」

【連載第8回】スマートフォン、SNSの普及に加え、測位技術の発展、さらにはドローンなどの新技術出現によって「位置情報ビジネス」が飛躍的に進化している。そう、世界は今「位置情報3.0」時代に突入しているのだ。 本連載では位置情報を活用したビジネスを取り囲む様々なテクノロジーの現状を大前研一氏が解説します。

記事のポイント

本連載では大前研一さんの新著『大前研一ビジネスジャーナルNo.10』より、「位置情報」テクノロジーを活用した新しいビジネスモデルの実例をご紹介しています。連載第8回は、位置情報のリスクとのかかわり方についてお話いただきました。

【POINT】
●位置情報は非常にセンシティブ。注意して取り扱わないと起きる問題
●ビジネス参入時に考えられる2つのスタンス
●大手に握られていない空き領域、参入の余地はどこに?

大前研一ビジネスジャーナル No.10(M&Aの成功条件/位置情報3.0時代のビジネスモデル)

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経営者だけが参加する大前研一主宰経営セミナーを書籍化。本連載の「位置情報ビジネス」に加えて「M&Aの成功条件」を大特集。

位置情報ビジネスに潜むリスク

位置情報をビジネスで扱うことにはリスクもある

位置情報技術がいかに進化し、私たちの事業や暮らしに影響を与え始めているのか。ここまで位置情報ビジネスの「今」をお伝えしてきました。

目を見開くような新たな事業が生み出され、生活の利便性は増し、今後のビジネスチャンスにも期待、という希望に満ちたビジネスであることは確かである一方、ここまでお読みいただいた中で「こんなことまで可能になってしまうのか」と、多少の怖さを感じた人もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで次は、位置情報が持つリスクの側面にもスポットを当て、ビジネスにしていく際にどのような点に留意し、展開させていくべきなのか、ビジネスチャンスを逃さないためのヒントを考えていきたいと思います。

「個人情報」「ロケハラ」「プライバシー」のリスクを孕む位置情報

これまでの事例でお分かりいただいたように、位置情報は人の行動と緊密な関係にあります。
それゆえに、あらゆる問題や危険性を視野に入れ、十分に配慮したうえで正しい使い方をしなければなりません。

図-29の通り、リスク要因は大きく「個人情報」「ロケーションハラスメント」「プライバシー」の3つに分けられます。それぞれのリスクにおいて、どのような問題が過去に発生しているのか、振り返ってみましょう。
位置情報のリスク要因

位置情報のリスク要因

まず個人情報においては、ウォール・ストリート・ジャーナルが、人気スマホアプリ101本のうち47本は携帯電話の位置情報をなんらかの形で他社に渡していた、と報じています。

またGoogleのアンドロイドは以前、ユーザーが認識しない状態で位置情報を自動的にGoogleのサーバに送信するアプリ「Cerberus(ケルベロス)」を流通させており、炎上しました。
今はもうこのアプリは削除されていますが、いずれにしても全てのアプリが信用できるものではないということを示しています。

続いてロケーションハラスメント、通称ロケハラです。2010年に「Please Rob Me」というサイトで、TwitterやFoursquareなどSNSのチェックイン状態を読み取り、外出しているユーザーをリストアップして空き巣に入るといった事件が起こりました。

また、スマホアプリ「Girls Around Me」では、Foursquareの位置情報とFacebookのプロフィールを突き合わせて、ユーザーの周囲にいる女性もしくは男性の情報をスマホに表示させることをしていました。
結果、ストーカー行為に繋がる恐れがあるとして批判を受け、これも炎上しました。

そして、プライバシー。女性向けのスマホアプリ「カレログ」は、彼氏のいる場所を全て彼女のスマホに知らせるというもので、プライバシー保護の観点から社会問題化しました。

また、Google マップのストリートビューも初期の頃は、人の顔や車のナンバー、住宅の敷地内でどこかのおじさんが下着姿でいるようなところまで写り込んでいたことから、プライバシーの侵害だとして大騒ぎになりました。
これは損害賠償を求めた裁判沙汰にまで発展しました。現在はそのような部分は全て取り除かれています。

こうして並べてみてもわかるように、位置情報は実にプライバシー問題と紙一重です。したがって、位置情報を取得するのにも利用するのにも、リスクを熟知したうえで注意して行う必要があるのです。

どのスタンスで、どの領域で活用すべきか

ユーザーとしての活用、提供者としての活用

リスク要因も十分に学んだうえで、では実際どのように位置情報を事業に利用していくのか。これについては、ふたつの方法があります(図-30)。
位置情報にどのようにかかわるか

位置情報にどのようにかかわるか

ひとつは、ユーザーとして自社の業務に位置情報を取り込む方法です。
これまで紹介してきた事例にもヒントがあると思いますが、例えば売り上げ向上施策のひとつとしてマーケティングに利用したり、ロケーションインテリジェンスでデータ解析をして、あるいは遠隔操作・遠隔監視で、業務効率改善を図るといった使い方です。

もうひとつは、提供者として位置情報・技術ベンダーとなり、サービス事業を担っていく方法です。
センサーやデバイスのことを勉強し、アプリやシステム、新たなサービスを開発していく。さらに、顧客に対してOne to Oneマーケティング、ナローキャスティング、ポイントキャスティングといったアプローチもできるでしょう。

サービス/アプリ領域にベンチャー参入の余地あり

位置情報を使った事業を考える際、どのような領域を狙ってゆくべきでしょうか。図-31をご覧ください。
GPSや通信・インターネット、クラウドなどのインフラ部分は、Googleなど大手企業に握られています。しかしながら、図の右側、主なプレイヤーのポジショニングを見ていただくとわかるように、サービス/アプリ領域などは空きがある状態です。

前出のSafieなども出てきたばかりで、まだまだアプリが追いついていない。
レッドフォックスの「GPS Punch!」もそうですね。レッドフォックスは今後、営業マンに集中して事例を積み重ねていけば爆発的に伸びていくと、私は睨んでいます。

このように、サービス/アプリの領域には中小・ベンチャー参入の余地がかなりあります。
このマーケットには大いに可能性がありますので、ぜひみなさんも位置情報を使った新しい事業ができないか考えていただきたいと思います。
中小・ベンチャーの参入余地

中小・ベンチャーの参入余地

(次回に続く)
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