障がい者就労支援者の皆さまに伝えたい「必要な成長支援」と「企業との距離感」(連載4回)

【連載4回目】「障がい者が企業の戦力的なパートナーになる」というと、驚く方がまだまだ少なくありません。本連載では、福岡で障がい者メンバーとチームを組んでITを活用した仕事を続ける就労継続支援A型事業所「カムラック」を運営する賀村さんの書籍『日本一元気な現場から学ぶ 積極的障がい者雇用のススメ』から、障がい者とのパートナーシップの実践をお伝えします。

本連載は書籍『日本一元気な現場から学ぶ 積極的障がい者雇用のススメ』(著:賀村研/2016年9月発行)の一部を抜粋・再編集し収録しています。

障がい者の状況を把握し、目標を明確にする個別支援計画

連載第4回の今回は、障がい者就労支援に従事されている皆さまへ「積極的障がい者雇用のススメ」をお伝えさせていただきます。

福祉の視点からだけで障がい者就労支援施設を設けると、経営が成り立たない場合が少なくありません。理想を描いたところで、ビジネスとして成立しなければ、障がい者を成長させることもできないのです。まず大前提として、経営者がマネタイズできる事業を行うという意識を持つことが欠かせません。

これを前提としたうえでお伝えしたいのが「障がい者を戦力として成長させていく方法」です。今回は障がい者就労支援施設の方はもちろん、企業の方でも真似できるようなエッセンスをお話していきたいと思います。

当然のことながら、障がい者は各人、障がいレベルも違えば、成長速度も違います。さらに、それぞれ目標も違うでしょう。そこで、「個別支援計画」の立案が重要となるのです。個別支援計画とは、目標と、それに対してどう成長していくか、成長するには何が必要かなどを明確化し、管理するものです。

たいてい自治体のホームページにフォーマットが掲載されていますが、カムラックではオリジナルの計画書を作成して使用しています。
カムラックで使用している「個別支援計画」フォーマット

カムラックで使用している「個別支援計画」フォーマット

計画を練る上で重視しているのは、障がい者と共に目標を明確化することです。たとえば、「一般企業に就労したい」と思っているならば、具体的にどんな職種がよいのか、何年後にしたいのか、今できるアクションは何かを具体化させます。そして、小さな一歩からでも行動することを事業所では後押ししていきます。デザインの仕事をしたいのであれば、デザイン会社で働く人に話を聞いてみるだけでもよいのです。

カムラックでは、個別支援計画をもとに障がい者のレベルに合った研修を充実させています。もっとも重視しているのは、半年後や1年後の自分を具体的にイメージさせること。雇用する側が勝手に成長プランを立てたところで、効果はありません。本人がどれだけ戦力となる覚悟を決め、努力・成長できるかが大切になる。そのためのイメージの明確化なのです。

企業においても、社員の目標管理は重要ですよね。同じように障がい者にその目標管理の方法を転用してほしいと考えています。

障がい者の状況と目標に合わせた研修の充実

障がい者の現状と目標を把握することができたら、そのギャップを埋めるための研修をしていきましょう。
個別のカリキュラムが必要となりますので、ここでは研修の初歩段階について言及します。

カムラックでは、研修の最初の段階では、ビジネスマナーを徹底させています。
外に働きに出たことがない障がい者も少なくないので一般常識を教えることが大切になります。しかし、なかには健常者と同じ常識が通用しないケースもあります。そこで、「障がい者のためのビジネスマナー」がまとまっている書籍などを参考に研修を組み立てています。

目標の明確化、計画の立案、研修、障がい者自身の努力・行動により、障がい者を戦力として成長させていくことができるのです。
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障がい者就労支援施設が企業と協働するために必要なコト

今後は、障がい者就労支援施設と企業が協働することが欠かせないと考えています。しかし、障がい者就労支援施設で働く方の中には、「福祉の世界でずっと働いていたので、企業の要望がわからない」という方が少なくありません。

そんなとき私が伝えるのは、「わからないならば聞きにいけばよい」ということ。企業にはどんなサービスが求められているのか、質やスピードはどの程度が求められるのか、予算感はどれほどか。すぐに契約に結びつかずとも、まずは相場感を知ることは重要です。
企業の要望を知れば、事業計画を綿密化していくことができるはずです。

私の肌感覚からすると、多くの企業は障がい者就労支援施設と接点を持ちたいと考えています。一方で、「寄付金を求められるのではないか」「うちの事業所ではこれしかできないので、レベルに合った仕事をくださいといわれるのではないか」と警戒もしています。企業に対して、「くれくれ」という関係性では絶対にうまくいきません。

就業者就労支援施設が戸をたたき、企業に要望を聞きに行く。そして、企業側も門戸を開き、就業者就労支援施設を受け入れる。
そんな開かれた関係性が重要だと考えています。

障がい者就労支援施設と企業がバランスの取れた関係性を構築する。私は他の障がい者就労支援施設を運営する方をお手伝いする際にはこのアドバイスを欠かしません。
障がい者就労支援施設と企業の間に10歩の距離が開いているのならば、障がい者就労支援施設が8歩詰めて、企業が2歩、歩み寄るくらいのイメージを持つべきです。

障がい者就労支援施設と企業の双方が歩み寄ることで、ビジネスはより活性化していくのではないでしょうか。

(次回に続く)

日本一元気な現場から学ぶ 積極的障がい者雇用のススメ

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