大前研一「大卒に特別な価値はない。世界教育動向と進む学歴インフレ」

【第4回】今、日本の「教育」が行き詰まっている。日本の高度成長を支えた、「正解」をいかに早く覚え、再現するかという従来の教育は、「答えのない時代」を迎えた今、うまくいかなくなった。日本の国際競争力を高める人材を育成する上で、障害となっているものは何か。21世紀の教育が目指すべき方向は何か。本連載では、世界からトップクラスの人材が集まる米国、職業訓練を重視したドイツ、フィンランドの「考える教育」など、特色ある教育制度を取り入れている先進国の最新動向から、日本の教育改革の方向性を導き出す。

本連載では書籍『大前研一 日本の未来を考える6つの特別講義』(2016年6月発行)より、国際競争力を高める人材を育成するための日本の教育改革について解説します(本記事の解説は2013年6月の大前研一さんの経営セミナー「世界の教育トレンド」より編集部にて再編集・収録しました)。

北欧の答えのない教育・英国のエリート養成・インフレ化する高等教育…世界の教育事情

北欧の教育動向

世界の先進国は、優秀な人材を育てるために、それぞれ特徴ある教育方法を導入しています(図-4)。
各国の教育動向を見ていきましょう。まず、北欧です。
1990年代前半、北欧諸国は金融危機を経験しました。そこで、このまま小さい国土に閉じこもっていたら自分たちの将来はないということで、リーダーシップのある、世界で活躍できる人間を育てるための「答えのない教育」にシフトしたのです。

この新しい教育は、まずデンマークで始まり、フィンランドもすぐに取り入れました。今では教育に関する国際的なランキングでも、フィンランドが常に上位にランクインしています。北欧の教育については、連載のなかで詳しくご紹介します。
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イギリスの教育動向

それからイギリスには、最初からエリート養成を目的にしたボーディング・スクール(寄宿制中等教育学校)と大学があります。
イギリスの歴代首相は、ほとんどすべてこのシステムの出身です。ですからデービッド・キャメロン首相 は、どこかの国の首相とは格が違うわけです。基礎力が違う。
名門校イートン・カレッジを出て、オックスフォード大学、あるいはケンブリッジ大学へと進学する、こういう過程で優秀な同級生と切磋琢磨しながら育つのです。

スイス・ドイツの教育動向

スイスとドイツの教育システムはよく似ています。
実務教育を重視し、大学に行かなくても食べていけるような教育を半数以上の人が受けているので、国が非常に安定しています。コストはかかりますが、失業率は低い。また、国際競争力も高いです。

シンガポール・台湾・韓国の教育動向

シンガポールでは小学生のうちに、上位10%を将来のエリートとして選んでしまいます。ふさわしい人間が足りなければ、海外から受け入れます。職能スペックを書き出して、世界中から人材を輸入するというやり方です。

台湾では、明日国がなくなるかもしれないという危機感の下、親が子供に日本語と英語を勉強させます。さらに母国語が中国語で、合計3カ国語を操れますから、台湾の子供たちは世界最強の言語能力を持っています。

韓国は1990年代後半の経済危機の際、国際通貨基金(IMF)から融資を受ける条件として緊縮財政を強いられました。この「IMF進駐軍」にやられている間に、「二度とこの屈辱を味わいたくない」という思いから、当時の金大中大統領が教育改革を行っています。

米国の教育動向

米国の教育は、後述するように全体として見ると問題点が多いのですが、非常に優れた大学と、ボーディング・スクールがあります。世界トップクラスの、限られた人たちがそういうところに行く。平均値を上げようという考え方はもともとありませんし、国はまったくと言っていいほど教育に関与していません。州以下の単位でカリキュラムを組むので、州ごとの差が大きいです。

大前研一 日本の未来を考える6つの特別講義

2,200
この「教育問題」講義ももちろん収録。「人口減少」「地方消滅」「エネルギー戦略」…避けて通れない日本の問題を大前研一さんが約400ページのボリュームで解説する特別講義集。

高等教育の学歴インフレ

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グーテンブック編集部 グーテンブック編集部