【後編】村上憲郎氏に聞く「分からないから面白い!これからの電力業界が求める人材」

【連載2回目】電力業界へのデジタル技術の活用というトレンドで強い存在感を見せるエナリス。元グーグル米国本社副社長としても活躍した村上憲郎代表取締役に、電力×IoTの未来について聞きました。(インタビュアー:一般社団法人エネルギー情報センター理事・江田健二氏)

本連載は書籍『3時間でわかるこれからの電力業界―マーケティング編―5つのトレンドワードで見る電力ビジネスの未来』(2016年11月発行)より、電力ビジネスの今後を占うインタビュー記事を再構成して掲載します。(インタビュー:2016/6/7)
(2017年3月24日追記・同日村上氏はエナリス代表取締役を退任されました)

インタビュー前編はコチラ

【前編】村上憲郎氏に聞く「IoTが切り拓く電力ビジネスの未来と『エネルギー情報業』という新分野ビジネスの可能性」
https://biblion.jp/articles/AKIVH

電力業界にビジネス的広がりはあるのか?

電力業界が非常に大きな転換期を迎えているということを、この業界をめざす人に知ってもらいたいというお話でしたが、彼らとの〝温度差〟や意識のズレを感じられることはありませんか。

確かにここまでお話ししてきたようなことをお聞きになっても、ちょっと眉唾というか疑いの眼差しを向けられる可能性はあります。
「電力自由化で何が変わったのか? 売る人が変わっただけじゃないか」とか、「電気を使う量は今までと変わらないでしょ。成長産業ではないのでは?」と。
いくら将来性を述べて広がりを語っても、果たしてビジネスとして上手くいくのかという疑問が出てくるかもしれません。しかしながら、この業界には無限の可能性が広がっていると私は考えています。

電電公社の民営化でNTTができた後、次に起こったのはインターネット革命、さらに携帯電話の出現による通信革命です。
だから明らかに国としては、電力システム改革の中での蓄電池が、通信革命での携帯電話と同じ役割を果たすと考えている。
ところが、インターネットの出現によって莫大に通信量が増えたように、今後電力システム改革で電気使用量が莫大に増えるようなことはないでしょう。
ですから電力販売という視点だけで見たら、確かに産業としては極めて成熟した産業で、利の薄い産業と言えます。
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ですが、先ほど(記事前編)お話ししたように、電力業界は〝IoTの練習場〟です。この電力業界に入ってくるなら、変な話ですが電力業界だと思わずに、IoTの業界だと思っていただきたい。
あるいは、その先行きはインダストリー4.0を支える業界なんだと。

エナリスが「エネルギー情報業」を称しているのはそのためでもあります。電気を、エネルギー自体を売る製造販売業というよりは、エネルギーの需給バランスを取るための情報産業だということです。
自分たちのエクスパティーズ(専門知識)はそこであり、それこそが私たちができる社会貢献なのです。

また、先述の通り、この仕組みを海外に売っていくという点では将来性のある業界です。
途上国はまだまだインフラ自体が必要なところもあるわけで、実際に発電所や変電所、送電設備などを作らなければならないケースもある。
そこにスマート電力システムというものを併せて提案していく。ビジネスの需要というものをこう捉えれば、成長は充分に見込める分野ではないでしょうか。

この業界をめざす若者たちに求めるもの

まだ多くの人が持っているイメージとしては、電力業界はかなり閉ざされた保守的な国内産業といったものがあると思います。貴社、またはこれからの電力業界は、どのような人材を求めているのでしょうか。

確かに、これまで電力業界は地域独占でやってきましたからね。どちらかというと保守的な志向の学生が就職する業界でした。
でもこれからは先ほど述べたように、VPPを中心にIoTの先駆けの業界になるはずです。
これからどんどん成長が見込める業界ですから、もうできあがったところに入っていくという意識ではなく、「何か新しいことが起こっている業界だ」「これまで誰もやったことのないことをやるんだ」というワクワク感を持って入ってきていただきたいですね。

あとはやはり、理系の勉強はきちんとやっておいて欲しいですね。
文系でもせめて線形代数くらいの知識は必要でしょう。文系だから数学は苦手だとしても、実際に数式を自分でいじれないとしても、それが何なのかということがしっかりと理解できていれば問題ありません。全体のビッグピクチャーが描ければいいんです。
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理系の勉強をきっちりやることに加え、思考法や発想法など、学生時代にこれだけはしっかり養っておくべき、というものは何でしょうか。

とにかくまずは英語です。21世紀は英語が母国語みたいにしゃべれないとかなりつらいと思います。
これは単に外国語の勉強・習得の問題というよりは思考法や意識の問題です。
やはりもう自分がこれから生きる時代は、いいも悪いも関係なく否応なしにグローバル時代なんだという認識を前提にする必要があります。
そうなってくると、私は日本人だとか韓国人だとか中国人だなどと考えることはナンセンスで、自分は地球人だ、という意識を持つことがとても大切になってきます。

そこで必要となるのが英語です。残念ながらもう地球人の公用語は英語になってしまいました。
これがデファクトスタンダードになっているのはアンフェアじゃないか――ということすら英語で言わないと誰も聞いてくれない時代です(笑)。

もう1つは、やはり新しいことにチャレンジする精神ですね。
新しいことにチャレンジするにはリスクを負う必要がある。しかしリスクを取らないとリターンがない。
ハイリスク・ハイリターンとまでは言わなくても、それなりのリスクを取っていかないと駄目なんです。

就活生の皆さんに言うなら、例えば面接に行くのに自分だけは喪服みたいな黒いリクルートスーツを着ていかないと決めてみる。内定はずっともらえないかもしれません。
世の風潮としては個性の尊重だ、個性のある人材を採れとか言っているくせに、面接している人事部の人はスーツを着てこない人はどうしても失格にしてしまいます。
でもそんな会社はおそらく10年もしないうちに潰れますよ。だから絶対スーツを着ていかない、スーツを着ていかない自分に内定をくれるような会社を狙うんだ、と。こういう精神が必要でしょう。

先が見えない、分からないから面白い!

IoTはこれからどうなるのでしょう。IoTで世の中はどう変わっていくと思いますか。

IoTがもたらすものは具体的に言うと3つあると思います。
1つ目が消費電力の見える化です。スマートメーターの導入により、毎月の検針業務が自動化され、HEMSを通じて電気使用状況の見える化が実現されます。
2つ目がデマンドレスポンス。先にお話ししたVPPにつながるものですね。そして、3つ目が高齢者の〝見守りサービス〟でしょう。

これからの社会はますます、独居老人やお年寄り夫婦お二方だけのご家庭が増えていきます。
お子さんがいらっしゃっても、様々な事情によって同居していなかったりする。
介護の必要がないとしても、離れて暮らしている家族にとってはいろいろと気がかりなことが日々の生活の中にはたくさんあります。

そこで、スマートメーターで電力使用状況が分かるだけでなく、例えばスマートアプライアンス(スマート家電)がどう使われているかで、その人がどのように過ごしているかが分かるようにする。
ウェアラブル端末を使ってバイタルシグナルが全部計測可能になる。
そのうち、スマート便座に腰かけただけで血圧も脈拍も体温も全部計測されて、さらにお小水の分析までやって、健康状態が分かるようになる。
そしてその情報が遠隔地にいるお子さんたちに主治医さんから伝わる、そんなアプリが登場するのはほぼ確実だと思います。

4つ目以降は私も分かりません。分かったら億万長者になれるかもしれませんので、私のところにこっそり相談に来てください(笑)。

村上さんインタビュー完全版も「電力×デジタル」解説もまとめて読むならコチラ

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『3時間でわかるこれからの電力業界 ―マーケティング編―5つのトレンドワードで見る電力ビジネスの未来』
今とこれからの「電力業界ガイドブック」。今、電力業界は急速に変化・多様化しつつあり、これから一気に市場・ビジネスが広がっていくと予想されています。
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見守りサービス、高齢者・障がい者支援など、IoTの可能性は広がりますね。IoTでいろいろな人を支援したい、社会をよりよくしたい、という高い志を持った方はこの業界にチャレンジする意義がありますね。

それは確かにそうですが、別にそういう立派なことを考える必要はないと思いますよ。
志高く、世のため人のためにというのは立派なことですが、まず若い人たちがやらないといけないことは、日々の糧を得るお金を稼ぐことです。まずはそこからです。

社会貢献を目的にしていて自分の生活も成り立たないようでは本末転倒ですし、世のため人のためだったはずなのに「自分探し」「自己実現」になってしまったらそれもまたおかしな話です。まずはちゃんと稼ぐことです。

繰り返し申し上げますが、この業界にはこれから無限のビジネスチャンスが広がっていくと思います。稼げるチャンスはたくさんあるはずです。
IoTにどんな可能性があるのかということについても、まだまだ分からないことだらけですが、分からないということがチャンスなんです。

今は皆IoTという高い山の全容すら見えない状態でその山を登ろうとしている。登る道があるのかも分からない、そんな状態ですが、まずは一歩を踏み出すことが大事です。

Windows 95のリリースで1995年は〝インターネット元年〟と呼ばれましたが、IoTにとって2016年は、インターネットにおける1995年と同じような年なんです。だからワクワクするんです。分からないからワクワクする。
分かっている人生を歩んで何が面白いのでしょうか。若いときだったら多少失敗しても取り返しがつくんですから、ワクワクする心を大切にしてこの業界にチャレンジしてください。
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(村上憲郎氏のインタビュー記事は今回で終了です。次回は東急パワーサプライの村井健二代表取締役社長のインタビュー記事を予定しています。次回の更新は2/21(火)を予定しています。)
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