育休企画書で「目的」「会社にとってのメリット」を整理する。職場の仲間に育休取得を応援してもらう工夫(連載第3回)

(連載第3回)日本ではまだ数パーセントしかいない、男性の育休取得者。でも、いま確実に育休をとる男性が増えています。なぜでしょうか? 本連載は、書籍『なぜパパは10日間の育休が取れないのか?』から、パパたちが育休と向き合うことでどんなことを考え、感じ、乗り越えてきたのか、実際のSTORYとあわせてお伝えします。本連載は7回を予定しています。ご興味いただけた方は記事最後に紹介している書籍『なぜパパは10日間の育休が取れないのか?』もぜひご覧ください。

本連載は、書籍『なぜパパは10日間の育休が取れないのか?−家族も、自分も、会社も、みんなが幸せになる育休の取り方・過ごし方・戻り方−』(2021年4月発行/著者:成川 献太、パパ育休2.0プロジェクトメンバー)の一部を、許可を得て抜粋・再編集し収録しています。

上司・同僚に育休取得を理解してもらうためには

育休の取得を考えるにあたって、会社、上司や同僚への相談は避けては通れない道かと思います。まだまだ男性の育休取得経験者は世の中に少ない現実。ここ数十年で大きく変化した働き方への価値観・多様性は、世代によっては大きな隔たりを生んでしまうこともあります。

また会社の中で誰に最初に相談するのか、という問題もあります。直属の上司に相談するのか、それとも、もう少し上の役職の人に相談するのか。さらには「なぜ育休を取るの?」と聞かれたときに、どう答えるかで悩むパパもいました。
そんな「上司・会社との関係」に向き合ったパパのSTORYです。

【STORY】パパの覚悟と「育休企画書」まで作った理由

このSTORYを話してくれた方
・育休パパ 伊藤翼さん
・職業 会社員(エンジニア)
・家族構成(育休取得時) 妻(会社員)・長男(4歳)・長女(1歳)
・育休歴 2人目が生まれた3カ月後から妻と入れ替わる形で6カ月の育休を取得

直属の上司を2人通り越して、部長に直談判

育休取得を宣言する際、直接上司である課長に言わず室長も通り越して部長に宣言しました。これは賭けでもありましたが、課長に言ったら「何で?」と言われて育休を取るために理解活動をするためのムダな工数が発生すると考えたからです。それならば働き方改革に意識のある部長に直談判した方が早いと考えたためです。

その際、手ぶらで説明するよりは何か資料となるものが欲しい、そう考えて仕事で覚えた「A3資料」を転用し「A3の育休企画書」を作成しました。
1年間の業務スケジュールを部長に説明する場があり、事前に課長、室長にチェックしてもらう際に育休取得は未記入でした。部長に報告する際に初めて資料の中に「育休取得」の文字を記入しました。課長、室長は寝耳に水だったと思います。

育休取得について「何で?」と突っ込まれたらどうしよう…と思って臨みましたが作戦が見事に成功し、部長から「育休取るの?」と言われ「はい。取りたいです」と伝えると「ぜひ、取ってください。パイオニアになって」と言ってくれました。そして室長、課長に向かって「絶対に育休取らせてね」と念押ししていただけました。理解ある部長に恵まれて本当にラッキーでした。

1人目のとき、育休を言い出せなかった自分に足りなかったこと

私は4年前の長男出産の際も育休を取ろうかと考えたことがありました。妻が厚生労働省のイクメンプロジェクトを知っており、その影響もあって自分に打診したからです。
しかしそのとき「なぜ、育休を取るの?」ということを上司に言われると考え、それに対する答え(理由)が見つからず、結局「育休を取りたいです」と言えずに終わりました。

そのときを振り返って、覚悟と考えが足りなかったと反省しました。
私は2人目の出産に合わせて妻と話し合った結果、育休取得を決意しました。総合職として勤務する妻の「キャリアも充実させたい」という強い思いを知ったからです。恥ずかしながらこの時まで妻の考えは知りませんでした。といいますか、知ろうとしていませんでした。自分も当然のように「子どもが生まれたら妻が育休を取るもの」と無意識に思い込んでいたのです。

育休を取るなら覚悟か理由が必要だと感じ「育休企画書」を作成

何か新しいことをやる際には覚悟と考えが必要であることは過去の仕事から学んでいました。
まずは仕事で自分の企画を相談する際にどうするかから考えました。それを育休取得に転用してみようと考え、自分なりの育休に対する覚悟と考えを下記にしたがってA3に落とし込みました。

どうして育休を取る必要があるか? どうして取りたいか? 何をするのか? どんな計画なのか? 取った結果何をアウトプットにするのか? 取らせる側が確実に気にすることだろうと思われることを考えました。

自分なりに社会情勢、会社、家庭、自分の状況を調査と分析し、考え抜いた上で自分の覚悟を資料に落とし込みました。男性が育休取得のためにA3資料を書くことはかなりのレアケースだと思います。少なくとも私が探した範囲では、そんなことをしている人を見つけることができませんでした。

そこで自分が創ろうと思いました。実際にA3の育休企画書は職場仲間、後輩、労働組合の方々から大変好評(今まで見たことないという意味も含め)でした。会話のネタにもなり、職場の仲間からの意見が自分の視座を変えるきっかけにもなりました。

それはまだ完成前において「何のために育休を取るか? 職場や会社にとってのメリットは?」という言葉でした。そこまで考える必要あるの? と正直ムッとしました。でもその仲間は「そう思う人もいる」と思って言ってくれていました。そうやってコミュニケーションツールとしても使えたことは予想外でした。

実際に取得につながった! 育休の企画書フォーマット

私が作成した育休の企画書は、現状把握、目指す姿、計画(日程)、アウトプットイメージの4部構成になっています。

現状把握
ここの目的は、見てもらう人に「なるほど」と思ってもらうことです。そのためには見る人をうなずかせる必要があります。そこで大きな視点から小さな視点へと絞り込んでいきます。社会情勢→会社の状況→実状→問題点→「だから育休を取る」といった流れです。
重要なのは「何で?」と思わせない工夫です。見てもらう人、承認してもらう人の視点に立ってどんな単語、文脈が良いか考えてチョイスすると良いかと思います。ここでは自分の思いは控えめにするのがポイントです。

目指す姿
ここの目的は、「どうしたいか」を伝えることです。自分の思い、考えを凝縮させるポイントです。キャッチーなキーワードを入れること、具体的な目標を書くことで読み手に書き手側の考えを伝えます。

基本的にはここが一番考えなくてはいけません。自分の内発的動機、強み、生活環境等を総合的に見て少しチャレンジングな姿を設定することをおすすめします。

計画(日程)
ここは苦しむパートです(笑)。なぜなら想像力が試されるからです。でも逆にここ(計画)は普段の仕事でも苦しむところなので、書いてあるだけで大半の人が「こいうつ相当に考え込んでる……」と錯覚してくれます(笑)。
絶対にこうしなければ……というよりも、こうなったらいいなといった感覚で書いていくと良いでしょう。慣れないうちは書けないかもしれませんが、SNS等で他の経験者の投稿を見るとイメージが膨らんでくるはずです。

アウトプットイメージ
何のための育休と捉えているか? の目線、視座が見えるパートです。
ここは自分の育休終わりをどうしたいか? 誰に何を伝えたいか? を意識することで見えてきます。難しく考えずに、誰のどんな顔が思い浮かぶと自分が嬉しいか? を考えると自ずと見えてくると思います。困ったらパクってもらっていいです(笑)。

ちょっと偉そうに自分のA3企画書を分解して解説してみましたが、この企画書の書き方に関しては正解などないので、奥さん、職場のみなさま等に、いかに気持ちよく「育休取ってもらいたい」と思ってもらえるかだと思います。
私はA3の企画書というフォーマットでしたが、みなさまも自分の得意な伝え方で見える化し、コミュニケーションをとることが本質だと思います。
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何のための育休なのか。「目的」を整理する

伊藤さんのお話を聞いて「ここまでしないと育休を取れないのか」と正直驚きました。「育休の取得を承諾してもらうため」に作成を始めた育休企画書が、実は「自分は育休中に何をしたいのか」という育休取得の目的を整理することにつながったのではないかと思いました。もちろん性別にかかわらず育休は「取りたいから取る」に尽きると思うのですが、育休は取ることがゴールではなく、取ったことが始まりなのかなとも思いました。

「男性社員の育児休業1カ月以上の完全取得」を目指している積水ハウス株式会社では、子どもが生まれた男性社員に「家族ミーティングシート」を配布するそうです。

このシートは家族で育児休業取得の時期や、休業中の家事・育児についてじっくり話し合い、計画を立てるためのシートです。これを使って家族で話し合うことで、なぜパパやママが育休を取得するか、「時期」と「目的」が明確になるそうです。一般にも公開されているので私もやってみればよかったなと思いました。

なぜパパは10日間の育休が取れないのか?家族も、自分も、会社も、みんなが幸せになる育休の取り方・過ごし方・戻り方

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■人生が変わる、幸せな育休とは■
・パパ育休って、ぶっちゃけどうなの?
・パパは育休中になにをしていたの?
・育休パパに対する周りの反応は?
・パパの育休で家族、職場への影響は?

15人のパパ・ママが、育休の取得前から育休中・復帰後に感じたこと、何に悩みどのように解決していったのか。家族構成も職業や立場もさまざまなパパ・ママのストーリーが、この1冊に詰まっています。
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