【大前研一「企業の稼ぐ力を高める論点」】霜降り肉状態の間接業務。生産性を高める「業務の仕分け」

【連載第1回】今、日本企業の「稼ぐ力」が大幅に低下しています。長時間労働の常態化により生産性が低く、独自の施策によって効率化を進めることが重要課題となっています。経営トップは常にアンテナを高くして、自社や業界がどれだけの危機にさらされているのかを正確に知覚し、正しい経営判断につなげていく必要があります。本連載では、企業の「稼ぐ力」を高めるための8つのヒントをお伝えします。

本連載は、書籍『大前研一ビジネスジャーナル No.14(企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか~生産性を高める8の論点/変化する消費行動を追え~)』(2017年9月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。

間接業務の生産性を向上させるには?

間接業務の仕分けでコア業務を明確にする

まず初めは、間接業務の生産性をどう向上させるかという問題です。
これには徹底した業務の仕分けが必須です。“霜降り肉”状態になっている定型業務と非定型業務とを仕分けすることこそ、「稼ぐ力」を高める上で一番効果的な方法です。

仕分けしてみると、かなりの部分が定型業務であることがわかります。
その中には「これは廃止してもいい」というものも多くあるはずです。また、そこで残った業務を見直すと、社外に切り出す業務と社内に残すべき業務とにさらに仕分けできるはずです。
アウトソーシングできるものは外部委託し、クラウドソーシングを積極的に利用するのも1つの方法です。
社内に残す業務のほうは、IT化、システム化、自動化の余地がないかを検討します。定型業務というものをまずはここまで整理しなければなりません。

一方で非定型業務でもやらなくてもよいことがたくさんあります。定型業務と同様にそれらも廃止してしまいましょう。また社外に切り出す業務と社内に残す業務とに仕分けします。
特定の分野に関しては、社内にいる人材よりも優れているプロフェッショナルやエキスパートへアウトソーシングしたほうがよい仕事があります。そして最後に残ったコア業務を社内の人間がやる、という次第です。

定型業務を優先することが非効率化につながる

このコア業務というものは社内の全業務の中で最も重要な部分ですから、これだけは不可欠のものであり、完遂するためにはあらゆるリソースを注ぎ込まなければならず、時間もマンパワーも目いっぱい割り当てる必要があります。
ここに関しては残業を減らそうという話にはならないはずですし、いくら過重労働であってもブラック企業ということはありません。任せる人材は最優秀の者で、そういう人がいなければそれこそアウトソーシングするか採用するかして、とにかく適任者を配置します。この業務を自社から失うと新しいビジネスを創っていくことができません。

また定型業務のほうでIT化などにより業務が削減できれば、そこでの余剰人員を営業その他に異動させて売上高を高めていくということも必要です。
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このようにして業務の“霜降り肉”を仕分けしていかなければならないのですが、日本企業の場合はそれができないまま何十年も来ています。入社以来ずっとその霜降り肉を食べ続けてきた人は、やがて自分が管理職になった時にも、まず定型業務を優先してやるようになります。

これは人間の性です。定型業務が残っているのが嫌なのです。それをようやくこなし終わった夕方に、さてクリエイティブな非定型業務のほうに手を付けるかとなると、もう相当にくたびれていて自分のリソースが消耗してしまっています。これでは到底効率的とは言えません。

1日の中で後回しに、月の中でも後回しにされてきたような業務について、一通り疲れてしまった後にクリエイティビティを発揮しようというのはかなり無理のある話です。こうして人材がスポイルされていくのです。

大前研一ビジネスジャーナル No.14(企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか~生産性を高める8の論点/変化する消費行動を追え~)

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「大前研一ビジネスジャーナル」シリーズでは、大前研一が主宰する企業経営層のみを対象とした経営勉強会「向研会」の講義内容を読みやすい書籍版として再編集しお届けしています。
日本と世界のビジネスを一歩深く知り、考えるためのビジネスジャーナルです。
■生産性を高める経営 ~「稼ぐ力」を高めるための8の論点~
■変化する消費行動を追え ~消費者をどう見つけ、捉えるか~

企業の労働生産性改善のためのステップ

では、労働生産性の改善を具体的にはどのように進めていくか、手順を追って見ていきましょう。
まずは、自社のコアとなる事業を明確にする、コアスキルというものは何かを見定めます。そして定型業務と非定型業務との仕分け、コア業務と非コア業務との仕分けをしますが、ここで必要になるのが業務プロセスを標準化するSOP(StandardOperating Procedure:標準業務手順書)の作成です。

海外の企業ではこれがまず先にあり、採用に当たってはSOPに合わせて人を採ります。仕事に人を当てはめるというわけです。単に「こういうことをやれる人を募集しています」というだけでなく、セールス・フォース・オートメーション(営業支援システム)のこういうツールが使える人だとか、マーケティングオートメーションのこういうものを使って有象無象のネットの中からこういう顧客を見つけてきて売上にこうやってつなげたという人というように、募集内容がより詳細かつ具体的になっています。
ビジネス特化型SNSのリンクトイン(LinkedIn)などは、そうした人材を引っ張ってくるのに非常によいリクルーティングサイトです。
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間接業務の効率化施策実施のイメージ

間接業務の効率化施策をどう実施していくか、図にまとめました(図-9)。
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まずは業務の分類を1つずつやっていきます。たくさんある間接業務には全部名前がつけられるはずです。例えば経理の月次のリポートとか、営業の地域別の分類とか、商品別の売上実績とか、それぞれに全部名前があります。そうした名前を基に業務を分類しましょう。
その上で、個々の業務をさらに細分化し、コストの見積もりをします。整理した上で、それぞれの間接業務についてコストを見直し、コスト低減案を作成します。

能力ある人材を見つけられない日本の人事部

トップマネージメントの最大の仕事は、命令や指示をすることではなくて人材を見つけることです。社内・社外にかかわらず、SOPに合わせて人材を見つけてくることがトップには求められます。したがってトップの時間は、人材の本当の能力を見極めるために割り当てられるべきです。

ここで非常に重要となるのが人事部です。私はこれまでいろいろな会社で人事ファイルを見せてもらってきましたが、日本企業の人事ファイルでは求める能力を持った人を見つけることが非常に難しいのです。
例えば、入社以来どういう部門にいたとか、その時の上司が5点をつけたとか4点をつけたとか、そういうことは分かります。
しかしこれだけでは、いったいどういう能力を持っていて次に何ができる人材なのかがまるで分からないのです。基準もよく分からないような恣意的なスコアで記されている人事ファイルではなく、その社員がどういう人材なのかをディスクリプティブ(descriptive:叙述的、説明的)に記した人事ファイルが必要なのです。

この時には部下も非常に少ないような状況だったのにこういう仕事を1人で新しく始めて今ではそれが当社の中核業務になっている、などということが記述してあれば、「仕事を与えれば創意工夫してやるんだな。ではこういうこともやらせてみようか。今度一緒に昼飯でも食ってみよう」ということになります。

以前、私がある会社のリクルーティング時に経験した事例で、非常に強く記憶に残っているものがあります。
「あなたの特技は何ですか?」と尋ねたら「課長です」と返ってきたのです。霜降り肉の中でずっと育ってくると、特技が言えなくなるのです。「同期で一番に課長になりました」これも何の意味もないことです。
「私はこういうことができるんです」「これはもう何回もやっていることですから私に任せてください」そう言えるようにならなければなりません。これはいわば、自分の“名札”を持つということです。
(次回に続く)
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