特集
2020.11.19

続報 Woven City トヨタ中間決算 質疑応答#3

2020.11.19

豊田社長による決算会見の質疑応答を3回にわたって掲載。最終回はトヨタがつくる未来の実証都市 Woven Cityについて。

「トヨタが富士山のふもとに新しい街をつくる」――。今年の年初、米・ラスベガスで開かれたCES2020で未来の実証都市“Woven City”を建設することを発表してから、1年がたとうとしている。

社長の豊田章男がスピーチを行い、「2021年初頭から段階的に着工する」とアナウンスをしたが、まだ公の場でその進捗を伝えたことはなかった。

その後、新型コロナの感染拡大もあり、トヨタを取り巻く環境は大きく様変わりしている。はたして、プロジェクトは計画通り進んでいるのか?

決算説明会にオンライン出席した記者からは、その点について質問が投げかけられた。

――Woven City の進捗について教えてほしい。いつ建設は始まり、いつ終わるのか。オープンや人が住み始めるのはいつごろで、パートナーの数はどれぐらいなのか?

豊田は、「プロジェクトは着実に進んでいます」と切り出すと、プロジェクトの推進体制と自らの意思決定への関わりについて説明を始めた。

「答えのない時代」の仕事の進め方

豊田社長

私と担当が3週間に一度、方向性の確認をしています。

私がその場で、その時の最新情報をもとに決定をしていきますが、それは3週間前に決定したものと違っても良いというルールなんです。

その都度、環境変化を踏まえ、決定をしていこうと進めております。

豊田はWoven Cityのプロジェクトメンバーと3週間おきにミーティングを行い、意思決定を重ねている 。

メンバーは「決まったこと」「決めたいこと」「やっていること」を見せながら、豊田をはじめとする経営陣らと相談をする。

全部を作り上げてから評価、検証をするのではなく、小さな単位でそれを繰り返し行うのがポイントだ。

世の中の変化を実感すれば、前言撤回し、その場で進むべき方向性を定め直す。ゆえに、大きな後戻りが起こりにくい。

豊田自身も「まだやったことのない“答えのない仕事”にはよい」とその効果を実感する仕事の進め方である。

Woven Cityの原点

続いて豊田が口にしたのは、建設予定地についてだった。

豊田社長

一番大事なのは、その候補地が現在も生産をしているトヨタ自動車東日本の東富士工場ということです。

この工場は1カ月後には閉鎖される予定になっております。そこで働く従業員について、東北への異動を決定した社員もいますが、残念ながら家族の都合などで遠隔地に行けない方は、他の仕事を探すお手伝いをしています。

この辺りも、トヨタ自動車東日本とお近くの仕入先にもご協力いただきながら、一人ひとりに寄り添って、働く場を確保しております。

社長就任以来、リーマン・ショックでの赤字転落、大規模リコール問題、東日本大震災など、数々の危機に見舞われながらも、「石にかじりついても国内生産300万台を死守する」と言い続けてきた豊田。

しかし、それでも閉鎖せざるを得なくなったのが東富士工場だった。

2018年7月、豊田は閉鎖が決まった東富士工場の従業員と直接対話する集会に出席した。そこで、初めてWoven Cityにつながる「コネクティッド・シティ」の構想を口にする。

「東富士工場の閉鎖を未来につなげるために、この場所にコネクティッド・シティを創りたい。現時点で何も決まっていないが意志さえあればできる」

工場は閉鎖してしまっても、この地をこれからの未来を担う拠点にしたい。そんな想いがこのプロジェクトの原点である。

着工日は“富士山”

そして、ここからが、まだ対外的に語られたことのないWoven Cityの進捗である。豊田はまず、具体的な着工日に言及した。

豊田社長

来年着工していくわけですが、広報からは「特定の日は言うな」と言われています。

ただ、私の想いは223日にしたいと思っています。(223が)「富士山」(と読める)という単純な理由です。

富士のすそ野に未来の新しい都市をつくる。223日に鍬入式をするスケジュールで進んでいることを皆様にご報告させていただきます。

ここで何が行われるのか。私どもが自動車会社からモビリティ・カンパニーに変わろうと計画する中で、将来、我々に価値をもたらす商品を実証実験していきたいと思っております。

そのうちの一つが自動運転のクルマになると思います。

ただ、自動で走るクルマをつくればよいのではなく、インフラとセットでやることが重要になってくると思いますし、そうすることで、開発のスピードが極端に上がっていくと思います。

その中で、一つの原単位ができたというのが大きなニュースだと思います。

150m×150mの正方形の土地が一つの区画になります。そこに、地上3本の道、地下1本の道を用意します。

地上の3本のうち、1本は自動運転専用の道。もう一つは歩行者専用の道。3本目は歩行者とスモール・モビリティが混在する道。

こうすることで、自動運転で確保しなければならない安全のレベルが非常にわかりやすくなってくると思います。

地上では、天候の変更があって、雨の日、晴れの日、暑い日、寒い日で路面の状況が変わります。地下なら天候の影響を受けずに自動運転をトライできるわけです。

地上は人が関わる移動の道になりますが、地下はモノの移動です。天候の変化もなく、モノの移動であれば、一番簡単な自動運転のレベルなのかなと思っております。

未来の街の住人

続いて豊田が明かしたのは、住民として受け入れを想定している対象者の人数規模についてだった。

豊田社長

3本の道で構成された街に住む人の数が360名ぐらい。その内訳は、高齢者、子育て世代、発明家の方々です。最初の2つが、一番の社会課題を抱えている方々ではないかと思います。

そして、人を中心にしたこの場所に発明家を一緒に住まわせることにより、いろいろな社会課題の解決に向けた発明をタイムリーに起こしていきたい。

発明家の方は、ある一定の期間を設けて、成果が出ない場合は次の方に変わっていただくなど、発明を活性化させる仕組みを実務の方で考えているようです。

そして、現在、個人・法人を含め3,000人の方々がパートナーになりたいと応募をいただいております。

Woven Cityは実証実験の場なので、どこまでいっても未完成であることを知っていただきたいと思います。

私どもの究極の目的は安全なモビリティをつくること。そして、人を中心にしていきたい。

だから、インフラとセットでモビリティの未来をつくっていきたい。そのために、自動車会社だけでなく、多くのパートナーを募集している。

未完成で、実証実験であることをご理解いただき、皆さんも何かの形で参加するような未来づくりに、是非とも期待していただきたいと思います。

今回の決算説明会において、コロナ禍で感じた手応えを聞かれた豊田は、次のように答えている。

「リーマン・ショックや東日本大震災のときは、さまざまなプロジェクトで一斉にブレーキをかけた記憶がございます。全ての新規プロジェクトをとにかく 1 回止めようと。ところが、今回は止めるどころか、いつも通り仕事をしようとしました」

リーマン・ショックと今回のコロナ危機でのトヨタの変化は、これまでも決算の解説や、質疑応答の記事で記してきた通りである。

しかし、今回はトヨタの、ひいてはモビリティの未来を担うプロジェクトの展望を語ることができた。

そんなところにも、11年間の変化が表れている。

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