IBM Sustainability Software

「自治体のDXを促進する地域課題の抽出、解決、運用のサイクルを支えるデータ流通プラットフォームの取り組み紹介」レポート

記事をシェアする:

 

2019年から、IoT技術を搭載する地域課題解決システムの開発と実証実験を、IBMのAI Applications事業部と共に長野県の小谷村で進めている東京電機大学 知的情報研究室。

その同大 研究チームが9月17日に主催したのが「自治体のDXを促進する地域課題の抽出、解決、運用のサイクルを支えるデータ流通プラットフォームの取り組み紹介」オンラインセミナーだ。

 

セミナーは、同研究室を主宰する松井 加奈絵准教授による「自治体のスマート化を支えるデジタルビレッジプラットフォーム(DVP)、デジタルマーケットプレイス(DMP)について」と題されたセッションからスタートした。

主な内容は現在の日本が置かれている環境下において「なぜDVP、DMPが必要か」を伝えるものであった。以下、セッションの一部を紹介する。

 

■ 必要なのは自治体業務の「自動化」「知能化」「洗練化」

松井准教授は、これまで主に自治体で進められていたのは「通常業務のIT化」だったが、現在急速にその必要性を高めているのが「行政業務のDX化」だと言う。

その理由として、コロナ禍における業務量の増加や、従来のやり方ではこなせない業務の発生などの要素があげられたが、最大のポイントは行政担当者の「悩む時間」を減らし、解決のために充てる時間へとつながる「思考する時間」を作り出すことだと言う。

ではどうすれば、行政担当者は「思考する時間」を手にできるのだろうか? そこで出てくるのが「自動化」「知能化」「洗練化」だ。

 

「データを利活用した新しいタイプの行政サービスの展開が求められています。機械学習やAIを用いて、これまで人間が行なっていた業務の一部を実行する自動化や、人間の代わりに考える知能化です。ただ、本当に重要なのは、その先にある『洗練化』です。

洗練化とは、自治体におけるご自身の専門領域において、時間をかけて政策に取り組める環境を、自動化と知能化によって作り出すことです。個別の課題解決に取り組むだけではなく、課題解決サイクルを回しやすくするための環境を整えることが大切です。」

松井准教授はそう語り、行政も住民も「デジタルに振り回される」のではなく、デジタルは手段に過ぎないこと、そしてその目的が課題解決であることを強調した。

自治体業務の洗練化、自動化、知能化とは

自治体業務の洗練化、自動化、知能化とは

 

■ DVPとDMPがつながることで「解決方法」が循環する

「地域創生には産官学民すべての力が必要」とはよく聞く言葉だが、実際は住民の参画が活発ではない地域が多いのも実情だ。

「小規模地域のスマート化を支援するプラットフォーム」であるDVPと、「地域課題解決方法を要素分解して再構築しやすくすることでエコシステムを作る」DMPをつなげるのは、自治体や企業だけではなく、住民でもあると松井准教授は説明した。

 

「高齢化や少子化が進む地域で、IoTやAIといった新しいテクノロジーを用いる必要性の高さは皆さまご承知のことかと思います。ただ難しいのは、地域課題はその地域の特有性を含んでいることが多く、それゆえに別地域で課題を解決したソリューション(地域課題解決方法)が、天候や習慣の違いがある別地域に適応できないケースが少なくないことです。

ですから、そうした地域性を一番よく分かっていらっしゃる住民の参画は、非常に重要です。」

 

「地域で毎回ゼロから『開発〜導入〜テスト』を繰り返していては無駄が多いですよね。そのゼロからの時間や労力を『継続』や『運用』に使用できれば、より多くの課題解決より素早く取り組むことができます。

そのために重要なのが『知識共有』です。システムの導入方法やその効果がプラットフォーム上で共有されていけば、そこで別地域で課題を解決したソリューションのブラッシュアップが行われます。そしてエコシステムが形成されていくことが期待できます。」

松井准教授はそう話した後、DVPとDMPが生まれる経緯となった過去の取り組みや今後の展望の一部を語った。その中身については先日公開されたオンラインメディア「IDEAS FOR GOOD」での松井准教授へのインタビュー記事に詳しいので、併せてご一読いただくことをお勧めする。

IoTテクノロジーの民主化で地域を持続可能に。東京電機大学の地方創生プロジェクト

IoTテクノロジーの民主化で地域を持続可能に。東京電機大学の地方創生プロジェクト

 

■ 共通プラットフォームによりサービス導入と課題解決が促進される

続いて登壇したのが、東京電機大学に所属しながらエクスポリス合同会社の代表も務めている西垣 一馬氏だ。西垣氏は「DVP、DMPの機能」を中心に紹介した。

 

西垣氏が強調したのは、共通プラットフォームがある場合とない場合の「自治体担当者」「システム担当者」「住民システム利用者」それぞれの違いだ。

プラットフォームがない場合、自治体担当者とシステム担当者の負担がかなり大きくなるという。それは、別システムであっても、共通プラットフォームを用いていれば避けることのできるやりとりが増え、そのつなぎ役や取りまとめ役を行う必要が生まれるからだと言う。

例えば、住民からの「システムの稼働状況についての問い合わせ」や「近隣の害獣問題の発生有無に関する問い合わせ」であったり、自治体内の複数システムのそれぞれの担当者からの「2つのデータを組み合わせて報告書を作成したい」などの連絡により、個別リクエストとそれへの対応作業が発生してしまう。その違いを以下の図を用いて説明した。

デジタルビレッジプラットフォームがある場合とない場合のちがい

デジタルビレッジプラットフォームがある場合とない場合のちがい

 

続いて、スマートシティ事業に取り組んでいる「スマートシティたかまつ」を一例として紹介し、DVPとの共通点と相違点を説明した。

スマートシティたかまつは、「防災分野」「観光分野」「福祉分野」「交通分野」でそれぞれの取り組みを行なっているが、そこで用いられているのは「FIWARE」という、データ管理/連携の共通プラットフォームだ。

 

「DVPは、このような共通プラットフォームを1市町村に閉じるのではなく、より多くの地域で共有できるものにしようということです。

現在は、一部準備中ではありますが、長野県北安曇郡小谷村という日本の典型的な中山間地とも呼べる地域で、以下3システムを共通プラットフォームであるDVP上で実行しているところです。

 

  • 農業向けIoTシステム | 水田の水位・水温を計測、閲覧するIoTシステム
  • 気象データ利用システム | 気象庁データより高密度な気象データを取り扱うダッシュボード
  • 害獣対策 | 設置罠に動きがあった場合、通知が行われるIoTシステム

 

これらの3つのシステムがそれぞれ用いられるだけではなく、そこから生成されたデータや洞察を組み合わせて新たな使用方法の確立や価値創造を行うことができること。それがDVPの特長の1つです。」

デジタルビレッジプラットフォーム | 小谷村さまでの事例

デジタルビレッジプラットフォーム | 小谷村さまでの事例

 

DVPに続き、西垣氏はDVPを用いて作成したソリューションを販売できるマーケットプレイスであるDMPを紹介した。

その役割は、ウェブブラウザ「Google Chrome」に新機能を追加できるプログラム「Chrome ウェブストア」をイメージすると理解しやすいと言う。

「作り手側の『マーケット開拓が難しくスケールさせづらい』という問題と、需要側の『実績のあるアプリを見分けづらい』という問題を、同時に解決できる可能性が高いと考えています。」

西垣氏はそう話すと、次のセッションへとバトンを渡した。

 

 

■ 「ロッテルダム港」と「SmartExit」 | データ活用技術のユースケース

最後に登壇したIBMの磯部 博史は、現在の日本が抱える社会課題への取り組みにおいて重要となる「Society5.0」と「デジタル・ツイン」という2つの言葉を解説した後、以下3つの関連ユースケースを紹介した。

IBMが提供しているマーケットプレイス(電子商店街)であり、そこではデータの閲覧の他、別企業が開発したソリューションのダウンロードや自社が開発したソリューションの販売が可能。

 

病院などの公共施設の非常口サインをデジタル化するソリューション。30日毎の非常口サイン点検義務のあるアメリカでは、コンプライアンス維持やテスト結果の管理・運用などに大きなコストがかかっていた。それらを大幅にスリム化。

 

気温、風速などの天候データと水の流れや潮位、潮流などの海水データ、そしてIoTセンサーからのデータと過去の積載物積み降ろし作業データを統合分析し、AIやエッジコンピューティングにより最適な寄港タイミングを提案。

 


セミナーはこの後休憩を挟み、参加者を交えた「地域課題のデジタル化を考える」オンライン意見交換会となった。

交換会では、参加者から挙げられた「川の水位上昇データと防災システムのよりきめ細かい連携」という具体的な懸念事項について、システムだけではなくプライバシーをはじめとした法令や制度のアップデートも併せて取り組む必要性があるという議論が行われた。

その他、農林水産業や土木、キャッシュレスなど、さまざまな分野における地域での取り組みが紹介されたが、中でも「埼玉県浦和美園地域での自治体先導ではないコミュニティーづくりの取り組み」や、「棚田をはじめとした耕作放棄地への補助金政策」などの最新動向は、多くの参加者にとって学びの多いものとなった。

 

松井准教授と東京電機大学 知的情報研究室は、今後も地域課題解決システムについての情報共有会を継続的に開催する予定とのことだ。

IBM ソリューションブログでも、引き続き最新情報を共有していく。

 

問い合わせ情報

お問い合わせやご相談は、Cognitive Applications事業 にご連絡ください。

 

関連記事

「今だからこそ必要な”地方創生xTech”」ディスカッションレポート

[セミナーレポート]デジタルVillageによる地方創生と新時代への変革に向けて

「地域課題解決をDIYするためのデータ流通プラットフォームの取り組みと展望」レポート

 

 

(TEXT:八木橋パチ)

 

More IBM Sustainability Software stories

持続可能な未来にエネルギーを | 再エネの実例と使用例

IBM Sustainability Software

化石燃料からの移行を進めるために、再生可能エネルギーを求める国や企業、個人が増え続けています。 太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる世界の発電能力は、2023年には50%増加しました。 そしてドバイで開催された国連 ...続きを読む


スコープ3排出量計算とレポートを自動化&強化 | IBM Envizi Supply Chain Intelligence

Client Engineering, IBM Sustainability Software

IBM Enviziは、ESGデータ収集・分析・報告プラットフォームであるIBM Envizi ESG Suiteに、スコープ3の排出量計算とレポーティングを一層強化する新モジュール「Envizi Supply Chai ...続きを読む


スターターパック登場! | 脱炭素経営支援ソフトウェアのリーダーIBM Envizi

IBM Sustainability Software

IBM Envizi(エンビジ)は、環境・社会・ガバナンス(ESG)ソフトウェア・スイートのスターターパック「IBM Envizi Essentials」のリリースを発表しました。 IBM Envizi Essentia ...続きを読む