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SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」 | 水産養殖漁業をブロックチェーンで支援

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水産養殖漁業に革命が起きているのをご存知ですか?

 

忘れてしまいがちですが、水産養殖はまだ比較的新しい産業であり、本格的にスタートしたのは20世紀も後半に入ってからです。

それが現在では、私たちが世界中で口にするすべての魚の半分以上を水産養殖が担うまでになっています。

人口増加が進む中、養殖産業の進化は、世界中のすべての胃袋を満たすためにより一層欠かせないものとなっていくでしょう。なぜなら、耕作可能な土地は、過去60年間で地球上の総面積の9.7%から11%へとわずかしか増加していないからです。

地上における食糧生産が期待薄なのに対し、海洋には広大なポテンシャルがあります。持続可能な食料源の維持に、シーフードは間違いなく大きな役割を果たすことでしょう。

 

■ SDG14「海の豊かさを守ろう」を達成するために

養殖漁業は海洋資源の減少がもたらす影響を軽減するものであり、SDGsのゴール14「海の豊かさを守ろう」を達成するのにも欠かせない産業です。そしてまた、地上での畜産による食用肉の生産に比べて、地球への影響をはるかに抑えた形で動物性タンパク質を生産できます。

ある調査によると、養魚場が魚1キログラムあたりに排出する二酸化炭素量はわずか2.2キログラムであり、最も持続可能な陸生タンパク質が排出する量の半分にも至りませんでした。また、牛肉1キログラムあたりの平均カーボンフットプリントは、37キログラムとも言われています。

 

タンパク質の摂取方法を変えることが体にだけではなく地球にも良いとなれば、変えない理由はないと考える人が多いのも当然です。

しかし、これまでのシーフード・サプライチェーンには持続可能性を高める慣行がきちんと行われているのか、地域ごとに異なる条例や品質保証などにおいて消費者から見て疑わしい部分がいくつか残っていました。

その疑惑の払拭に必要だったのが、魚に関する全詳細が変更、削除、改ざんできないように記録される、ブロックチェーンというデジタルトレーサビリティ・ソリューションだったのです。

 

■ 水産養殖における規制と不当表示

養殖産業は「規制が不十分な産業」という悪い評判に悩まされてきました。実際、過去には、過密環境での魚の飼育や、病気や寄生虫の蔓延を抑えるための化学物質が使用されていた時代があったのも事実です。

行政や業界団体などの規制当局、食品加工業者、バイヤー、サプライヤーは、こうした慣習を撤廃しようと努力していました。

そして最初に立ち上がったのがノルウェーやカナダなどの政府でした。彼らは養殖魚の飼育に対して厳しいガイドラインを策定したのです。

 

これらの規制強化により養殖業界の評判と持続可能性は向上しました。しかし一方で、厳格な施行には難しさが残っていました。

その理由は、養殖業者が厳しい基準に則っても、あるいは自らそれを上まわる厳格差で慣行を行なっても、自分たちがいかにクリーンで安全に養殖を行なっているかを証明する方法がなかったからです。

そしてまた、過去の不十分な規制に加え、シーフードには不当表示が多いという負の側面もあります。

世界的な海洋保全・保護NPO「Oceana」の調査によると、米国のテストでは魚の20%に誤ったラベルが付けられていたそうです。そしてその誤りの多くが、サーモンやスズキ、ホタテなど、人気の高いシーフードに集中していたそうです。

 

この種の不当なラベル付けが発生するのは、通常サプライチェーンの途中です。

悪意ある流通業者のこうしたひどい行為により、品質にこだわり、価格に見合う商品と誠実さとを求める消費者が離れていき、高品質のシーフードや誠実なビジネスまでもが被害を被ってしまうのです。

 

■ 71%の消費者がより多くを支払う意思を示している

こうした課題の克服に向け、ノルウェーのシーフード業界が本格導入するのが、北欧を中心に事業を展開するIT大手Atea(アテア)がブロックチェーン技術を用いて構築したトレーサビリティソリューションです。

ノルウェーは高品質のシーフードの主要輸出国として知られており、2019年は270万トン以上のシーフードを世界140カ国以上に出荷しています。これは世界で毎日3600万食が消費されている計算となり、水産養殖業界におけるその影響力は計りしれません。

今回採用されたIBMのブロックチェーン技術はLinux Foundationが提唱する「Hyperledger Fabric(ハイパーレジャー・ファブリック)」を基盤としており、すべてのトランザクションがその台帳に記録されていきます。そして台帳の管理機能が複数組織に分散されているために、特定組織や個人がデータのコントロール権を手にするチャンスがないので、データの信頼性は保証されます。

今回の導入により、規制当局はライセンス発行時や何らかの検査を行う際に、ブロックチェーン台帳を用いて養殖業者のトランザクションを調査し記録できるようになります。

また、養殖業者は、同じブロックチェーンネットワークを使用して情報共有ができるほか、魚の漁獲地や漁獲時間、いつ何を餌として与えられたのか、輸送保存用に何が行われたのかなど、出荷に関する情報すべてを記録します。

そして食品加工業者、流通業者、消費者の全員が全サプライチェーンを通じて「正確な同じ情報」を共有し協力することで、プロセスを改善し、非効率性と食品ロスを減らすことができます。

さらに、養殖業者や販売業者は、養殖場の映像や調理方法、おすすめメニューなどの消費者向けの情報を提供することで、生産者・販売者・消費者間のつながりを強めていくこともできます。

 

最近のIBMのグローバル調査では、消費者の71%が、トレーサビリティが重要でありトレーサビリティを提供するブランドには付加料金を払ってもよいと答えています。

持続可能かつ安全に飼育された養殖魚を購入できると知った消費者が増えていけば、その基準がどのように満たされているかを消費者向けアプリにより確認したいと思う人が増えていくことでしょう。そしてブロックチェーンの提供価値を笑顔と共に食卓で実感する人もきっと増えていくことでしょう。

 

水産養殖漁業は1970年代から長い道のりを歩み、シーフードによるタンパク質を世界へと届けてきました。

しかし今後は一層、食の持続可能性を高めていく必要があります。そして安全と安心を消費者へと届けることは、当局から生産者、食品加工業者、流通業者、販売店まで全関係者すべての義務であり願いなのです。

IBMのブロックチェーン技術は、エコシステム全体に信頼を組み込むことで、持続可能なシーフードの今と未来を守り、海の豊かさを守り続けます。

 


 

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当記事は『Why digital traceability can accelerate the aquacultural revolution』をベースに、日本のお客様向けに編集したものとなります。

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