【大前研一「企業の稼ぐ力を高める論点」】賃金を上げて潰れる企業は需給バランスが取れていない。労働力不足を解決する方法

【連載第5回】今、日本企業の「稼ぐ力」が大幅に低下しています。長時間労働の常態化により生産性が低く、独自の施策によって効率化を進めることが重要課題となっています。経営トップは常にアンテナを高くして、自社や業界がどれだけの危機にさらされているのかを正確に知覚し、正しい経営判断につなげていく必要があります。本連載では、企業の「稼ぐ力」を高めるための8つのヒントをお伝えします。

進化がとどまることを知らないアマゾンですが、レジのないスーパーマーケットの開店を予定していると報じられています。実際にこれをやるのかどうか分かりませんが、2016年12月にはアマゾンの従業員限定でベータ版の店舗が開店し、YouTubeにもプロモーションビデオがアップロードされています(https://www.youtube.com/watch?v=NrmMk1Myrxc)。

「Amazon Go」というこの店では、客が商品を持ち帰るとカメラでそれを自動認識し、クレジットカードに課金するという仕組みでレジを廃止しています。

一般的にスーパーマーケットの店舗運営には小さなところでも10名くらいの従業員が必要ですが、Amazon Goではレジ廃止に加え、配送センターで導入しているロボット技術を応用してできる限り店舗オペレーションを自動化し、人員削減を図っています。おそらく最低1名で店舗運営が可能になるという実験をしているのでしょう。
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サービス維持が限界のヤマト運輸をどうするか

人手不足が深刻な業界の最たるものは、日本では物流です。
アマゾンをはじめeコマースの普及により需要は高まる一方ですが、もはやサービス維持が限界にきているほど業界全体が疲弊しています。

アマゾンの配送は以前は佐川急便が担っていましたが、2013年に取引を停止し、現在はヤマト運輸が引き受けています。
佐川急便との取引停止の背景には、過度な運賃引き下げの要求、メール便での判取りや再配達の要求などがありましたが、にもかかわらずヤマト運輸はアマゾンの仕事を引き受けてしまいました。ヤマト運輸はすでに2017年10月1日からの宅急便基本運賃値上げを発表しており、これはアマゾンとの協議への布石と見られています。そのくらいまで、ギリギリのところまで追い込まれているという状態です。

ヤマト運輸に限らず、今の物流で最大の問題はラストワンマイル、要は再配達です。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社が実施した調査では、再配達率は平均19.6%にも上ります。
2016年の宅配便の取り扱い個数は38億6,930万個で、この2割が再配達となれば凄まじい労働量となり、まともに残業代を払ったらヤマト運輸の約700億の営業利益の半分は飛ぶと言われています。
低賃金や拘束時間の長さからドライバーのなり手も慢性的に不足しています。これを解決するには、「通知・配達指定システム」「宅配ボックス」の普及促進と、アイドルエコノミーの活用検討が考えられます(図-23)。
顧客のデータベースを構築して通販事業者へシステムを無償提供しユーザーへの通知をシステマティックに行う、インセンティブを与えて宅配ボックスの設置を促進する、Uberの物流参入に学び一般の遊休車両に配送をアウトソーシングする、といったやり方です。
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また、物流全体の構造的な問題として、1つの家のポストに複数の業者の配達員が1日に何人も訪れているという非常に無駄な現状があります。これを一本化するという抜本的な構造改革も考えられます(図-24)。

地域ごとに、あらゆる配達物を一元管理する協同組合をつくり、それぞれに物流拠点(デポ)を置いて、そこから各家庭に個別に配送するという仕組みです。
このデポは必要に応じて各業者に委託してもよく、つまり物流のラスト1kmの部分を1つの業者が一括して担うというやり方です。この地域はヤマト運輸が、この地域は佐川急便が、あっちは日本郵便が、宅配も新聞もポスティングも何から何まで全部やる、という具合にすると車の量も減りますし、1日に何回もチャイムが「ピンポーン」と鳴ることもなくなりますので、これはお互いのためにとてもよいのではと思います。
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(次回に続く)

大前研一ビジネスジャーナル No.14(企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか~生産性を高める8の論点/変化する消費行動を追え~)

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「大前研一ビジネスジャーナル」シリーズでは、大前研一が主宰する企業経営層のみを対象とした経営勉強会「向研会」の講義内容を読みやすい書籍版として再編集しお届けしています。
日本と世界のビジネスを一歩深く知り、考えるためのビジネスジャーナルです。
■生産性を高める経営 ~「稼ぐ力」を高めるための8の論点~
■変化する消費行動を追え ~消費者をどう見つけ、捉えるか~
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