大前研一「つながりが生むビジネスモデル『テクノロジー4.0』とは何か」

【連載第1回】「インターネットの次に来る革命」が、世間をにぎわせています。FinTech、位置情報、そして、IoT。「テクノロジー4.0」と称される現在のテクノロジーは、ビジネスモデルや経済のあり様を変えていきます。テクノロジー4.0にはどんな利点があり、今後どのようなビジネスが生まれてくるのでしょうか。

本連載では、大前研一さんの書籍『テクノロジー4.0 「つながり」から生まれる新しいビジネスモデル』(2017年2月KADOKAWA発行)を許可を得て編集部にて再編集し、「技術がつながることで広がるビジネス」について解説します。

スマホを中心に「テクノロジー」がつながる

FinTech、位置情報、IoTなど、ひとつひとつが革新的なテクノロジーですが、重要なのは、それぞれのテクノロジーがつながって新しいビジネスモデルが生まれている、ということです。

例えばタクシーを探している人の位置情報を利用してタクシーを配車し、スマートフォン(スマホ)で支払いを受ける。これは位置情報とFin-Tech の組み合わせです。テクノロジーを組み合わせることによって多彩なサービスが生まれているのです。テクノロジーがつながっていることを理解し、ひとつひとつのテクノロジーを単体で見るのではなく、ネットワークとして見ることが重要です。

そして、もうひとつおさえておきたいのは、みなさんが手にしているスマホが、あらゆるテクノロジーの媒介役として機能しているということです。

スマホには電話やメール、インターネット、テレビ、ラジオ、カメラ、財布など、さまざまな機能が搭載されています。便利というだけなら今までの電化製品と変わりませんが、スマホの本当のすごさは、スマホを通じてテクノロジー4.0の扉が開かれていることです。
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スマホを中心にさまざまなテクノロジーが「つながる」ことで新しいビジネスモデルが生まれる。言い換えれば、ひとつひとつのテクノロジーがつながり出したことで、ビジネスが成立するようになったという新しさがあります。
これをスマホ中心のエコシステム(生態系)といいます。

日本企業の多くはテレビやカメラといった個別の製品の性能を上げることに注力していますが、今や、あらゆる製品の機能はスマホの中に組み込まれるようになっており、ユーザーの関心は「つながることで何ができるか」に移っているのです。

スマホの中の新大陸

もうひとつ、テクノロジー4.0を理解するうえで重要なポイントがあります。それは、今の世界では「全てのテクノロジーはスマートフォンに集約されている」ということです。こうした状態を「スマートフォン・セントリック(Smartphone Centric)」と言います。

デジタルアイランド(島)がデジタルコンチネント(大陸)になると述べましたが、スマホはまさにデジタルコンチネントを形成しているのです。
このデジタルコンチネントの中に、従来の録音機やテレビ、電話など、あらゆるデジタル家電が入り込みました。スマホの中に、さまざまな機能やサービスが取り込まれているというわけです。

スマホがあれば地図を呼び出して道案内してもらうこともできますし、ラジオや音楽を聴いたり、テレビを観たり、写真や動画を撮影したり、スケジュールを管理することもできます。

スマホで買い物をして、スマホで決済することはもちろん、リアルの店舗でもスマホで支払いをしたり、電車やバスに乗ったりもできます。
銀行の窓口やATMで行っていた資金の出し入れや振り込み、残高照会をスマホで済ませることもできますし、株や外貨も買えます。ありとあらゆることが、スマホでできます。

世界中で使われているスマホを動かすシステムは、アップルのiOSか、グーグルのアンドロイドしかありません。しかもアプリはほとんど共通に開発されています。
したがって、ひとつの都市で開発された事業が、即、全世界に展開できるのです。つまり、スマホの中に全世界をカバーする新しい経済圏・デジタルコンチネント(大陸)ができたのです。

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第1章 「テクノロジー4.0」とは何か
第2章 「Fintech」で信用の概念が変わる
第3章 「位置情報ビジネス」が60兆円市場になる理由
第4章 「IoT」で生き残る企業、滅びゆく企業

国という単位が無意味になり、iOSとアンドロイドしかない世界

スマホというデジタルコンチネントができたことで、国境というボーダーは失われていきます。スマートフォン・セントリックなサービスを提供する企業にとっては、国家という単位は関係ないからです。

前述のとおり、スマホを動かすシステムにはiOSとアンドロイドしかなく、双方のシステムはほとんどの領域で互換性があります。iOSを使って送ったメールがアンドロイド搭載のスマホに届かないかといえば、もちろん届きますし、電話も通じます。
したがって、基本的にOSはひとつと思ってもいい。ひとつのOSを、国境なく、全世界のおよそ
20億人が持ち歩いているのです。

持ち歩いているということは、まさしく「ユビキタス」ということです。ユビキタスとは、あらゆるものにコンピュータが内蔵され、いつでもコンピュータの支援が受けられる、つまりインターネットなどの情報ネットワークにいつでもアクセスできる環境のことです。
ヒトはいつでも、どこにいても、ネットワークにつながっているというわけです。

テクノロジー4.0の企業は世界にサービスを「まき散らす」

例えば、Uber はサンフランシスコ発の会社ですが、すぐにニューヨークでもサービスを開始。南アフリカ、ヨーロッパへと進出して、5年後には全世界に広がっていました。
今では500を超える都市に展開し、利用できる地域は広がり続けています。

なぜ急速に世界中に展開できたかといえば、Uber にとって重要なのは位置情報、ビッグデータ、FinTech であり、スマホという媒介があれば国という概念は関係がないからです。

これまでの企業は、日本支社を作って日本で拡販し、ドイツ支社を作ってドイツで拡販というように順次、海外展開を図っていきましたが、もはやそのような従来型の国別拡販スタイルを取る必要はありません。
テクノロジー4.0の申し子とも言える企業は、自身のサービスをまき散らすように一気に世界進出ができるのです。
スマートフォン・セントリックでやっていくということは、iOSかアンドロイドの入ったスマホがあればどこでもサービスを展開できる、ということです。
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場所は問わない―国籍なき21世紀の企業の形

Uber はサンフランシスコで生まれながら、本社機能はオランダにあります。世界のどこかで誰かがUber を使うと、その瞬間にオランダの本社に取引情報が送信されます。
運転手に売上の85%を支払う業務は、オランダで行われているのです。

さらにオランダ本社はそこから経費を除いた利益を、タックス・ヘイブン(租税回避地)であるバミューダに本社登録した別会社に送り、最終的にサンフランシスコの親会社に送られる「技術料」は全体の1.45%だけです。

そのため、Uber が大成功しても、米国政府には税収がほとんど入りません。Uberの実際の本社はサイバースペースにあり、世界中のあらゆるオーダーを同じシステムで決済しているので、国という単位はほとんど意味を成していないのです。
これが21世紀の企業の形であり、テクノロジー4.0時代の企業の形です。
この延長線上で考えてみると、カントリーリスクもないということになります。19世紀は国単位で他国を侵略していましたが、20世紀には会社が他国に進出して多国籍企業が生まれ、「企業の多国籍化」という言葉がよく使われました。

しかし21世紀の今、企業は多国籍である必要すらなくなっています。どこにあっても一緒なのです。
現在Uber では3000人以上が働いていますが、クラウド・ソーシングで人材を調達しているため、誰がどこにいても関係ありません。場所はどこであろうと、結果的に仕事さえやっていれば良いわけです。
(次回へ続く。本連載は毎週1回の更新を予定しています。)
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