大前研一「日本が突入するハイパーインフレの世界。企業とあなたは何に投資するべきか」

もしアメリカ合衆国大統領トランプ氏が、反グローバリズム、孤立主義といった政策を推し進めれば、世界は分断され、経済危機に陥るでしょう。世界はこれまで多くの経済危機を乗り越えてきましたが、現在、予見されている危機の要因は「政治」です。今、世界でいくつもの大きな変革が起き、経済を不安定にする要因が生まれています。この連載では、世界と日本にどんなリスクがあるのかを大前氏が解説します。

1990年以降、ハイパーインフレになった国はたくさんあります。

例えばブラジルはインフレ率1000%というすさまじい状況でした。私も見てきましたが、ここまでの事態になると、月の初めに給料を支払わなければ誰も会社に来てくれません。
月の終わりになると、月初めからさらに2、3割通貨価値が下がっているという感覚です。

ついに月給では間に合わなくなって、週給で金曜日に支払うと、今度は月曜日に支払うよう要求されます。
月曜日に給料を支払うと、みんなシティバンクに行って1日帰ってこない。もらったお金をドルに換金するのです。だからブラジルの人は「週4日しか働かない」などと言われていました。
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私はかつてインフレ率1万%を経験したスロベニアにも、ハイパーインフレ時に行ってきました。スロベニアの中央銀行総裁になった方から伺った話ですが、友達に手紙を書くのに、大きい封筒でなければ駄目だったと言います。急激なインフレに切手の印刷が追い付かず、びっくりするくらい大量の切手を貼らなければならないからです。
切手の隙間に住所を書き、郵便局へ行くまでの時間にまた郵便料金が上がって、さらに切手を貼るように求められ、裏にもびっしり切手を貼ったそうです。

喫茶店に行ってコーヒーを飲めば、1杯目を注文してから2杯目を頼むまでの間にコーヒーの値段が上がってしまう、ハイパーインフレとはそういう凄まじい世界です。

ハイパーインフレ時代のサバイバル術

次にハイパーインフレへの対応策についてです。
これからの日本の最大の論点は、少子高齢化で借金を返す人が激減する中、膨張する約1000兆円超の巨大な国家債務にどう対処していくのか、という点に尽きます。

私は、このままいけば、日本のギリシャ化は不可避であろうと思います。歳出削減もできない、増税も嫌だということであれば、もうデフォルト以外に道は残されていません。
日本国債がデフォルトとなれば必ずハイパーインフレが起こります。

そのとき、私たちはどうしたらいいのか? そのときのために今からできる対策を述べておきます。

ハイパーインフレで地獄を見る年金受給者

ハイパーインフレになったら年金受給者は大変です。今までハイパーインフレになった国では、年金受給者が地獄を見ました。年金は固定額ですので、今まで20万円だと思っていたお金が、例えば実質2万円の価値になるのです。

ロシアの場合、高齢者が食料品を購入できなくなり、家庭菜園で野菜を育て、それでなんとか7〜8年食いつなぐという状況になりました。
私はハイパーインフレ時のロシアをこの目で見てきましたが、若い人の生活がよくなる反面、高齢者が非常に苦労していた姿が印象に残っています。
例えば、外出先から家まで5〜6キロメートルあるというとき、若い人はタクシーやバスに乗りますが、高齢者はバスに乗るお金もなくて10キロメートルでも歩いていました。それくらい年金受給者(高齢者)の生活は大変になるのです。

対策としては、資産を、キャッシュを生む不動産(好立地のマンション)や株などへとシフトさせることをお勧めします。タンス預金、定期預金などはいずれも紙くずになるだけですから、持っていても意味がありません。

キャッシュフローを生むものは、不動産以外に、都市部での民泊サービスなどがあります。今アメリカなどではAirbnbでお金を稼ぐ人が増えていますが、日本でも訪日外国人の宿泊に占める民泊の比率が高まっているようです。これは相当キャッシュを生む力を持っています。

株を買うなら、生きていくために欠かせない商品、つまり日常必需品を作っている会社に投資するのがいいでしょう。ハイパーインフレのときはいろいろな産業・企業が経営不振に陥りますが、生活にどうしても必要なもの、これだけは残ります。
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Photo credit: frankieleon via Visual hunt / CC BY

企業はどう備えるべきか

ハイパーインフレに備えて企業がとるべき経営戦略ですが、やはり銀行に預けているお金は紙切れになってしまうので、手元資金を現金で持っていると地獄を見ます。
国家の借金を紙切れにしてチャラにするためにハイパーインフレが起こるわけですから、銀行自体も閉鎖されてしまう可能性があります。そうなれば、銀行にお金を預けている人はもうどうしようもありません。

したがって、少なくとも手元の資金は、外債や外国株に分散しておく必要があります。資金を国内の銀行に入れて、それを担保に将来お金を借りるというような方法は、もう考える必要がないと思います。本当に有効な投資先があるなら、今こそ投資をしてはいかがでしょう。多くの中国人は今、手元資金をビットコイン等にしてどんどん海外に持ち出しています。

企業はとにかく将来に対して積極的に投資をし、M&Aや研究開発に力を入れることが重要です。この先、国内市場が縮んでいくことは間違いないので、伸びている市場に目をつけて新規事業をはじめることをお勧めします。個人も同様に、たとえ5万円でも10万円でも、お金を分散投資することです。

若い世代は「稼ぐ力」を磨け

ハイパーインフレが起これば当然企業のリストラも増えますので、個人は「稼ぐ力」を磨くための自己投資、個人の能力への投資をしておく必要があります。
これからの時代、能力のある人は必ず賃金が上がります。少し時間がかかるかもしれませんが、有能な人材を雇いたいと思っている国内外の企業は、その人の能力に見合う賃金を支払う新しい給与体系を導入するはずです。

また、ハイパーインフレになれば倒産企業も続出しますが、できる人間は必ず誰かがいい給料で雇ってくれます。
世界のどこに行っても勝負できるようにする力をつけておき、いざとなったら世界へ出て行って世界企業で働ける準備をしておくこと。日本語以外に、1、2カ国語くらいは勉強して使えるようにしておくなど、国外で生活することも視野に入れて、今から様々な準備をしておくことが重要です。
Photo credit: DocChewbacca ...

Photo credit: DocChewbacca via Visual hunt / CC BY-NC-SA

私はブラジルのインフレ率1000%、スロベニアのインフレ率1万%と、世界のハイパーインフレをこの目でいろいろ見てきましたが、そんなとき、自分の能力を磨くことに投資していた人は、仕事に困るどころか引く手あまた、という状況になっていました。

そして、最後にみなさんに言っておきたいのは、あまり周りの人の言うことを聞くな、ということです。メディアも含め、みなさんの周りの多くの人は常識的なことしか言いません。
負けるだろうと言われていたトランプ氏が勝ち、世界の金融秩序を変えるかもしれない大統領が生まれてしまいました。ロシアの情報操作のおかげ、とも言われていますが、勝ってしまった大統領(及び、その影響)を今になって除去するのは並大抵ではありません。

ですから、これからの激動の時代を生き抜いていくためには、国やメディアが言うことをそのまま鵜呑みにしないで、自分の頭で考え、自分で判断し、行動する。そして、いつの時代でも、世界のどこでも働けるように、常に自分の能力に磨きをかけていただきたいと思います。
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グーテンブック編集部 グーテンブック編集部