ベンチャー成長必須の知識|「法務デューデリジェンス」で企業リスクをチェック!

【連載第1回】企業のコンプライアンス、コーポレートガバナンスへの取り組みの重要性が高まっている。これらは訴訟などのリーガルリスクを回避するためにも“企業の生命線”とも言える重要課題だ。本連載では、書籍『法務デューデリジェンスチェックリスト』を出版した弁護士・佐藤義幸氏に「法務DD」のポイントについて語っていただいた。

「法務デューデリジェンス」と言う言葉、知ってますか?

―先日佐藤さんは『法務デューデリジェンスチェックリスト』という本を出版されました。法務デューデリジェンスって一般の人にはあまりなじみのない言葉ですが、どういう意味ですか?

デューデリジェンスとは、企業がM&A(買収等)を行う場合に、買収をする企業が、対象企業の実態を調査することを指します。
デューデリジェンス(デューデリ、DDとも呼ばれる)、では対象会社の法務、財務、税務、ビジネス、環境、人事、情報システムなどを調査するのですが、この法務調査が法務デューデリジェンスです。近年では、M&Aの売り手側が取り引に先立って、事業や資産などの売却対象に潜在する問題点を把握するために自ら調査を行う例も増えていて、「Seller's DD」とも呼ばれています。また、当然IPO(上場)を控えた会社にとっても必要不可欠なものです。
この法務DDの必要性が今改めて認識されつつあるのですが、費用等のために法律問題の調査はどうしても後回しになりがちです。
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ベンチャーにこそ必要な「法務DD」

―新ビジネスに挑戦するベンチャー企業にとってもリスク管理は生命線です。ベンチャーや中小企業にとっても法務DDは必要になってくるんじゃないでしょうか。

おっしゃる通りです。ベンチャー企業は成長性を追及するために、多くのリスクを取って新しい事業にチャレンジしていかなければなりません。リスクが多いので、当然リスク管理をする必要性があるんですね。
成長性とリスク管理は常に車の両輪のようなものですから、法務DDなどを行って自社のリスクをチェックし対応策をとることは、ベンチャー企業にとってはマストですね。
重要なのは、今までリスク管理をしてこなかった会社が自社のリスク管理をしようと思ったとき、「結局何がリスクなの?」というものをどこまで自覚できるかどうかです。
皆さん「うちの会社のリスクって何だろう?」と考えると、何が問題なのかが分からない、問題自体を自覚していないことが多いんです。
もちろんそれを自覚しないままでもずっと成長できるかもしれないし、場合によっては、企業としてクリアしておかないといけないリスクが100あるとして、そのうち6、7割くらいに問題があったとしても、そのリスクが顕在化する(問題化する)機会がないまま、上場まで行ってしまうこともあり得ます。

法務デューデリジェンス チェックリスト 万全のIPO準備とM&Aのために

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この記事でご紹介している「法務デュ―デリジェンス」を自分でスタートできるチェックリスト&解説集です。

―でも、後々のことを考えると、それは結構危険なことですよね。

はい。そういう法務面でのリスクを抱えたままにしておくと、いつかそのリスクが顕在化して、訴えられたりとか、不祥事が起きて会社が大損害をこうむるといった結果を招いてしまいます。
もしそういう状況になったとき、ベンチャー企業にとって何が最大の問題かというと、経営層が事業に集中できなくなるということです。
訴訟や紛争をかかえたまま新規事業を発展させていかなければならない。時間もお金も取られる。これは精神的にもかなりつらいです。場合によっては会社をたたまなければならなくなります。
じゃあそこを避けるためにどうしたらいいかというと、そんな難しい話ではないんですよ。
要は今何が問題なのかと、また将来的何が問題になりそうかと、問題点について常にアンテナを張っているかどうかだけの差なんですよ。
そのためには、弁護士と顧問契約をして常に相談できるような体制を取っておくとか、または会社メンバーの中にある程度法律に詳しい人間を入れておくとか、いろんな方策があるんです。
でも金銭的に余裕がないなどの理由で、必ずしも全ての会社がそういうことをできるわけじゃないですよね。
であれば何が問題かを自覚するためのチェックリストを見て、自分の会社の状態をチェック・診断だけでもしてみたら、ある程度自覚ができるはずです。そのためのチェックリストをまとめたのが今回の『法務デューデリジェンスチェックリスト』なんです。

法務DDチェックリストは「会社の健康診断」?

―例えるなら、会社の自己診断、健康診断のようなものですね。

そう、まさにこれは会社の自己診断キットです。
そもそも何が問題かさえ分からないと、その問題が目の前にあっても目に入らないわけじゃないですか。
たとえば従業員の残業代の管理において「従業員の残業を分単位で把握していますか?」というチェックポイントあった場合に、「えっ、うちはそこまでしてないよ。残業は自己申告で10分単位にしているんだけど、それっていけないの?」ということに気づく。そういうことを知っているのと知らずに経営しているのでは、労務トラブルのリスクが違ってくるはずです。
ベンチャー企業でも中小企業でも、こうして自分の会社を一度セルフチェックすれば、リスク管理という意味では少なくとも今よりは格段に向上するはずです。

―もちろんIPOやM&Aをしようとしている会社であれば、この本に書いてあることくらいはチェックしておかないとまずいということですよね。

はい、そう思います。こうした法務DDがもっと企業の間でスタンダード的なものになってくれば、実際に無用な紛争などは避けられるはずです。
そうすれば業界全体が無駄なリーガルコスト(法的費用)をかける必要がなくなり、なおかつ経営者は本業に集中することができる体制が作れる。そんな理想の社会、世の中が作れるのではないかなと思っています。
(次回へ続く)
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