【大前研一「2018年の世界」】「人材格差」が「経済格差」に。モバイル決済1,000兆円の中国と日本を分けたものは何か?

【連載第4回】2017年は日本が没落の一途をたどるばかりであることが明らかになった年でした。国際社会における日本のプレゼンスはこの30年で低下する一方であったのに対し、中国の成長は目覚ましく、世界経済は米・欧・中の三極体制に移行しつつあります。完全なる敗北と緩やかな衰退の中で日本が今やるべきことは、将来を全く視野に入れていない「人づくり革命」でも「生産性革命」でもありません。2017~2018年の世界・日本の動きを俯瞰し、2018年のビジネスに役立つ、大前研一氏による国と企業の問題・トレンド解説をお届けします。

本連載は、大前研一氏による2017年12月末の経営セミナーをもとにした書籍『大前研一 2018年の世界~2時間でつかむ経済・政治・ビジネス、今年の論点~(大前研一ビジネスジャーナル特別号)』(2018年1月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。
今回の記事では、5年で大きく広がった中国と日本の差について、そして2018年日本の見通しをご紹介します。

「人材格差」が即経済格差につながってきた1年

2017年の総括を端的に言うと(図-29)、「人材格差」が経済格差につながってきた決定的な1年であったということです。
もはや日本には時価総額でトップ20に入る企業はありません。企業が今後いくらの富を生み出すかというものを現在価値に引き伸ばしたものが時価総額ですが、世界トップレベルの時価総額となれるようなところがないのです。
中国では国主導でやってきた国策企業が陰り、新しい起業家たちが起こした企業がトップに躍り出ています。
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なぜ中国に差をつけられ、長期衰退に陥ったのか?

「中国は本当にそこまで進んでいるのか?」という疑問に対して見ていただきたいのが以下の数字です(図-30左)。
モバイル決済の規模が1,000兆円。これは世界のモバイル決済の約50パーセントです。日本のGDPと同程度の金額が中国のモバイル決済の規模です。
また、株式公開から10年未満の企業、すなわち新しい企業の時価総額がどのくらいになっているのかを見ると、米国が4.3兆ドル、中国が2.8兆ドル、日本は0.6兆ドルです。日本のデータにはスタートトゥデイ(ZOZOTOWN)などが含まれています。
AIに関する論文数は1位が米国、2位が中国、3位がインドで、日本は7位に落ちています。特許の出願数などはもっと落ちています。
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米国への留学生の数は、中国が35万人、インドは18万人、日本は1万9,000人です。中国から35万人も米国に留学に行くというのは、ある意味恐ろしい話です。中国とのこの格差はこれからどうなるかというと、2つのことが考えられます。
1つは、人材の格差です。米国に留学したうち、半分の学生たちはそのまま米国にステイするでしょう。そして、残りの半分は中国に戻ってきて活躍します。20万人規模でそういった人材が生まれるのです。この格差は年々広がっていきます。
もう1つ、米国にステイする中国人が多いことで、米国の内政に関する中国の影響がものすごく大きくなっていくでしょう。

日本はなぜ長期衰退に陥ったのかと言うと(図-30右)結局20世紀の大成功というものに胡坐をかいて、しかもブルーカラーの大切な技術やリソースを全部海外に持って行ったのに、残ったホワイトカラーの部分を改革しなかったからです。

フィンテックにしても、銀行がクレジットカードで儲けているのでなかなか広まりません。
金利が低く、0.001パーセントくらいしか付かないところに1,000兆円を預けている能天気な国民がいます。この国は安泰でしょう。私は昔から日本を道州制に変えて、地域どうしが競うような国にすべしと言ってきましたし、憲法第8章の地方自治の部分を書き換えて、三権の一部を地方自治体に譲るということをやれと言い続けて30年になりますが、まだこれらの入り口にも立っていません。

大前研一 2018年の世界~2時間でつかむ経済・政治・ビジネス、今年の論点~

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2017~2018年の世界・日本の動きを俯瞰し、国と企業の問題・トレンドを大前研一が解説。
トランプ政権はどうなった? BREXITの行く末は? 中国の存在感はこれからどうなる?
これらの世界の動きに対して日本はどうするべきなのか。
2時間の講義で、2018年のビジネスのためのしっかりした知識を身につけることができます。

2018年不安定化する世界の中で、日本の見通しは?

2018年の見通しですが(図-31)安倍政権は2020年後半まで持つのではないでしょうか。アベノミクスは低欲望社会では機能しませんが、一強ゆえに不問となるでしょう。国家債務は返済不能ですので、徳政令かハイパーインフレでチャラということになると思います。その代わり、日銀が500兆円も腹の中に抱えていますので、それが爆発する、という状況になります。
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周辺諸国との関係は不安定化するでしょう。安倍首相はあまりにも米国一辺倒ですのでその他の国との外交関係は改善しないでしょう。

老後不安は取り除かれません。国はもう、何かあったときは面倒を見ると言ったほうが、1,800兆円を超える個人金融資産が自由にマーケットに出てくることになりよいでしょう。
さらに少子化に歯止めはかかりませんし、移民も根本的には増えません。若者は野心を持たず、無関心、低欲望で、行動半径20kmの“イオニスト”と化しています。イオンモールで高校時代の友達と過ごして一生暮らすというライフスタイルです。暴動も反政府運動もない。静かに衰退する「世界の模範国家」ではないでしょうか。

日本が生き残るための提言

経済については、心理経済学を踏まえ、低欲望社会を前提として、将来に対する不安を取り除くことに専念することです。経済政策はこれ1つです。先述の通り、いざとなってどうしようもなくなった時には国が面倒を見ると言ってやったほうが、この1,800兆円の個人金融資産がバーッとマーケットに出ます。
1パーセント出てきただけで18兆円です。消費税で言えば6パーセント分以上に値します。外交については、ロシア、中国、米国と基本的には等距離を置き、独裁者に迎合しないことです。独裁者の中にはトランプ大統領も入っています。
教育ではトライリンガルで世界のどこでも勝負できる人材を育成します。日本が20万円の月給に甘んじてしまう理由は語学ができないからです。インド人は語学ができるから年収10万ドルまでいくのです。そして、これからは英語だけでは駄目です。
トライリンガルというのは、日本語、英語、プログラミングの3言語です。
また高校まで義務教育として無償化し、大学には生涯2~3回入り直して職能教育を受けます。こういうことをやらなければいけません。

国防は専守防衛をやめて、国益を脅かす勢力に対抗するのに十分な攻撃力を維持します。
財政に関しては、現役世代で借金を返済し、景気刺激よりも健全化に軸足を置きます。財務省も本当はこれをやりたいと思っています。福祉ではバラマキを廃止、自助努力奨励、母子・父子家庭などの全面支援でメリハリを付けるべきです。
(本連載は今回で終了となります。)

大前研一 2018年の世界~2時間でつかむ経済・政治・ビジネス、今年の論点~(大前研一ビジネスジャーナル特別号)

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2017~2018年の世界・日本の動きを俯瞰し、国と企業の問題・トレンドを大前研一が解説。
トランプ政権はどうなった? BREXITの行く末は? 中国の存在感はこれからどうなる?
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