大前研一「テクノロジー4.0が生む『新しい格差』。得するのは誰か」

【連載第2回】「インターネットの次に来る革命」が、世間をにぎわせています。FinTech、位置情報、そして、IoT。「テクノロジー4.0」と称される現在のテクノロジーは、ビジネスモデルや経済のあり様を変えていきます。テクノロジー4.0にはどんな利点があり、今後どのようなビジネスが生まれてくるのでしょうか。

古いやり方に慣れていると、なかなか新しい仕組みには移行しにくいのに対し、生まれたときから電話といえばスマホで、固定電話など見たことがないという人の方が、新しいものに簡単になじむというわけです。

例えばインドで講演していると、度々電気が切れます。インドでは、ブラウンアウト(電圧低下)、ブラックアウト(停電)は日常茶飯事。電話も15回ぐらいかけ直さないと相手に通じません。
講演で皮肉まじりにそう話すと、電話会社の総裁がその中にいて、「昔は15回でしたが、今は4回ぐらいで通じるようになりました」と自慢していました。
しかしスマホではそんな心配もありませんし、相手が電話に出なければメールを送ればいいし、留守番電話にメッセージを残しておいてもいい。

インドの電話会社は世界で一番遅れていると思っていましたが、それが解消されるよりも早く、そんなものがいらない世界になってしまったのです。

国の発想が古いとテクノロジーが阻害される

私はビジネス・ブレークスルー大学というオンラインの学校を運営しており、世界中に受講生がいますが、ネット上で講義を提供しているため、教室に来ずとも授業は受けられます。

既存の大学のようにキャンパスがあって先生がいるというのではなく、スタジオでコンテンツを作って世界中にいる受講生に投げかけ、受講生たちはディスカッションをして学ぶ、というスタイルです。
教授とティーチングアシスタントは、クラスのディスカッションを見ながら指導します。1週間のうちに何コマも行うので、受講生は参加可能な時間帯の授業を選んで受ければよく、全世界どこにいても学ぶことができるのです。

学生の中にはスロべニアのリュブリャナという所で寿司屋をやりながら4年制大学を5年で卒業した人もいますし、ある女子学生のように、どこでも授業が受けられるというので約30カ国を旅しながら学び、卒業した人もいます。

300年もの歴史があって、校舎には蔦が這っているような大学でなくても、それこそザンビアにいても授業を受けられるのです。そういった感覚に、日本人の多くはまだ追いついていないでしょう。

とくに日本の場合には文部科学省という「20世紀の遺物」が存在し、なかなか変化が起きませんが、基本的にテクノロジー4.0には、いつどこにいても自分が情報発信者になり、受信者になり、付加価値を高められるし、学習をしたり、事業を生み出すこともできる、という魅力があります。

学校に行くという物理的な動作なしでも授業が受けられるなど、どこにいてもいいし、時間もシフトできるということなのです。先生である私も、どこにいても「休講」しないで済みます。
日本の学生は不幸にして通学時間が長く、往復1時間半ほどかけて授業を受けるのが平均的な姿です。勉強する時間も圧迫されるでしょう。

貧しい3人の若者が時価総額5兆円の起業家に

少し前の話です。サンフランシスコで3人の若者が同居していました。
みな貧しく、部屋のレンタル料を払うお金もない。そこで3人は、自分たちの狭いアパートを貸すことを思いつきます。
サンフランシスコでは国際会議が多く開かれるので、会議があるときに部屋を貸し、それで得たお金を家賃の支払いに充てようと考えたのです。
ベッドがないのでエアマットレスを持ち込み、社名をエアーベッド・アンド・ブレックファーストの略でAirbnb(エアビーアンドビー)と名付けました。
これが、Airbnb という、時価総額5兆円のベンチャー企業の誕生の経緯です。
Photo by TijsB via Visual h...

Photo by TijsB via Visual hunt / CC BY-SA

初日に3人のお客さんを迎えてスタートして、あっという間にニューヨーク、次はハンブルグです。
スマホさえあれば、借りたい人と貸したい人をマッチングでき、拠点などどこでもいい。宿泊施設が不足している観光地や宿泊費が非常に高い大都市において、一般の人が部屋を提供します(民泊)。
創業から5年で、世界500都市においてサービスを展開しています。
中国の民泊仲介サイト・自在客もAirbnb に負けないぐらいの数の顧客を抱えており、全世界に同じようなシステムが瞬間的にできあがりました。

あまりにシンプルで、あまりに速く、国が妨害しようにもしようがないのです。
日本は旅館業法によってスプリンクラーの取り付けや、受付の設置など、さまざまな規制をしてますが、個人ベースで、友達だから泊めた、というのを防ぐ方法はありません。そのようにしてあっという間にこのような会社が成長していきます。

テクノロジーを受け入れた人しかメリットを享受できない

私はゴールドコーストにあるボンド大学で教鞭をとっていますが、毎年、卒業式の前日にバーベキューパーティーがあります。
学生はタクシーで来てホテルに宿泊しますが、最近はUber を使い、Airbnb で宿泊先を探すようになりました。200ドル程度かかっていた宿泊費が、今では平均50ドル程度と、かなり安くなっています。

昔とは違う行動を取れる人、すなわちこのデジタルコンチネントに足を踏み入れて、コンフォタブル(気持ちよく過ごせる)な人と、手を挙げて「ヘイ、タクシー」と自分でつかまえた車でないと乗れない人や、名だたるホテルに泊まらないと気が済まない人との間では、かかるコストに4倍ぐらいの差ができているのです。

ゴールドコーストでUber が瞬く間に浸透したのは、オーストラリアに規制が少ないからです。
日本のようにタクシー免許を取得するまでが大変ということがなく、125ドルを払って客を乗せていいというライセンスを得れば、翌日からUber に登録できます。

宿泊施設についても、日本のように規制する業法が存在せず、貸したいなら勝手に貸せばいい、というスタンスです。Airbnb などに対する規制はないのです。好ましくない点があれば、宿泊者が口コミで低い評価を与え、お客さんが選ばなくなります。そういう時代になったのです。
旅館業としてではなく、個人が商売しているのです。消火栓がなければ「ない」とネットで開示し、それを知ったうえで泊まればいいだけの話です。

このようにテクノロジー4.0というのは、すでにあなたや私の生活に相当大きな影響を及ぼしています。しかも、これは金儲けのチャンスであり、便利な生活を享受できる手段にもなっているのです。

ITの恩恵を受けられる人と受けられない人との間に生まれる経済格差、情報格差を「デジタル・ディバイド」と言いますが、新しい技術を積極的に使う人間、新しい大陸の方に移り住む人間と、そうではない人間との間には、デジタル・ディバイド以上の格差が広がっていくでしょう。

企業間、個人間のサバイバルゲーム

お金のやり取り、知識のやり取り、それからサービスの提供など、全てにおいて、我々はまだテクノロジー4.0の入り口に立ったに過ぎません。
デジタルコンチネント、スマホベースのエコシステムといった構想はまだ生まれて日が浅く、ようやくこれを開拓すべく、AI やFinTech の技術が同時進行的に生まれつつある段階です。

さまざまなテクノロジーを駆使して、いろいろな国の間の、あるいは企業間の、あるいは個人間の競争、すなわちサバイバルゲームが開始されたわけです。数年ほど前から、そういう世界が非常に明確に見えるようになってきました。
繰り返しになりますが、これからは特定の技術やサービスをひとつずつ別々に勉強していては駄目なのです。半年に1回程度で良いので、全体を俯瞰し、新しい事例や面白い会社が出てきていないかどうかを見渡すことをお勧めします。
(次回へ続く。本連載は毎週1回の更新を予定しています。)
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グーテンブック編集部 グーテンブック編集部