「ガス」と「電力」を比較!市場・利用スタイル・価格設定の違いを5分でおさえる

【連載第3回】「電力自由化」に続くかたちで、2017年4月から始まった「ガス自由化」。「ガス自由化」によって、私たちの生活は何が変わるのでしょうか? そもそも「ガス自由化」とは、何を目的に、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?本連載では、「ガス自由化」と今後のエネルギー業界の動向を解説します。

本連載は2017年6月に発売した江田健二氏の書籍『かんたん解説!! 1時間でわかる ガス自由化入門』を許可を得て、編集部にて再編集し掲載しています。

電力事業とガス事業の共通点、相違点

連載第3回は、電力とガス事業を消費や利用状況、市場規模、料金などの面で比較しながらご紹介します。そうすることで、エネルギー事業のこれからの可能性や全体像を考えていきましょう。

電力・ガスは、私たちの生活になくてはならないものです。両方とも生活を支えるインフラ事業ですので、将来への可能性や抱えている課題が似ている部分が多くあります。
例えば、電力とガスの双方とも、IoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)やロボット、ドローンといった技術革新を活用した新サービスが期待されています。また、これから成長するアジア地域などへの海外展開も期待されています。

一方で、日本の少子高齢化・人口減少により、国内の電力・ガス需要が伸び悩むといった課題があります。電力事業・ガス事業ともに、現状では典型的な国内消費依存型の産業であり、需要は国内の人口推移や経済成長率などの影響を受けます。

制度面で似ている部分としては、全面自由化までの大枠のスケジュールが挙げられます。電力とガスの両方とも、たくさんエネルギーを利用する大口の需要家から自由化が始まっていき、最終的には家庭や商店など全ての需要家に市場が開放されました。

一方で電力とガスで大きく異なる部分として、前述のように参入企業数の差が挙げられます。電力に比べてガス事業を開始することはハードルが高いので、市場に参入した企業が少ない状況です。

このように、電力とガスには似通っている部分も、異なっている部分もあります。
そこで、電力とガスについて「市場規模」「利用のされ方」「料金内訳と価格推移」の3つの観点から、それぞれの特徴や違いを見ていきましょう。

電力とガスの比較1【市場規模】

ガスは9兆円、電力は20兆円の市場規模

ガスは、現代生活を支える重要な社会インフラの1つです。市場規模は、どれくらいでしょうか?
ガス全体では概ね9兆円近くの市場規模となります。9兆円というと金額が大きすぎるのでイメージしづらいかと思いますが、同じくらいの市場規模を持つ分野には、コンビニエンスストア、アパレル、医薬品などがあります。また、同じインフラ系では、携帯電話の契約数が大手3社で約11兆円の規模です。

一方、電力小売の市場を見てみると、ガス小売の倍近くである20兆円ほどの規模があります。
日本のGDPは約500兆円ですので、4%を占めることになります。同じくらいの市場規模のものを見ると、全国の銀行における経常収支は16兆円(2014年度)、物流業界24兆円(2012年度)、外食が25兆円(2015年度)となります。 

ガス全体では9兆円程度の市場規模だと述べましたが、それでは、2017年4月から全面自由化された小口部門(一般家庭・小規模事業者)は、どれくらいの市場なのでしょうか。
これは、ガス全体(9兆円)の約4分の1である2.4兆円となります。需要家数は約2600万件、その内2489万件が一般家庭であり、122万件は小規模な商店・事業所等となります。
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一方で、電力小売市場における小口部門は7.5兆円程度です。ガスにおける小口需要の市場は2.4兆円ですので、電力は3倍の規模です。全面自由化される小口需要も電力のほうがガスよりも大きな市場です。

大口も含めた都市ガス全体としては、全国に約3000万件の需要家がおり、市場としては5兆円程度です。LPガス市場が4兆円程度ですので、全体では9兆円ということになります。
事業者数で見ると、先に述べたように、都市ガス事業者の数は200以上存在します。都市ガスのライバルともいえるLPガスは2万社以上あり、都市ガスと比較すると100倍以上もの数となります。ただし、市場規模でいえば都市ガスとLPガスの双方ともに4〜5兆円程度ですので、LPガスは小規模な事業者が多いことが特徴といえます。
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電力とガスの比較2【利用のされ方】

オール電化に押される家庭用都市ガス

電気やガスは、様々な形で利用されています。
例えばガスは、コンロで美味しいごはんを作ることができますし、電気は、部屋を照らす照明などに利用されています。ここでは、こうしたガスと電気の利用用途(利用のされ方)における特徴について解説します。

今回自由化された都市ガスは、暖房用や給湯用の用途において、灯油やLPガス、電気など様々な他エネルギーとの競争にさらされています。

特に家庭用ガスの場合、今後は「オール電化」(オール電化住宅/給湯や調理、冷暖房などのシステムを全て電気によってまかなう住宅)に代替される可能性もあります。既に新築住宅の市場(全国)ではオール電化率が30%を超え、地域によっては60%を超えています。
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また、住宅全体に占めるオール電化の割合も2015年度の11.8%から、2015年度には18%近くになるとの富士経済による予測もあります。
家庭におけるエネルギー利用に占める電力の割合も、1990年が37.3%であったのに対し、2012年は47.6%と徐々に増加してきています。

ガスより利用形態が広い電気

電気は非常に広範に利用されています。電力自由化によって機器利用を促進するサービスも増え、様々な業種・業態からの参入が相次いでいます。最近は電気自動車・省エネ家電等とのセット割引も現れています。
 
例えば、伊藤忠エネクス・エネクスライフサービスは、日産大阪販売から電気自動車を購入したユーザーを対象に、割安の料金で電気を提供するサービスを開始しています。
静岡ガスグループは、省エネ性能の高い家電製品(冷蔵庫、エアコン、洗濯機、テレビの4機種のうちのいずれか)を静岡ガスクレジット(静岡ガスグループのリース事業者)にてリース契約した需要家に電気料金の割引を適用しています。

電気とガスにはそれぞれ利用のされ方に特徴があります。
状況によりガス式、電気式と適切な機器は異なってきます。ガスが明かりでの利用から熱での利用へと時代と共に変遷してきたように、これからも私たちの知恵や工夫によって変わっていくでしょう。
ガスと電力の双方が全面自由化し、業界間の垣根が取り払われ、今までとは異なる新しい「エネルギーの使い方」が生まれてくるでしょう。

電力とガスの比較3【料金内訳と価格推移】

電気料金の内訳

私たちが普段使っている電気料金は、どのような費用で構成されているのでしょうか? まずは電気料金の内訳から確認しましょう。

電気料金は、【基本料金】+【電力量料金】+【燃料費調整単価】+【再生可能エネルギー発電促進賦課金】で構成されます。「基本料金」は、電気の使用量にかかわらず支払わなければならないものです。

一般的に、基本料金が上がるとブレーカーの許容アンペア値が増えます。つまり、一度にたくさんの家電を使えるようになります。「電力量料金」は、電気の使用量に応じて支払う部分です。たくさん電気を使うほど、電気料金も高くなっていきます。

「燃料費調整単価」は、原油、LNGおよび石炭の燃料価格(実績)の変動に応じて、毎月自動的に電気料金を調整するものです。電気は、原油などを元に作られるので、原料となる原油価格を電気料金に反映するような仕組みです。「再生可能エネルギー発電促進賦課金」は、再エネ電気を電力会社が買い取る費用に充てられるものとなります。
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都市ガス料金の内訳

都市ガスは【基本料金】+【従量料金】により構成されています。ただ、従量料金の中には「原料費調整による調整額」というものが含まれています。この「原料費調整による調整額」は、LNGやLPGといった原料費の変動に応じてガス料金を調整する制度です。電気の燃料費調整単価と似ています。

基本料金は、都市ガスの契約をしている限り、毎月払うものです。一般的に、使用量に応じて段階的に高くなり、トータルのガス消費量が少なければ安く、多ければ高くなるように設定されています。

従量料金も電力と同様、ガスの使用量に応じて支払う部分となります。たくさんガスを使うほど、ガス料金も高くなっていきます。

LPガス料金の内訳

LPガスについては、電力や都市ガスのように料金形態が1種類ではなく、事業者によって多種多様です。

資源エネルギー庁の調査によると、2016年2月時点において料金情報を公表しているのは169社中2社でした。
料金設定を公表していない企業が多いため、一般社団法人全国LPガス協会は、料金の透明化を図る観点から、平成27年に自主的ガイドラインである「LPガス販売指針」を改定しました。その中で、LPガス販売事業者に標準的な料金をホームページ等で公表することを求めています。
その流れから公表を予定している事業者もおり、徐々に透明性が高まっていくことが期待されます。
(次回に続く)

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