書籍化・出版にかかるお金の話【出版社をやってみて分かった「本と企画のつくり方」】

【第5回】この連載では、本Webサイト「biblion」も運営している出版社(株式会社masterpeaceと申します)でこれまで100冊ほどの書籍企画・編集・発行をお手伝いさせていただいた筆者(代表兼編集者をやっております)が、自社でお手伝いさせていただいた企画やプロジェクトの経験からお伝えできる範囲で「シンプルな本づくりのポイント」をお話させていただきます。

前回までは、テーマの絞り方と本を手に取ってもらうためのアプローチ、本づくりの流れについてお伝えしてきました。
今回の記事では、書籍出版に関するお金の話(費用)についてご紹介します。
1.書籍づくりにかかるお金の話
2.ソフト(本の中身)を作るために必要な費用
3.ハード(モノとしての本)を作るために必要な費用
  *オンデマンド印刷
  *オフセット印刷
4.販促・宣伝にかかる費用
5.費用の負担とリターン

書籍づくりにかかるお金の話

出版に関する費用は、大きく「ソフト」「ハード」「販促・宣伝」の3つに分けられます。
ソフトとは、本の中身を作ること。ハードとは本をモノとして印刷・製本することなど。販促・宣伝は、作った本を多くの方に届けるために必要なことです。

ソフト(本の中身)を作るために必要な費用

編集者やライターさん、デザイナーさん、その他本づくりに関わる人の人件費は、本の中身を作るために必要な費用です。これはどこまでの作業を著者さん自身が行い、何を外部(プロ)に依頼するか、で変わってきます。

他の出版社さんの数字までは正確に把握していませんが、弊社の場合の書籍制作にかかるコスト試算の例を2つご紹介します。なお、この見積は、著者さんに制作コストを負担いただいた場合の見積サンプル(つまり自費出版モデル)です。

■すべての書籍制作工程をプロがお手伝いした場合のコスト試算例

下の見積はあくまで一例ですので、制作する本の内容やボリュームによって費用も変動しますが、費用の項目が大幅に増えることはありません。
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赤枠で囲んでいる項目が「書籍の中身を作るのにかかる作業項目」です。(その下の1行は弊社の出版・流通サービスメニューです)

例えば、ライティング費用はその本の文章量によっても変わりますが、150-230ページ程度の一般的な書籍であれば弊社では上記お見積をベースに対応させていただいております。
また、取材や校正については、クォリティをさらに上げようという場合に回数を増やして対応させていただく場合もあります。

(弊社の場合、書籍発行時に大きく書籍を活用して広げられることが明確といった場合などは、この試算をもとに大きく調整します。そのあたりは著者様と弊社で一緒に組み上げるビジネスモデルに応じて考えることができます。)

■著者さんが原稿を作成し、表紙デザインなど必要なことだけをプロがお手伝いする場合

こちらは、著者様が原稿を用意できる場合に、書籍化・発行に必要なことだけをお手伝いする場合のお見積例です。表紙デザインや書籍化、簡単な編集支援、発売までの進行管理等を編集部でお手伝いさせていただきます。
 (5494)

1つ目の見積と比較していただくと、書籍の中身を作成する項目が大きく削られている分、著者様にて「原稿」や場合によっては「挿入写真・図版」などもご用意いただく必要があります。
本の制作費用は出版サービス・出版社によって異なり、もっと安価に出版できるサービス(著者さんの対応範囲が大きくなり、サポート範囲が小さなサービス)もあります。逆にもっと高い出版社さんも多くあります。ご自身のやりたいこととできることから、どこのサービスを活用するのがよいか、まずは問い合わせして比較するのが良いと思います。

ハード(モノとしての本)を作るために必要な費用

印刷・製本にかかるコストは、ハード(モノとしての本)を作るためにかかる費用です。
ハードの費用は、ページ数や作成部数、どういう印刷方法を選択するかによって変わります。

*オンデマンド印刷

必要なときに必要な部数の印刷を行う、高速デジタル印刷機による印刷のことを指します。この仕組みを利用して少部数の書籍や雑誌を印刷・作製することをオンデマンド印刷といいます。
オンデマンド印刷の場合、少ない部数の印刷が可能になりますが、単価は部数によらず一定なので、たくさん印刷しても印刷原価(単価)は下がりづらくなります。

*オフセット印刷

従来のインキを紙に転写する印刷は、版を印刷機に取り付けて印刷するため、版の作成費用がかかりますが、部数が多ければ多いほど1冊当りの単価が安価になります。ただし、小部数だと単価はかなり高額になってしまいます。
印刷後、インキを乾燥させるという工程なども経るため、印刷データができてから印刷物になるまでに一般的にはオンデマンド印刷よりも長く時間がかかる傾向にあります。

弊社では、感覚的には1000部を超えるくらいではオフセット印刷を選択します。600~800部あたりはどちらでやっても1冊当たりの印刷コストが大きくなりがちで、一番損した気持ちになります。

また、本は、原稿を印刷して完成、とはなりません。バラバラに印刷された紙をまとめて表紙をつけ、本として組み込むための「製本」という工程があります。
製本にも種類があり、ハードカバーと言われる「上製本」や、比較的簡易でリーズナブルに作ることができる「並製本」などがあります。また、表紙カバーや帯の作成にも手間や製作費用がかかります。

販促・宣伝にかかる費用

販促・宣伝にかかる費用は、販促・宣伝にどれほど力を入れるのかによって大きく変わります。基本的な費用としては、本を取り扱ってもらうための書店への営業に必要な人件費や、プロモーションにかかるコストがあります。また、新聞や雑誌の書評、書評サイトで紹介してもらいたい場合は、献本用の本の準備や郵送にもコストがかかります(取り上げる本は先方で選定しますので、献本しても紹介されるとは限りません)。

Web書店に対する販促活動としては、キャンペーン掲載の調整や、Web広告の実施などが考えられます。Amazonの書籍広告の場合、Amazon上での検索キーワードに応じて、登録した書籍を表示するといった広告を掲載し、クリックされた回数に応じて費用負担することができます。

また、書籍発行を広く知らせる目的で、プレスリリースを作成し、各メディアに送るといったことも宣伝の一つとしてよく実施されます。

<書店に並べるときにやること>
・書店営業
・ポスターや販促物
・雑誌や新聞の書評(献本する)

<Web書店中心に流通している弊社がよくやっていること>
・プレスリリースを作って、各種Webメディアに掲載してもらう。
・Web広告(クリック課金でお金を払う)Amazonの広告やGoogleの検索広告など。
・Web書店のキャンペーン掲載

費用の負担とリターン

これらの費用をだれが負担するか、、というのは「企画内容」や「出版スキーム」によって変わります。

 1:出版社が全部を負担する。(いわゆる商業出版)
 2:著者が全部を負担する。(いわゆる自費出版と呼ばれる出版方法です)
 3:出版社と著者で分担する。
 4:他の方法で費用を調達する(クラウドファンディングでまかなう、など)

本を制作する最初の工程である企画づくりで、費用の負担については明確にしておくとよいでしょう。

費用の負担方法によって、リターン内容が変わることもあります。たくさんリスク(コスト)を負う場合は、その分リターンもほしいですよね。

 ・著者さんが大きく負担して、リターンも著者さんが大きくもらう。
 ・出版社が大きく負担する場合は、リターンも出版社が大きくもらう。

ビジネスで考えると当たり前の構図ですが、本を制作する最初の段階で、どのような負担方法が企画に合っているかも考えておく必要があります。

弊社の出版サービス「グーテンブック」では「電子書籍で15%前後・印刷書籍で10~15%程度」をお支払いしています(ページ数等によって製造原価の構成が変わるため、変動はあります。また記事冒頭でご説明したリスクをどう負うかによっても変わります)。一般的には、紙の書籍の印税は「10%」であることが多いように思います。

電子書籍の印税は、高い出版社さんはぐんと高いですし、Amazonの電子書籍Kindleに、Kindle限定で直接流通(出版社を通さずに)させた場合、70%という高い印税を手にすることもできます。

ただ、これもビジネスモデルをどう作るかによって変わってくるお話です。弊社の企画で、生まれた収益を著者さんとビジネスパートナーとして、単純に折半している企画もあります。
これは、販促や在庫管理にかかるコストも計上したうえで、利益を分配するという、ビジネスとしての組み方です。

今回は、本作りにかかるコスト全般についてご紹介させていただきました。

本づくりをお考えの方は出版サービス「グーテンブック」まで

著者:窪田篤

good.book(グーテンブック)という出版サービスを運営している窪田と申します。
この連載では、もともと編集者でもなかった私が、様々な著者さん・編集者さんとご一緒するなかでわかった範囲で、「本や企画作りのポイント」について簡単にお話させていただきます。(生粋の書籍編集プロの皆様からはお叱りのお言葉をいただく内容もあるかもしれません。門外漢ゆえの、、としてご了承ください。)

弊社の出版サービスは、主に電子・印刷書籍を複数のWeb書店を通じて販売するというものです。大手出版社さんの「全国の書店に書籍を並べて販売する」出版方法とは主に流通面で異なる点は多いのですが、企画の作り方や書籍制作の進め方についてはそこまで大きな違いはないかと思います。

「これから本を作りたい著者さん」あるいは「書籍化したら面白そうなネタがある企画者さん」のご参考となれば幸いです。

尚、弊社の発行企画の傾向から、特に「書くことが好きでただ書きたい!」方よりは、「書籍を作って、人に伝えることでお仕事や様々な目的でなんらかの効果を生み出したい」と考える人のための本づくりを中心にお話させていただきます。

株式会社masterpeace代表取締役社長。アクセンチュア株式会社で大規模システム設計/運用プロジェクトに参画。2013年、good.book(グーテンブック)立ち上げのため、masterpeaceに参画。新規事業企画・コンテンツ編集責任者を兼任。2018年5月より現職。
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